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異世界286日目 1月11日(土) ②ブラックドラゴン温泉ランド ~おじいさん達までマッチョボディ~


 メルの作り出したゲートに入り、黒い光が収まると温泉街の風景が映った。以前にも増して活気に溢れており、馬車もかなりの台数が行き交っている様子が見える。


『遊べて癒せる温泉! ブラックドラゴン温泉ランド近日グランドオープン!』


 そんな見出しがデカデカと書かれたのぼりが多数風に揺られていた。そんな景色に園児達もきょろきょろと辺りを見回してはしゃいでいる。尚、はしゃぎ過ぎたサラちゃんは既に二回程レインにキャッチされている。


 宣伝までばっちりしてるとは……しかしまだオープンしていないのにこの活気か。まあ、温泉はランドだけじゃないみたいだし、以前宣伝してた足湯の方も人気があるのかな?


「転移魔法もそこそこは使えるようじゃの。中々優秀な娘さんじゃないか」


「すみません! すみません! ほんっとうにすみません! 転移魔法使えてすみませんっす!」


 何故かメルがおじいさんに謝り倒している。ところでいつになったら腕を離してくれるんでしょうか?


「おじいさん、メルさんが怖がってますよ」


「そうじゃのう、やはりここは親しみを込めて名前で呼んだ方がいいかのう?」


 おばあさんがたしなめてくれているが、別におじいさんは悪い事はしてないんですけどね。さっきからビビりまくっているメルの方が失礼なぐらいだ。


「お、あれだな。なかなかいい感じじゃないか」


 しばらく歩くと目に入ったのが以前来た時には無かった大きな建物があった。イリアさんは平然と感想を述べているが、一見するとまるでお城のようである。いい感じどころの話では無い。

 一から立てたんですね……この短期間でよくもまあ。財力も去る事ながらブラックドラゴンさん総出で作ったんだろうな……。


「ほう、メルや中々立派なものじゃのう。これは楽しみじゃて」


「ひぃぃっ!? どうかご慈悲を! お願いっすぅ~! 仲間は、仲間だけはぁ!!」


「メル、そろそろ慣れよう。おじいさんにも迷惑だからさ……」


 その一言にもう涙を流して震え出した……どうやら名前呼びは逆効果だったようだ。本当に困ったものだ。おじいさんも対応に困ってるぞ? しかし見るだけでそんなに怖がるもんのだろうか。

 確かにレイバーさんのごっこ遊びや聖樹の森で圧倒的強者だと言う事は分かってるけど……強い人にはその真価が分かるんだろうな。

 ただのおっさんには何一つ分かりませんが。


 メルが腕にしがみついているので非常に歩きにくいが、なんとかお城のようなランドの扉の前まで辿り着いた。

 尚、感触はまあ、あれだ……無い。いや、神経を集中させれば感じ取る事も可能かも知れ――


「和也、どうして目を閉じて神経集中してるのかな? またいつものやつだね。本当に懲りないよね?」


 メルと震えを共振させた。震えている内容は違うけど……。


 そんなルーミィのプレッシャーを背に浴びながら扉をくぐり、内装を見た瞬間、震えも止まり思わず涙が出そうになった。


 エントランスには鹿威しが設置されて乾いた音を響かせており、床は畳で統一されていたのだ。完全なる日本テイストであった。


「ど、どうっすか? カズヤさんの注文通りの内装にしたっす。この畳っていうのは裸足で歩くと気持ちいいっすよ」


「これは草を編み込んでいるのでございますね」


 レインは珍しそうに床の畳を眺めていた。この世界には無い床だからね。


「作り方までは書いて無かったっすけど、情報から試行錯誤して従業員みんなで作ったっす! これで合ってるっすかね?」


「100点満点ですよ。完全に畳を再現してくれてます!」


 思わず満点を出してあげた。素晴らしい出来である。しかし現物を見ずに情報だけで畳を作り出すとは。本来の畳のサイズの規格と違って一枚一枚はかなり大きいが、それはブラックドラゴンさんのパワーの産物だろう。しかしこの世界のドラゴンさんの器用な事……。


「ランドには温泉ゾーンに加え、プールゾーン、リラクゼーションゾーン、宿泊ゾーンなど他にも様々な施設があるっす。その際のお会計はこのマジックアイテムを使って加算、清算される仕組みっす」


 メルが見せてくれたのはリストバンドである。なんか怪しげな石のようなものが付いているが、元の世界の健康ランドで採用されているお金を持たないで買い物が出来るシステムである。これも魔法で再現出来たようだ。


「アメリア、プールに行きた~い!」


「サラも~!」


「……久しぶりに浮きたい」


 園児達は早く遊びたくて堪らない様だ。よし、じゃあまずはプールゾーンから堪能させてもらうとしようかな。


「じゃあ、メル。そろそろカズヤから離れろ」


 イリアさんがメルを引き剥がしに来てくれた。助かります。このままでは脱衣所までついてきてしまう所でしたから。


「い、嫌っす! 怖いっす! ああ……」


 引きずられながら女性用の脱衣所に連れて行かれた。でもこっちにきたら魔王様の前で着替える事になるからね? 俺の前でも命を乞いながら、全裸になろうとするぐらいだから魔王様の前でも当然の如く脱ぎ散らかすだろう。


 それは非常に厄介だ。


「なんか儂、随分と怖がられとるのう……」


「お気になさらないで下さい。じきに慣れますから」


 まあ、魔王様と一緒にプールに行く事自体が慣れる事では無いかと思うが。この際そんな小さな事は考えないでおこう。


 男性陣は俺と爺やさん、そして魔王様の三人である。どうやら魔王様はプールに入るのは若返った姿で行く様子だ。知らない間に若い兄ちゃんになってるし。たくましい胸襟が眩しい。

 しかし職業は魔法使いらしいのだが……完全に肉体が戦士そのものだな。筋骨隆々なんですけど? バストラさんやアレクと大差無いじゃないか……。


「ナイトメア様のそのお姿を見るのは久しぶりでございますな」


 そう言いながら服を脱ぎ始める爺やさんだが、その肉体はとてもご老人とは思えない引き締まった体つきであった。正直……こちらもおじいさんと大差無い……でもそれ以上に目を引く物がある。


 全身に刻まれた無数の傷跡である。切り傷の後、火傷と思しき跡が数えきれない程……こ、これは……。 


「そうかのう、つい先日のような気もするがの。ところでその傷は幼き古龍を守る為に数百万の軍勢に一人で立ち向かった時のものかの? 先代古龍よ」


 ……えっと爆弾発言が飛び出したんですけど。じ、爺やさんって古龍やってたの? 俺、めっちゃ顔踏んだけど!? しかも戦歴が一対多数とかのレベルじゃない! どうやってその数を相手に立ち向かったんですか? しかもどうせ一人一人が神クラスとかそんな感じなんでしょ!?


 ど、どおりでメルがこの二人に畏怖を覚える訳だ……ただの化け物じゃないか。


「ちょ、ちょっと私、トイレに行って来ますね……」


 危うくメルと同じ事になる所だった……。


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