異世界269日目 12月25日(水) ①ウィンターフェス ~罪状を読み上げられる~
クリスマス当日を迎え、寒さに身を縮めながら眠たい目をこすり、顔を洗った。もちろん、お湯で。
「はぁぁ~、暖かい……」
さくら保育園は蛇口を捻れば水やお湯は出るし、電気やガスも通っている。今更だけど大変素晴らしい事だと痛感するなあ。特に冬場は身に染みる……感謝、感謝と。
さて、今日はカップケーキ作りに取り掛からなければならないのだが、先程から鏡に映った二人の美少女が気になって仕方が無い。じっとこちらを凝視している……歯磨きしてるおっさんなんて見てどうするの?
どうやら俺が気付いた事を察したようで二人揃ってこちらに向かって来た。ドカドカと音を立てながら……少々足音が怒ってるような気がするんですけど?
「何も無かったよね? ク、クリスマスの雰囲気に負けて、その……あ、ぁんな事とか……してないよね!?」
声が小さくなったり急に大きくなったりと中々に忙しい女神様だ。あんな事って、キスはしてませんよ? されかけましたが。
「はい、何もありませんよ」
イリアさんの女神様モードには驚いたけど。でもいい年したおっさんが『おいで』されて抱きしめて頭撫でてもらったなんて言えない。俺もポーカーフェイスぐらいは出来る! さあ、素数を数えよう、割り切れない数字はと――
「なにかございましたね。カズヤ様、嘘はいけません」
「ほう……嘘、をお付かれになるのですか? 寿さん」
一瞬でバレただと……レインって読心術出来たっけ? そんな技術何処で身に付けたの? 今のは顔に出してしない自信があったんだけど。それにいくらクリスマスだからって朝一から女神様モード【恐】にならなくても……。
「と、とりあえず歯磨きの途中なので……」
「顔を洗いましたら速やかにリビングに来て下さい、尚、拒否権はありません」
うう、どうして……三人で決めたんじゃないんですか? キスはされてませんし、お楽しみなんてしてないのに。それにどちらかといえば俺は振り回されている被害者なんですけど……。
流石に園長室は寒いので三人揃ってこたつに入っている。しかし足はもちろん崩していない。見えないだろうが綺麗に折りたたんでいる。しかし、やはりこれは悪魔の道具だ。お説教するのに園長室では無く、こたつのあるリビングが採用されるとは。
「それでは白状して頂きます。また例によってイリアさんの頭を撫でて抱きしめたのですね?」
先読みで罪状が言い渡された……最早定番の内容と化しているんですね。でも今回はかなり特殊なケースなんですよね……あんまり言いたく無いなぁ。
言わないと言う選択肢は与えて貰ってないけど。今の俺に拒否権、黙秘権は……無い。
「い、いえ……その逆、でして。なんといいましょうか、あのですね……」
『?』
俺の答えが想定外だったのだろう。二人して首を傾げた。最近息ぴったりですね。いい感じのユニゾンが取れてますよ。
「私の頭を撫でて優しく抱きしめられました……」
「イリアさんが……?」
「そ、そのような事を……」
なにやら二人で話をしたいとの事で早くも俺は無罪放免、いや仮釈放された。そのまま朝食を作る為にリビングから離れたのだが、当の二人は険しい顔をしてこそこそと話をしていた。
まあ、被害がほぼゼロであったのはありがたい。それに早く朝食の準備をしてカップケーキを焼かねばならない。ウィンターフェスに遅刻してしまう。
だけどその前に神ポイントだけチェックしておこうかな、クリスマス行事もした事だし神ポイントに変動もあるだろう。
――神ポイント――
・前日までの神ポイント 3124ポイント
・日常保育 3人 6ポイント
・初めてのクリスマスパーティ 300ポイント
・メリークリスマス♪ 500ポイント
・現在の神ポイント 3930ポイント
なにぃ!? クリスマスプレゼントが届いてるだとぉ!? しかもポイント高め! こんなサービスが隠されていたとは。しかも音符付き……。
ま、毎年貰えるのだろうか……これはいい子にしてなきゃな!
「見て下さい、神ポイントのクリスマスプレゼントが――」
「やったあ! あたしの勝ちだよ~!」
「うう……さ、三回勝負ですからまだ勝機はあります! 次は勝ちます!」
なんかさっきまで話し合いをしていたと思ったら、なにやら今度は白熱したあっち向いてホイしてる……。何してるのさ……まあ、いいや。早く調理しないといけないし、そっとしておこう。
神ブックを小脇に抱えリビングを後にしたのだが、やはり不便だ……地味に大きいもんな、神ブックって。文庫本ぐらいのサイズなら持ち運びしやすいんだけどなぁ。
ブックホルスター、早く仕入れないとな。手ぶら慣れし過ぎて結構面倒だ。フェスが終わって落ち着いたら発注しよう。
≪≪≪
「……よし、これで百個! クッキーもデコったし、準備完了!」
キッチンから声が漏れたのだろう、ルーミィとレインもやって来た。呼ぶ手間が省けて良かった。ちなみに食べちゃダメだからね?。
「さあ、ケーキとクッキーを持ってイベント広場に向かいましょう。みんなが楽しみにして待ってると思いますので」
せっせと三人で準備を進めている最中、ルーミィがこちらをじっと見ているのに気付いた。どうしたんだろう、やっぱりカップケーキ食べたいのかな? 仕方ないな、一個づつだけ食べさせてあげ――
「か、和也、ウィンターフェスが終わったら、私とその……デ、デートしよ! 二人で……」
ああ、その順番を決める為のあっちむいてホイだったんですね。薄々感づいてはいましたけど……ルーミィが勝ったみたいですね。
「カズヤ様! ルーミィ様が終われば次は私ですから! そ、その、何度もいいますがお楽しみとかは無しですからね!」
「ちょ、ちょっとレイン!? そ、そんな事しないよ! レインだってダメだからね!」
なんか二人して頬を染めながらけん制し合ってる。そうか、すでに波乱の幕開けという事か……。
「わ、分りました。それでは、ウィンターフェスが終わればルーミィとデートして、園に戻ってみんなでパーティをして、最後にレインとデート。これで宜しいですか?」
二人して嬉しそうにうんうんと首を縦に振っている。クリスマスにこんなハードスケジュール、生まれて初めてだ。クリスマスなんて関係無しにPCとにらめっこしてたもんなぁ……。
それで家に帰って一人でケーキ作って、一人で食べて……。
あれ、おっさんなんだか視界が滲んで来たよ? まさかこんなにデート、デートと言える日が来るんなんて……。
まあ、まだ大人になりきれていない子供相手ではあるんだけどね……。




