異世界268日目 12月24日(火) ⑨イリアさんとの公認デート
「皆さん、お疲れ様でした。どうぞ、暖かいお茶です」
無事に園児達にクリスマスプレゼントを配り終え、リビングで一息ついている。しかし、ルーミィの元気が無い。あれはトラウマになっても仕方無いレベルだったからなあ……俺だってアレクとバストラさんとお風呂に入った時は心が折れそうになったもん。それを人数マシマシ至近距離だったもんなぁ……。
さて、明日はウィンターフェスだし、今日はハードだったから明日に備えて休むと――
「よし、じゃあ行くぞカズヤ!」
何処にですか……? もう夜も更けて来てますよ?
「今からあたしとデートだ!」
またそんな事を言って……ルーミィ達に怒られますよ? というより寝ましょ? 明日はこの村で初のウィンターフェスなんですよ?
『……』
ほら、怒られ――無いの!? どうしたの、二人とも!? デートって直接言ってるし、今年最大の事件だよ! 黙認しちゃうの? 殺気飛ばされて洗脳とかされちゃったの!?
「イリアさん……約束は守ってよ!」
「ズルはダメですからね!」
なんか念押しされるようですが……なにその約束とかズルとか。
「ああ、分ってるよ、キスとかは無しだろ? 言っておくが二人もだからな!」
えっとですね、おっさんはとても眠たいのですが……それに明日は百個のケーキとクッキーを作ると言う大仕事が待ち構えている訳でしてですね……。
「え、えっちなのも無しだからね!」
「そ、そうですよ! お楽しみなんで絶対ダメですからね!」
俺は一体今から何をされるんだ……クリマスイブ、もう終わりそうなんですけど?
≪≪≪
事情がよく分からないまま連れ出され、冬の夜道をイリアさんと二人で歩いている。流石にサンタコスでは寒過ぎるのできっちり俺の服を強奪された。おそらく最初から狙っていたんだろう。
ちなみにサラちゃんのお宅に伺った時に揉めていた内容というのは、俺をクリスマスの日にどう振り分けするかで言い争っていたらしい。
いつの間にか俺も大層な身分になったものだ。こんな美女と美少女二人から取り合いになるなんて。ただのおっさんなんですけどね。不思議で仕方無い。
「本当は独り占めしたかったんだが、『カズヤはみんなにもの』って言ったのはあたしだしな。さあ、伝説の樹に行くぞ~!」
げ、元気ですね……。どうやらイリアさんが最初のデート相手らしいのだが、少し助かる所もある。俺の今の格好はサンタクロースだ。先日の狼さんに襲われてコートはボロボロになって廃棄処分した為、冬用の防寒着ははサンタクロースの衣装しか無い。
イリアさんは防寒着なしでルンルン気分で歩いているが……。まあ、暖かい上下の服ではあるにはあるが。
そんな理由で伝説の樹に行く前に新しいコートを新調させてもらおうと思っている。じゃなければクリスマスが終わってもこの真っ赤な上着を着続ける事になってしまう。まあ、サンタクロースの衣装は嫌いではないが、流石にこの冬をこの衣装で過ごすのはちょっと……。
≪≪≪
「これなんてどうだ?」
雑貨店に先に寄らせてもらい早速イリアさんに新しいコートを見繕ってもらっている。持って来てくれたものは機能性、防寒性もばっちりだ。流石はコーディネーター!
「ありがとうございます、代金の方をお支払しますね」
カバンに手を伸ばして硬貨の入った袋を取り出した。ちなみに今はブックホルスターも無いので神ブックもカバンに入れて持ち運んでいる。結構不便なので早々にホルスターは再発注させて頂きたく思っている。
「それはあたしからのプレゼントさ。クリスマスは子供だけにプレゼントを渡すものじゃ無いんだろ? 受け取っておきな」
まさかのクリスマスプレゼントを頂いた。でも俺は何も用意していないし、流石にイリアさんに選んでもらって『じゃあ、それをどうぞ!』と言う訳にもいかない。これは困った……。
「さあ、早く伝説に樹に行こうぜ? 朝になっちまうよ」
それもまた困る。明日、いや多分日付は変わってるだろうから今日かな。あまり悠長にしているとウィンターフェスに支障が出てしまう。
「ありがとうございます、それではありがたく頂きますね。私からも何かプレゼントを考えておきますので」
イリアさんはルーミィやレインと違って新しいスライム料理とかにも食らいつか無さそうだし……何時もプレゼントを用意してくれている人に渡すプレゼントかぁ……いつもお任せで頼っているのでこれは超難問だぞ?
雑貨店を出て伝説の樹の方に歩いて行くと何故か周辺には全く雪が積もっておらず、付近は少し暖かい気がした。聖なる力はこんな効果もあるのか。恐らくゲートの仕組みと同じなのだろう。
すげえなこの樹……。
ツリーを見上げると、淡く光る魔法の明かりが飾りに反射し幻想的な景色を作り出している。それに日付の変わるこの時間、日中や夜は沢山の人で賑わっているが、この時間帯は流石に人はいないようだ。貸切状態である。
「やっぱりこの時間にして正解だな。これなら邪魔も入らないからな!」
確かにムフフメイドに見つかった日には何を言われるか分かったもんじゃない。でもおそらく今頃はお楽しみ……おのれ、クレイド!
「ど、どうしたんだ!? 急に険しい顔になって、ま、まさかあたしと一緒じゃ嫌なのか……」
イリアさんの表情が一気に曇ってしまった! しまった心に合った負の感情がにじみ出てしまったか!?
「ち、違います! イリアさんと居てそんな気分になる訳無いじゃないですか!」
「そうか。それなら良かった……」
クレイドの事を考えるのはよそう。完全に逆恨みだし。それに彼はずっと一途にフラムさんの事を思い続けてきた訳だし、そこにおっさんの逆恨みを入れるのは完全にお角違いだ。
「あのさ、カズヤ……あの時、どうしてあんな無茶をした?」
殺気こそ無いが今度は怒りをあらわにした表情となっている。おそらく聖水を取りにいった事を指しているのだろう。その件はですね、何度もご説明させていただた通り――
「ルーミィを助ける為とはいえ、レインと園児達が少しでも遅れていたらお前は死ぬところだったんだぞ!?」
あの狼さんとの激闘か……いやロクに戦ってもないけど、正直、確かにギリギリだったと思う。でもそれはイリアさんも同じだ。あの時の容体は完全に末期であった。目の下にもクマが出来て衰弱しきっていた。後一歩遅ければ手遅れになっていたに違いない。
「……正直に言ってくれ、ルーミィがカズヤの一番なんだろ?」
その言葉を出したイリアさんの表情は今まで見た中で一番の悲しみが滲み出ていた。
「そ、そんな事は。それに誰が一番だなんて――」
「命を捨ててまで守ろうとしたんだろ!? そう言う事じゃないか!!」
叫び声が夜中の広場に響き渡った。確かにルーミィを命をかけて守ろうとした。でもイリアさん、それは違いますよ?
「私がルーミィを命をかえりみず助けたのはその先の事……イリアさんを助ける為です。レインも、園児達もみんなその事に向かって出来る事をしました。ただそれだけです」
静かに返事をするとそのまま広場に静寂が戻った……雪のせいでより深く。
「そ、そうだったな。あたしを助ける為に……みんなを危険な目に。あたしはとんだ厄介者だな……」
イリアさん、それも違いますよ。
「みんな、イリアさんの事が大好きなんです。もちろん、私もその中の一人です」
「……やっぱりカズヤは素敵だ……最高の男だよ!」
その点については疑問に思う。正直、この頃もてはやされ過ぎだ。このタイミングで今まで聞くに聞けなかった事をイリアさんに聞いておきたい。
「私なんかの何処がいいのですか?」
この異世界において俺の戦闘能力は皆無、保育園の先生をしているが教育機関に勤めていた訳でも無く、いつも体当たりだ。正しい教育とは程遠いものだろう。
そして俺自身、状況によっては消滅してしまうかもしれない不安定な存在でもあり、それほどまでの魅力があるのだろうか?
「ただ、料理が出来るだけの……おっさんですよ?」
特技といえばこれしか無い。淡々と喋る俺にイリアさんは少しはにかみ、俺の目を見て口を開いた。
「……あたしへのクリスマスプレゼント、リクエストしてもいいか?」
そのまま前に大きく腕を広げ、イリアスマイルとは違う最近よく見せる優しい笑顔があった。
「……おいで」
逆らえなかった。まるで吸い寄せられるかのようにイリアさんの方へと歩き、そのまま優しく抱きしめられた。
なんという包容力だ……まるで心まで包まれているようだ。
「いつもあたしの事を撫でてくれているからな……今日はあたしがカズヤを撫でてやる」
優しく頭に手を置かれた。本来ならこんな事をされたら飛び跳ねて絶叫するところだが、今はまったくそんな気にならない。女神様と同じ感覚だ……。
「慣れない世界で慣れない事を自分を犠牲にしてまで成し遂げようとするその馬鹿げた姿勢。自分の事は全部後まわしで、ダメだと言っても振り切ってやるほどのお人好し。そんなカズヤが堪らなく好きなんだ。まあ、強いて言えば女性を見るとすぐ鼻の下伸ばすのが減点対象だがな」
「けなされているようにしか聞こえないんですけど……でも」
参ったなあ……いつもと立場が逆転してしまった。イリアさんの胸の中ってなんて心地良いんだ……。
「……ありがとうございます。イリアさん……」
「うう、キスしたいぞ! いいか、カズヤ! 黙っていればバレない! ほれ、顔を出せ! ぶちゅっとしちまおう!」
「ちょ、ちょっと!? それはダメですよ! 約束してたじゃないですか!?」
イリアさんの女神様モードは短時間しか発動出来ないみたいだな。でも少し自分に自信が持てたような気がする。
「さあ、戻りましょうか。ウィンターフェスもありますからね。って! その構え! 手刀撃つつもりでしょ!? ダメですからね! 絶対しないで下さいよ! したらもう頭を撫でませんからね!」
最後の一言が効いたようで唸りながら凶器を下ろしてくれた。本当にこの人はもう……素敵な人だな。




