異世界268日目 12月24日(火) ⑤プレゼントの中身は……
ルーミィが恐怖に震えながらレインにしがみついているのを横目に、俺は肩に担いでいる白い袋からラッピングされた箱を取り出し、アメリアちゃんに手渡した。もう言っちゃダメだよ? ルーミィ。
その箱を受け取るとアメリアちゃんは黄色い瞳をめいいっぱい開き、小さな口を開けて歓喜の表情を浮かべていた。ここまでの笑顔を向けられると渡す方も自然と笑みが漏れるというものだ。
もう思いっ切り抱きついて撫で回したいぐらいだ。でももちろんしない。そんな事をすれば俺は今日、命日を迎える事になってしまう。クリスマスイブに死にたくない。キリストさんもこの日には亡くなっていないんですよ。
「ありがと!! おじ~ちゃん!」
プレゼントを両手にかかげながら俺の周りをぐるぐると駆け回っている。その姿にルーミィとレインからも笑みが漏れている。イリアさんは……な、なんだ、あの笑顔は!? いつものイリアスマイルとは違う。どちらかといえばルーミィやレインと同じ感じの――
「な、なんだ、カズヤ、そんなにあたしを見て……」
どうやら俺の目線に気付いたらしく、少々照れた様子を見せて来た。今のって母性的な感じの笑みだよな……。
「カズヤ? イリアおねえちゃん、その人はサンタのおじ~ちゃんだよ? ねえ、カズヤせんせ~はどこにいるの~?」
イリアさん!? 名前呼んだらバレますって! 慌てて口を押さえて苦笑いしてるし! とりあえず誤魔化さなければ! このままでは正体がばれてしまう!
「カ、カズヤ先生は保育園でお留守番しておったぞ? スライム料理を作っていると思うのじゃ」
「そっかあ~、アメリア、カズヤせんせ~にも会いたかったなぁ……」
ああ! ケモミミがふんにゃりしてる! 誰だ!? アメリアちゃんを悲しませたやつは――俺だ!
「ア、アメリアちゃん、プレゼントを開けて見て下さい。カズヤ先生がサンタのおじいさんに頼んでくれたのですよ」
「うん! 開けてみる!」
レインのフォローのおかげで正体をバラさずに済んだ。ナイスアシストです! ほんと頼りになります!
「うわぁ~かっわいい!!」
クリスマスプレゼントを企画した時には何か神力で具現化しようとしたのだが、レインから本気で止められてしまった。なので、今回のプレゼントは俺が用意した物では無い。園児達三人にプレゼントを用意してくれたのはレインとルーミィなのだ。
「みてみて! サンタのおじいちゃん! アメリアにそっくり~! ソフィもサラもあるぅ!」
アメリアちゃんの手に抱えられているのはお手製の人形だ。これはルーミィの絵画技術とレインの裁縫技術が合わさった『デフォルメ園児ぬいぐるみ』である。二人は今日の為にコツコツと作ってくれたのだ。
「良かったのう、それでは次のお宅に行きましょうかの、ふぉっふぉっふぉ」
「サンタのおじ~ちゃん! ありがと~!」
笑顔で小さな手を振ってくれるアメリアちゃんを背に、フレーズが扉を開けてくれ、応接室から出た。ふはは、ミッション成功だ! 途中でバレそうにはなったけど。
「先生方、今日はありがとうございます。アメリアもとても喜んでおりました」
フレーズだけでは無く、シルフさんもゲートの前まで見送りに来てくれ、お礼を述べてくれた。大変身に余る栄誉でございますです。
なにより玄関の扉が大き過ぎますので、どちらかが開けてくれないと俺達出れないんですけどね。
「いえいえ、良いクリスマスを迎えて下さいね」
「マスター、また御用があればいつでお呼び立て下さいませ。それにイリア……幸せにな」
「ああ……ありがとう」
嫌な予感……。どうしてそんなラブシーンを放り込んで来るんです? この状況でそんな事言われた対象者が完全に俺に絞り込まれちゃうじゃないですか! あれですか!? いつものうっかりですか!!!?
「ちょっと! 和也! フレーズさんの『幸せに』ってどういう事なの!?」
「カズヤ様! フレーズ様の今のお言葉は私も聞き捨てなりません!」
ほらぁ……そんな恰好いいセリフを別れ際に言うから二人に火が付いちゃったじゃないですか……。
「あ、あの! あまり大きな声でカズヤ先生のお名前を呼ばれますと……あの子、耳もいいので聞こえてしまいますよ?」
シルフさんから少々焦った様子で警告されてしまった。確かにこのままここに留まっていてはバレてしまうかも知れない!
ちょうど逃げ出したい流れなのでこのチャンスを逃す手は無い!
「は、はい! それでは失礼いたします!」
「あ、逃げたよ!」
「お待ち下さいませ! カズヤ様!」
うう、なんでサンタクロースが終われなきゃいけないんだ……。しかもカズヤって呼んじゃダメだってば……。
≪≪≪
「ご説明して下さい!」
超お胸ちゃんを持つサンタガールさんと……。
「さっきのはどういう意味なの!?」
可愛らしい小胸のサンタガールさんに園に帰って来るなり寒空の下、サンタクロースが詰め寄られている。
世も末な状況となっており、小さな子供達には到底見せられない、夢をぶち壊す状況となっている。
「カズヤは……こんなあたしでも、選んでくれたのさ……。ふふ、言わすんじゃないよ」
寒さに震えながら顔を赤らめて聖なる夜に誤解を招くような事を言わないでもらえますかね? やっぱり本気で報連相の講習会を開くか。
「違うでしょ!? ちょっとイリアさん、ちゃんと二人の誤解を解いて――」
「カズヤ……ありがとう。あたしもちゃんと答えるから……」
のおお! 手を取らないで! あそこで憎しみの炎を燃やしている二人が居るから! 本気で周りの雪が溶けちゃいそうなぐらい怒ってるから!
「で、ではソフィちゃんのお宅に行きますね……」
雪の舞う中、イリアさんを傷つけないようにフレーズとの関係を俺からしっかりと伝えた。余計な事は言わず、幼馴染みたいなものだと。
その辺りの微妙な関係を二人は少々知っていたおかげか、美少女二人はなんとか歯ぎしりで収まるまでには至った。ギリである……結果的には完全アウトだけどさ……。
「さあ、急ぎましょう、爺やさんを待たせてしまっているかも知れません」
まだ少し不満気な二人ではあったが、伝説のレッドドラゴン様を待たす訳にはいかないので渋々ルーミィとレインは先にゲートに入り、続いてイリアさんが足を踏み入れて行った。
「はあ……先が思いやられる……無事に配りきれるかな?」
独り言を呟きながら俺もゲートに足を踏み入れた。きっとソフィちゃんの所でもひと悶着あるんだろうな……。




