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異世界268日目 12月24日(火) ④ルーミィの悲劇


 いざ、サンタ軍団は楽しみにしている園児達の元へ向かう為、ランタンに明かりを灯して園児達が利用するいつものゲートに向かったのだか、一人大変な状況になっている。


「さ、さ、寒いぃぃ! は、早く行こうぜぇぇ!?」


 でしょうね。イリアさんは先程のセクシーサンタガールコスのままなのだ。一年に一度しか着れない服なので満喫したいとの事だ。みんなで散々止めたんだけどね……。


 体を震わせながら胸を抱き抱えるかのようにして、腕を擦り合わせている。お胸ちゃん、風邪引かないでね。


「のんびりしてるとイリアさんが凍えてしまうので早速伺うとしましょう。まずはアメリアちゃんのお宅からですね」


 クリスマスイブのサプライズ、それは俺がサンタに変装して園児達のお宅を回り、プレゼントを渡すといったものだ。今から園児達の喜ぶ顔を想像するだけで頬が緩んでくる。


「和也! デレデレしないの! またイリアさんを見てたんでしょ!」


「そうですよ、お顔に出ていらっしゃいますよ!」


 あ、うん。これは園児達の喜ぶ顔を想像したものであって……あ、イリアさんが本気で寒そうにしてる。早く行こう……。




 ゲートに足を踏み入れると眼前に大きくそびえ立つ城が映った。相変わらず超豪邸であるアメリアちゃんのお家だ。どうやらこの辺りは雪は積もっていないし、比較的暖かい。いつも薄着のイリアさんなら耐えれそうな気温だ。


 それでも寒くないかといえばそうでもないだろう。でもイリアさんの震えは止まって一息付いているようだ。そういえば小さい頃は冬場でも半袖、半ズボンで過ごす超健康優良児の小学生が居たなあ。あれと同じかな?


「マスター、お待ちしておりました」


 お辞儀をして声を掛けてくれた燕尾服の男性、フレーズがゲートの前で待っていてくれた。


「ぅ……フレーズ……」


 なんかバツの悪そうな声を出しているのはイリアさんだ。まあ、そうなっちゃいますよね……俺もちょっと気を使いますもん。


「どうも、イリア。ほう、皆様が着ていらしゃるのがサンタクロースと呼ばれる衣装なのですね」


 ルーミィ達はそのままだが、俺は付け鬚も装着して完璧にサンタクロースに変装している。大人には通用しないが、子供にならバレる事はないだろう。


 フレーズは白い手袋をした手を顎に添え、黄色の瞳を細めてこちらを見ている。まあ、珍しいし、とっても派手なので存在感はあると思うが。


「はい、これが私の世界であったプレゼントを渡すおじいさんの服装なんです。如何でしょうか?」


「なるほど、そうなんですね。となりますと、女性の皆様はおばあさんという事になられますね」


「おい、フレーズ、言葉に気を付けろ……」


「す、すみません。ついうっかり……」


 本気で睨んでいるイリアさんですがそこはフレーズを責めないであげて欲しいな。おじいさんの相方だとそうなるのが自然だと思うから。

 そもそも今の状況みたいに若い女性をはべらかしている方がおかしいですから。


「あれ? イリアさんってフレーズさんを知ってるの? なんかとっても仲が良さ――」


「ルーミィ、そこまでだ」


 やめてあげて、殺気の水平打ちは! 女神様サンタが震えてるから! 目線が一点に集中してガクブルになってるから!


「と、とりあえずアメリアちゃんの所に行きましょう、待たせるのも可哀想ですから」


「は、はい、分りました。それではご案内いたします。サンタクロース様、サンタガールの皆様」


 流石イケメンは違うな。瞬時に的確な呼び名を割り出しましたか。安定安心のコミュ力、恐れ入ります。




「うわあ~! ルーミィせんせ~、レインせんせ~、イリアおねえちゃんもいる~! でも、おじいちゃんだあれ?」


 フレーズに応接室に案内され、既にケモミミをぴょこぴょこさせながら待っていたのはアメリアちゃんである。とっても興奮している様子で姿を見るなりこちらに走ってきた。尻尾の方も目で追うのが疲れる程に振りたくられている。この子の喜ぶ姿はいつ見ても可愛いなあ~。


 レインは初アメリアちゃん邸になるのだが、敷地の大きさに驚いてはいたものの、何と言っても騎士であり王都のお姫様なので瞬時に冷静さを取り戻していた。

 初めて来た時にきょどってオロオロしていた俺がとっても恥ずかしい……。


「クンクン……う~ん、おじいちゃん、アメリアと会ったことあるぅ? なんか知ってるにおいがするの。でもちょっとちがうかなあ?」


 ふふ、アメリアちゃん対策もばっちりしてある。イリアさんに頼んで匂い袋を仕込んであるのだ! しかしそれでも気付きそうになるとは……カズヤせんせ~の匂いに。


 さて、声のトーンを落としてと。


「メリークリスマス、アメリアちゃん。今日はさくら保育園の先生からいつも良い子にしている子が居ると聞いていたからサンタのおじいさんがプレゼントを持ってきたのじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」


 なりきってみた。いつぞやの三文芝居のような事にはならない。今回は設定も確立されている慣れ親しんだサンタクロースなので非常に楽である。


「パパ、ママ! ほんとうにサンタクロースっておじいちゃん来たよ~!」


 奥からこちらに向かって歩いてくる白銀狼夫妻、カリムさんとシルフさんの姿が見える。


「良かったな! アメリア! さくら保育園の先生方もご案内ありがとうございます」


「今日は寒い中ありがとうございます。どうぞ、暖かいお茶でも飲んで行って下さい」


「いやあ、お気遣いありがとうございますじゃ、ふぉっふぉっふぉ」


 その言葉にすかさずフレーズが反応し、既にもう紅茶を注ぎ出している……こんな人のマスターをやってるんだよなぁ。

 ただのおっさんには完全に不釣り合いなんですけど? もう逆にこっちが気を使っちゃうよ……。


「あ、あれが白銀狼……な、なんという存在感……あ、あたしは先生じゃないんだが、今日は手伝いに来ているんだ。フレーズとは、その……昔からの知り合いなんだ」


 流石のイリアサンタガールも白銀狼夫妻を前に緊張気味のようだ。まあ、存在自体が伝説だもんな。おそらく初見だろうし。


「あ、そうだったんだね! どうりで仲がいい――」


 ルーミィ!? どうしてそこで入ってきちゃうの!? 


「ルーミィ? さっきも言った筈だが?」


 だからルーミィも同じ事をしないの! って瞳孔開いてガクガクなってるし!? イリアさん、それさっきよりきつくない!? やめて、ルーミィ死んじゃう!!


「ほう、なかなか良い殺気を飛ばす。フレーズの知り合いなだけはあるな。はっはっは!」


 いや、笑ってる場合じゃないですからカリムさん! ルーミィ、大丈夫なの!? なんか口の端に泡拭いてるのが見えますけど!?

 ちょっとイリアさん、やり過ぎ! 言えないけどこの人女神様なの! 再研修が無事完了したら天罰くらっちゃいますよ!?


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