異世界267日目 12月23日(月) ⑥究極の萌え
レインの回復魔法は結果から言うと、しっかり発動して顔の傷は無くなった。サラちゃんと同じく、神力とはまた違った優しい光であった。幾度と無く助けられている光である。
ただ、発動に至るまでの時間が長かった。どうやらサラちゃんの時と同じく魔力の源とも言える心臓の位置が関係するようであり、レインの超お胸ちゃんは言うまでも大き過ぎるので、どうしても心臓との距離が離れてしまう事が原因であった。
その為、少しでも近づける為に、それはもう形が変わるぐらいに押し付けられて、やっと発動に至った。
その間、ずっと俺の目を見て照れながらうっとりしていたのが気になる……まるで時間をわざとかけているかのようにも感じたのは気のせいであって欲しい。
いや、きっとわざとだ。マオさんがサラちゃんの怪我を治す時にはそんなに胸を押しつけてなかったもん。まあ、超ベテランと超初心者を比べてはダメなんだろうけど。
そんな光景をルーミィとイリアさんが歯ぎしりしながら見守ってくれた。全然生きた心地がしなかった……下手したら途中で刺される事も覚悟したぐらいだよ?
なにはともあれ、無事傷も完治したので夕食の準備にとりかかったのだが、丸一日何も食べていないメンバー達なので未だかつてないぐらいの量をこしらえ、超大盛の夕食を作った。イリアさんもずっと寝込んでお腹が空いていたのか、うちの胃袋が宇宙的な女神様とタメを張るぐらいに食事を頬張っていた。
まさかあれだけあった食材のストックが無くなるとは夢にも思わなかったが。
なにはともあれ、お腹も一杯になったので今はクリスマスケーキの準備に取りかかる事にした。まずはスポンジ作りからとなるので少々時間がかかる。しかし、聖水の効果は素晴らしく、全く疲労感は無い。最高の栄養ドリンクだ。反動は先程の眠気なんだろうけど……。
元気になる代わりに急激な眠気に襲われるか……そういえばキャンプの時もこの三人は水遊びの後、寝てたもんな。俺に眠気が襲ってこなかったのはたまたま聖水を口にしなかったからだろう。バタ足で泳いで遊んでいたが、潜ったりはしなかったもんな。
さて、園児達には命を助けてもらっているし、料理に妥協はしない。最高のクリスマスケーキをプレゼントしてあげようじゃないか!
「カズヤ……ちょっといいか?」
少し元気の無い様子でイリアさんがキッチンにやって来た。先程のレインの事を根に持っている……感じでもなさそう、ですね。
「いかがなされました? しかし良く効きますね、あの聖水は。しかも聖霊スライムにも同じ効果があるらしいので、今度の夏には大量に採取して――」
「あたしは、魔界の生まれなんだ……だからあの病気になったんだと思う……」
言葉を遮り怯えた顔をして伝えてくれた。魔界かぁ……最近良く聞くワードだ。確か白銀狼さんファミリーが夏休みに遊びに行ってたような。
「す、すまない、ずっと隠していて……なかなか言い出せなくて……」
成程、これで全て繋がった。フレーズとの出会いも魔界だったのだろう。幼い頃とはいえ、銀狼をフルボッコできる人間は勇者様を除いていないだろう。イリアさんの強さのルーツが分かった。
「そうだったんですね。あ、イリアさん、もし宜しければ生クリーム作るの手伝って頂けませんか?」
イリアさんは簡単に流された事に拍子抜けしている様子だ。お目めをぱちぱちしてる。それもいつもとギャップがあっていいですね! ちょっと萌えます。
「なっ……き、気味悪がらないのか!? 魔界だぞ? 血に飢えたモンスターが闊歩している場所だし、血で血を洗うような場所だ! あたしは普通の人間ではなくて――」
「私、魔界って知りませんので。あ、でも行ってみたいって振りじゃないですからね! そんな場所に行ったら命がいくつあっても足りませんから! でも、何処の生まれでも構わないじゃないですか。私の元の世界では様々な国の人が普通に混ざって生活していますよ?」
「そ、そうなのか? だ、だがあたしは――」
「大した事ありませんよ、イリアさんはイリアさんです。あ、これ既に二番煎じなんですけどね。この前レインにも同じような事を相談されまして」
生クリームのホイップを確認しながらイリアさんに答えてあげた。うん、いい仕上がりだ。
「レインもか……ふふ、この告白するのに、どれだけ勇気を振り絞ったと思ってるんだ? まったく器がデカいな、カズヤは」
そんな大した器ではありませんよ。すぐ溢れてこぼれちゃいますから。自分で言うのもなんですけどクレイドやアレクの方が完全に大きいですよ?
「後、もう一つ、聞きたい。森で遭難した時、ルーミィと何をしていた?」
冷や汗が背中を伝った。ホイップする手が止まり、泡だて器を持つ手は震えており、そのまま握力が失われてボウルの中に落としてしまった……。
そ、その質問には答えれない。答えたら最後、俺の命日になる……どうしてクリスマス前に何度も死ぬ事を考えないといけないのだ……神よ! 上司さんよ! 答えて下さい! あんまりじゃないですか!
「ま・さ・かとは思うが……」
ジト目に変わったイリアさんがこちらにゆっくりと近づいて来る……ここはキッチン、逃げ場など無い。既にイリアさんとはほぼゼロ距離。
白状しますからどうか命だけはお助け下さい!!
「こんな事したんじゃないだろうな?」
逃げられないようにと急に両手首を握られ、目を閉じて少し背伸びしたイリアさんが迫って来た。そのまま流れるようにイリアさんの唇と合わさった。
呆然としていると掴んでいた手首を放し、そのまま背中に腕を回されて密着状態となり、その豊満な胸を押しつけられた。
その間も決して離す事の無い唇……あの時ルーミィとした同じぐらいの長く熱いキス。
あまりの急な展開に、完全に頭の中は真っ白になり、ただただイリアさんになされるがままにされた。
「んぅ……こ、これでルーミィとおあいこだ……遭難した夜の事はルーミィから既に聞き出しているんだからな。前から言ってるだろ、あたしも負けないって。今はレインも居るしな……」
頬を染めて目が泳いでいるように見える。完全に照れており、今は俯き内股になっている。耳まで真っ赤だ……。
よし、落ち着け、頭の中を再起動させるんだ……バグが起こった時はこれが一番だ!
再起動完了……確信犯だったんですね!? しかもいつもと違ってイリアさんが後追いパターンのやつですか!?
それにここは吹雪の中で遭難していた森では無いんですよ!? 隣に女神様とお姫様が居るんです!
「な、何をしてるんですか! ふ、二人に知れたら……」
「ああ、それなら大丈夫だ。今はこたつで寝てるよ。ぐっすりとな」
寝てる……ああ、手刀撃ちましたね。ダメですよ、そんな乱発したら……。女神様から天罰をもらって、王都から指名手配されますよ?
「で、でもこれ……想像以上に恥ずかしい……な。まあ、キス魔になっちまったカズヤは違うだろうが」
誰がキス魔ですか、誰が。それにしても最近、保育園の先生方並び雑貨店店長からのアピールの積極性が増している。気持ちは大変嬉しいのだが、こんなおっさんに皆さんのファーストキスなんてもったいなくありませんか? 何処にでも転がってるおっさんですよ?
「わ、私だって女性とお付き合いしたことは無い――」
「付き合ってはないだろうが、カズヤは何かと狙われるからな。やっぱりここはあたしが先に……」
そういうとズボンのボタンを外して少し晒してきた。思わず見てしまったが、パンツがちらり覗いて……み、水色!? 黒じゃないとは!
って違う!! いつもは胸とかなのに今日はズボンからですか!? それは完全にNGですから! メルみたいになってますよ!? 変なところはマネしないで下さい!
「ちょ、ちょっと待って下さい! イリアさん、そういうのはですね!?」
口元に手を当てて、イリアスマイルをこちらに向け、クスクスと笑っている……無邪気な仕草であり、今先程言った言葉は冗談であると言う事が分かる。
早くズボンのボタン閉めて下さい……気になりますから……パンツ見えてますから。
「もう、大人をからかうもんじゃありませんよ!」
「ふふ、ごめんなさい。お詫びにあたしも手伝うよ!」
その日、夜遅くにイリアさんのお手伝いのおかげでケーキは完成したのだが、イリアさんの素直な『ごめんなさい』に鼓動が早くなってしまったのは内緒にしている。でもイリアさんにはバレてるかも知れない……。
究極のギャップ萌えを見た気がする……。




