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異世界267日目 12月23日(月) ④約束? なにそれ?


「うん……カズヤとルーミィ……か?」


 レイバーさんが去ってしばらくするとイリアさんが目を覚ました。随分顔色も良くなっており、高熱が続いていたので心配だったが、意識もしっかりしているようだ。


「大丈夫ですか!?」


「あ、ああ……少し風邪を引いていたみたいでな……大した事はないさ」


 いや、さっきまで即死する病気にかかってました。大した事どころか命が危ぶまれてましたよ?


「それよりも――」


「良かったあ! イリアさん!」


 ルーミィがイリアさんに飛び込んだ。今回、みんな心配したがその中でもルーミィが一番心配していたもんな、治ってくれて嬉しくて仕方無いんだろう。


「お、おい、どうしたのさ!? やめろ、あたし、汗かいてるからさ!」


「良かったです……本当に良かったですぅ……」


 ルーミィが涙を流しながらイリアさんにすりすりしている。しかしなんとか間に合って良かった。あの聖霊スライム、今度は大量採取決定だな。今度こそ馬車にてんこもりゲットしてやろうと思う。


「あ、そうだ、ルーミィ、カズヤ。あたし夢を見たんだ……その、カズヤがキスしてくれる夢……あたしを抱きかかえて何度も何度も……」


「イリアさん、それは夢です。早く忘れましょう」


 うわ! 病人に記憶書き換えた!? あんなに回復を喜んでいたのにそっちは辛口なんですね。


「はは……それじゃあ、私はこれで失礼しますね。体の調子が戻れば一度お風呂に入ってさっぱりして下さいね」


「うん、イリアさん、それじゃあ! ムリしないでね!」


「お、おい! ちょっと待っ――ったく!」


 なんか呼ばれていたみたいが、まあいっか。病み上がりだし、ゆっくりしていてもらおう。




 イリアさんの症状も回復し、胸を撫で下ろしながら村を出て、ルーミィと一緒に園に向かって歩いてる。聖水のおかげで十分一人でも歩けるぐらいに回復出来ており、まさに聖水様様である。まだ少し残ってるし、これはしっかりと保管して備えとしておこう。


「和也、そのコートぼろぼろになっちゃったね……神ブックのホルスターも切れちゃったし」


 狼さんとの死闘や崖を滑り落ちたせいで衣服はボロボロだし、血が渇いてかぴかぴになってる。こりゃあ今着ている服は全廃棄だな。

 服? あ……着替えないでイリアさんに会ったから……ヤバイ。こんな格好してたら確実に後で尋問される。ど、どうしよう……。


「え、ええ。流石にこれはもう着れませんね……捨てるしかないですね」


「……ちょっと嫌、かも。その服にずっと包まれていたから……」


 えっと。今ここでそんな話します? 


「あ、あれは緊急事態だったからで! そ、その、嫌じゃ無かったですか!?」


 なんか声が大きくなってしまった。だって、恥ずかしいじゃん!? 


「嫌な訳ないよ……それに服は仕方無いけど、約束は守ってもらうよ?」


 はて? 約束? なんかしたっけかな? 無事にルーミィも助かったし、イリアさんも治ったし……な、何でしたっけ? ご飯? プリン?


「むう! まさか、忘れたんじゃないよね!?」


 ふふ……そのまさかです! 俺、なにか約束しました? お、思い出せ……追いかけて、捕まえて、怪我して、くぼみでくっついて、狼に襲われて、園児達に助けられて、イリアさん治して……え~、やっぱ無いよ?


「こっちに来て!」


 お、怒ってる!? い、いや悪いのは俺なんだろうけど……ああ、道を外れて木の方に……そこが臨時の園長室なんですね。


 肩を落としてルーミィの後を追った……ああ、こっちは新雪だから歩きにくい……それになんかまた疲れが出て来たような。


 木の前に立ち、腕を組んで待ち構えている。正座……したら雪に埋まっちゃうな。冬季限定の新しいお説教だな。


「本当に覚えてないの?」


「す、すみません……あ、あの、私なんて言ったんでしょうか?」


 その言葉に何故かルーミィが顔を赤らめた……今の質問に対して怒る事はあれど、照れる要素など微塵も無いような気がしますが?


「も、もう! 女の子に言わすなんてズルいんだからね!」


 な、何を? おっさんが女の子を困らせる事を言う訳ないじゃないですか。だいたいおっさんはとても紳士なんですよ? 常にレディーファーストを心がけておりますから!


「……『キスしておけば良かったって』……今、して、いいよ……」


 言ってたあ!? そんな事、確かに言ってたあ!! で、でもねあれは命を諦めていたからと言いますか、その、最後の望み的なやつなので! 妄想が入った一種の遺言に近い物でして!


「して……くれないの……?」


 目を潤ませ、こちらに一歩迫って来た。手は胸元で握りしめ、じっとこちらを見ていたが、その茶色の瞳をそっと閉じて顎を上げた。


 な、なんとか誤魔化さないと……。


「ル、ルーミィ!? 私もルーミィも昨日からお風呂にも入っていませんし、ここは天下の往来ですから、その――」


 ルーミィの両方の瞳が開いた。とても悲しそうな表情になっている。ああ~! もう! 分かりましたよ! すればいいんでしょ、すれば!


「ルーミィ! 目を閉じて下さい!」


「は、はい!」


 あんな悲しい顔を見せられるのは困る! ええい、ままよ!


 そっと、ルーミィの唇へ自分の唇を合わした。とても柔らかい感触を感じる……ああ、やっちゃったよ……遂に自分からキスしちゃったよぉ……。


「……や、約束、守りましたよ!」


 はぁはぁ、心臓が……ルーミィを追いかけていた時以上に速いんじゃないか? さ、酸素を、酸素をくれぇ……。


「ぅ……ん。も、もっとして欲しい……な……」


 とろりとふやけた顔をしておねだりされた。だが! 俺が限界だ! 無理っす! メルの口調になってしまったがもう十分でしょ!?


「さ、さあ、園に帰りますよ! レインと園児達が待ってますからね!」


「あ、ちょっと、和也!? もう……」


 足早に元の道に戻ると少し照れながら、こっちに向かって走って来た。だがその顔は満足しきっていたように思えた。

 尚、おっさんは大量の冷や汗でぐっしょりである。風邪引きそうですよ……。




 北風で火照り切った体を冷やしながら園に帰ってきたのだが、聖水の効果があるとはいえ、さっきまで死にかけていた身である為、今日の保育園は休園にさせてもらった。


 既に時刻は昼前になっており、昨日から何も食べていないのでお腹も減っているのだが、何故か、かつて経験した事の無い程の睡魔が襲ってきた。

 な、なんだこの感覚は……。


 立っているのが辛くなり、リビングのソファーに腰かけると押し寄せる睡魔が更に強くなった……これは、聖水の後遺症か? 強制的に体を休ませようとしている?


「和也、私、なんだか眠たくなって……きちゃっ……た」


「私も……ちょっと疲れてしまいました……」


 ルーミィも聖水を飲んだから同じ症状が出ているようだ、レインも純粋に徹夜をしている訳だし、なにより回復魔法を始めて使ったんだ。相当な疲れがたまっている筈だ……ああ、暖房の効いた部屋って最高だな……。


 両隣に美少女が腰かけ、もたれかかって来た。両手に華だな……普段なら飛び跳ねる状態だが、もはやその気力すら出てこない……ダメだ、瞼が落ちる……もうこのまま、寝よう……。


 ありがとう、二人とも、そして園児のみんな……。


 ……ルーミィ、絶対にさっきの事、言っちゃダメだから……ね……。


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