異世界267日目 12月23日(月) ③聖水の秘密と代替え品
おっさんを乗せたレッドドラゴンは空中散歩を終え、さくら保育園の運動場に降り立ったドラゴンは赤い光を放つと幼女へと姿を変えた。道中はスピードも抑えてくれ、とっても上手に飛べており、個人的には免許皆伝だと思う。
まあ、偉そうに言ってるけど俺、飛べないんだけどね。
「……到着」
「ありがとう、ソフィちゃん……雪に埋まってるけど……大丈夫?」
立ち上がろうとしたのだが、力が入らない。止む無く体を転がしてソフィちゃんから降りた。くう……血が足りないのかな……まともに動けないのでこんな方法でしか移動出来ないおっさんを許して欲しい。
「……大丈夫。カズヤ先生ちょっと待ってて……みんな連れて来る」
「あ、ソフィちゃん……ちょっと待って、空から見たら湖があったでしょ……そこのお水を持って来て欲しいんだ……」
「……分かった……一緒に持ってくる」
そう言うと再びドラゴンの姿に戻り、森の方へと飛んで行った。ドラゴンタクシーのピストン運送である。最強種の娘さんに……親御さん怒らないかな……。
それにしても雪に埋まってるから冷たい……それに運動場の真ん中に仰向けはちょっと太陽が眩しいかな……次に誰か来たら掘り起こしてもらおう……。
「一体どうされました?」
不意に声が聞こえて美しいエルフの顔が俺を覗き込んでいる姿が映った。
「あ……どうも……ご無沙汰しております……レイバーさん……」
「血の跡が凄いですね……その傷を治したもう一つの回復魔法の使い手は誰ですか?」
やっぱり回復魔法の力って特別なんですね。感知しておりましたか。
「レインです……」
「なんと、レイン先生ですか!? もしやかと思いましたが。確かにエルフの血は引いてるのは確かだけど、魔力は一切感じなかったし……でも僕が見落とすなんて事は……」
あの~、出来れば雪に埋もれてるんで掘り起こしては頂けないでしょうか? その後で質問に答えますので。しかし、この際だ、お願いさせて頂こう。
「すみません……村の雑貨店まで……連れて行ってもらえませんか? 病気の方が……居るんです……」
「自分がそんな状態なのに他の人の心配ですか……全く困った人ですね」
全く困っていない様子の笑顔で答えてくれた。相変わらず男前ですねえ……。
時間短縮、レイバーさんの指くるくる魔法で村まで一気に転移させてもらった。とても便利である。尚、一足先にルーミィが帰って来たので、聖水と共に先に移動させてもらった。
「和也、大丈夫……? やっぱり園で休んでいた方が……」
完全にルーミィにもたれかかってやっと立っている状況である。もうセクハラとか言うレベルのボディタッチでは無い。だが全く足に力が入らないのだ。でも行かない訳にはいかない。さあ、ルーミィ、俺を引きずって行ってくれ!
「僕も休んでいた方がいいと思うけど。まあ、折角だし、僕もその病気の症状を診てみようかな?」
軽いノリの世界記憶さんだが、この方が居れば病名を判断出来るかも知れないので大歓迎である。
なんとか雑貨店の寝室まで辿り着き、椅子に座らせて頂いた。そこから望むイリアさんは先日よりも苦しそうな顔をしている。目の下にもクマが出来ており、症状が悪化している事が分かる。
イリアさんを覗き込むレイバーさんは驚きの表情を浮かべているの……この様子だと病名も知っていそうだ。
そのままイリアさんの額や喉に手を置いたり、脈を取るような仕草をしている……流石は世界記憶様、医療知識もおありなんですね。
「ふむ、これは魔菌が原因の病気だね。超高熱と倦怠感、悪寒、呼吸不全を引き起こす病気だよ。それにこの人もただものじゃないね。この菌に侵されて即死しない人間を見るのは初めてだよ」
即死……なんて物騒な……。
「うつったりはしないでしょうか……」
「これは蓄積型の菌だし、この菌があるのは魔界。その中でもある一定の場所にしかいないものだからね。感染は心配ないよ」
イリアさん、一体何処まで仕入れに行ってるんですか……。
「レイバーさん! イリアさんはこの聖水で治りますか!?」
ルーミィの手に握られているのはソフィちゃんにお願いして持ってきてもらった湖の水。凍っていたらしいが、ブレスで溶かしたと言っていた。やっぱり見た目は幼児でも中身はしっかりドラゴンだ……ブレスを吐けた事が衝撃的過ぎたのは別の話になるが。
レイバーさんはルーミィから瓶を受け取ると、訝し気に中に入った水を目を細めて観察している。これが聖水とは限らない。頼む、これであっていてくれ……!
「いやあ、貴重な物を持ってるね。ええ、これでしたら全ての病魔、もちろん魔菌も殺菌する事が出来ますよ。ああ、ちなみにカズヤ先生が好きなスライム、聖霊スライムでも同じ効果があるよ?」
体の力が抜け、がっくりと項垂れてしまった……それならあったなあ……ギルドに飾ってあるよ。確かに戦争になる訳だわ、そんな効力があるのなら。
「ルーミィ……イリアさんに飲ませれますか? それとも私が……」
「ううん。私がしてみる! 和也は無理しないで休んでて」
ルーミィが聖水を口に運ぶとイリアさんを抱き起して躊躇無く口移しで聖水を飲ませた。散々見ていたので要領は分かっているようだ。
「ほうほう、女性同士で……」
そこ、冷やかさないの! これは医療処置!
イリアさんが聖水を一飲みするや否や、目のクマも引いていき、荒々しい呼吸も次第に収まっていった。表情も穏やかに……なんたる即効性!
「そうそう、この聖水は疲労回復や滋養強壮にも効果がありますよ。お二人も飲んだ方がいいですね、特にカズヤ先生は」
まさに万能薬だ。ところでルーミィ、なんで頬を膨らましてこっちを見てるのかな? リスみたいで可愛いですが、それはそのまま飲んで下さい。
なんとか自分の力で聖水を飲んだのだが、これがまた凄い効き目だった。さっきまでまともに立てなかったのに疲れやだるさがすっと引いていった。これから二十四時間戦えそうな気がする! 完全にドーピングだ! エナジードリンクの強力版とも言っていい。漲って来たぁ~!
「それじゃあ僕は一足お先に帰るとするね。あ、折角だからメアちゃんの所によって遊んで行こうかな~」
そう言うとお得意の虚空に消える転移魔法で去って行った……またごっこ遊びするんですね。相変わらず自由な人だ……お願いですから村に影響が出ない程度にして下さいよ? 今は妊婦さんも居るんですから。




