異世界267日目 12月23日(月) ②雪山出張! さくら保育園
「ねえ、なにやってるのって聞いてるの? それとカズヤせんせ~からはなれて」
この拙い声、アメリアちゃん……か? だけど、明らかに怒気……いや、これは殺気を含んでいるんじゃないのか……?
「……だたでは済まさない」
この口調は……ソフィちゃんか? こちらからは完全な殺気を感じる……。
「アメリアちゃん、ソフィちゃん……うぅ……来て、来てくれたんだぁ……」
ルーミィの泣き枯れた声が聞こえた……そうか、やっぱりあの二人か……。うっすら目を開けみると二人の小さなピンク色のコートが見えた。
黄色い瞳が大きく見開け、眉間にしわを寄せている。その口からは小さな牙が見えており、完全に怒っている事が見て取れる。その横に立つ赤い髪の女の子は対称的に凍り付くほどの冷たい感情を感じる……ただ、その分、真紅の瞳が際立っており、父上さながらの気迫を出している。
狼を見据えている二人の姿が見えた所で再び目は強制的に閉じられた……。
「カズヤ先生! 酷いお怪我!? サラがすぐ治すから!」
サラちゃんも居るのか……でもどうして園児達が……?
「カズヤ様! こ、この怪我は……サ、サラちゃん早く!」
成程レインが連れて来てくれたのか……ああ。心地いい、痛みが引いて行く……サラちゃんが回復魔法をかけてくれてるんだな……抱きついてくれているのかな、小さな感覚があるんだけど……でももう意識が飛びそう……。
「カズヤ先生! ダメ、目を閉じちゃ! 治せなくなる!」
「カズヤせんせ~! お目めあけるの! サラが治せなくなるっていってるから!」
「死んだらダメ! 番になる約束した! 赤ちゃん欲しい!」
ああ、そんなに重症なんだ。でももう限界……かな……後、ソフィちゃん、爆弾発言しているからね……。
「レイン先生! 手伝って! サラ一人じゃ間に合わないよ~!」
「わ、私はサラちゃんみたいな事は出来――」
「出来るよ! 同じお目めしてるもん!」
なにか会話が聞こえる……レインとサラちゃんかな……もう聞き取るのも難しくなってきたぞ……。
「レイン……和也を助けて……お願い、お願い……お願いだからぁ……」
ルーミィのかすれ切ったが声が聞こえた……随分叫んでたもんな……。
「……はい!」
レインに体を持ち上げられたようだ……一瞬目が開いて真っ赤に染まった服と雪が見えた。これは酷いな……あの時のレインと大差無いかも。
「サラはね前からくっつくから、レイン先生は後ろからね! いっぱい治ってってお願いするの!」
「こ、こうですか!?」
「もっとだよ! もっとくっついてお願いするの!」
も、もう限界だ……気力も尽きる……とりあえずルーミィが無事で良かった……。
「カズヤ先生、起きて! お目め閉じたらダメ! 死んじゃう! 死んじゃたらサラ治せない!!」
「ダメです! 死んだらダメです! まだ何一つ恩返し出来ておりません!! カズヤ様っっ!!」
≪≪≪
暖かいなあ……痛みも無くて物凄く心地いい感触が背中にあるなぁ……ああ気持ちいいなぁ。でも一体これって何だろう。
「カ、カズヤ様! お気付きになられましたか!?」
目を開くとアメリアちゃんにソフィちゃん、サラちゃんにルーミィが居た……。あれ、レインはどうして俺を後ろから抱きしめてるの? それにこの背中にあたる暖かさと感触は……超お胸ちゃんですか?
サラちゃんの真似かな? ダメだよ、お姫様がそんな事しちゃあ。王様が悲しみますよ?
「カズヤ先生、レイン先生も回復まほ~してくれたんだよ~!」
……はい? 今、サラちゃんから衝撃的な言葉が……確か世界記憶ご夫妻から魔力は無いって言われてたけど。
「おっぱいをね、いっぱいむにゅ~ってしてたの! サラもしたよ~」
「いや、サラちゃん……脱がないでいいよ……寒いからね……」
なぜかコートをはだけさせて服の裾をまくろうとしている。痛みは無いが、体が非常に重くツッコむのも大変だ。
「レ、レイン、和也も起きた事だし、もういいんじゃないかな……その、くっつくのは……」
「は、はい! そ、そうですね!?」
あ、背中の温もりが……さよなら、超お胸ちゃん……。
レインから事情を聴くと、遭難したあの日、イリアさんの看病をしてくれていたのだが一晩経っても帰って来なかったので一度園に戻り、保育園を休みにして俺達を探しに行こうとしたらしい。
しかし園児達がどうしても着いて行くと言い出して聞かず、一緒に来てくれたとの事だ。
「カズヤせんせ~、はいご本だよ!」
アメリアちゃんから渡されたのはまさかの神ブックである。これも道中でアメリアちゃんが見つけてくれたんだとか。
「カズヤせんせ~の匂いをたどって来たの!」
ケモミミをぴょこぴょこさせながら笑顔で答えてくれたのだが、それっておっさん臭ですかね? 昨日お風呂にも入って無いし、汗だくになったし……嫌な思いをさせてしまったのかも知れない。ルーミィにも。
「……アメリア、どうする?」
不意にソフィちゃんがアメリちゃんに質問したのだが……おそらく狼さんについてだろう。
「悪い子にはおしおき! パパもよく言ってる!」
二人の目線の先には腹を見せて寝転がる狼が五匹綺麗に並んでいた。見事な複縦のポーズだ。それに白銀狼であるカリムさんのお仕置きってつまり『死』と言う事ですよね? そ、それはちょっとまずいな……。心優しきさくら保育園の園児として取って欲しくない手段である。
「アメリアちゃん、許してあげてくれないかな……狼さんも生きる為に先生を襲ったんだと思うから……」
この狼達も必死なのだろう。冬場の食料事情は乏しくなるのがセオリーだ。その中で稀に出会える獲物。そして俺はそのターゲットになっただけ、食物連鎖とはそういうものだ。
「むう。じゃあ、ゆるしてあげる! でも次にカズヤせんせ~に同じ事したら!」
その一言に冷たく重い気配を感じ、一瞬息がつまった……見開く黄色い瞳に口元から少し出た犬歯に恐ろしさを感じた。そしてなによりこの殺気の性質……威力は控えめだけど間違いなく白銀狼さん夫妻に当時当てられた殺気そのものだ。
レインのみならずアメリアちゃんまでも覚醒しちゃったよ……それとソフィちゃんも殺気出してたよなぁ……園児達がどんどん強くなっていく……。
そんなアメリアちゃんの殺気に五匹の狼は大きく痙攣していた。しばらくするとなんとか起き上がり、頭と尻尾を下げて森の奥へと帰って行った。四歳とはいえ白銀狼のご息女はとてもお強い。
「……旦那様、背中に乗って」
雪の上にペタンと寝ころがるソフィちゃん。それ、冷たくない? 後、五歳の女の子の幼児の上におっさんが乗るの? それ、事案だよ? 後、呼び名が何気に旦那様になってるから。
「……乗ってくれたらドラゴンになる……飛んで保育園に戻る」
成程、確かに立つ事すら辛いこの状況で森を抜ける事は難しいな……ここはお言葉に甘えるとしよう。
罪悪感を噛みしめながらソフィちゃんの上に乗ったのだが、完全におかしい絵面だ。おっさんの重みで新雪ごとソフィちゃんが埋まってしまった……しかしそのまま赤く輝くと、ドラゴンになったので今度は逆におっさんが寝そべる形になった。
ドラゴンの上でおねんねするおっさんの完成である。
「……飛ぶ練習あれから毎日してる……でも人を乗せるのは初めて」
え、それってまずくないですか? マッハで飛ばれたら確実におっさん落ちちゃうよ? というか空中分解してグロ画像になっちゃうよ?
ゆっくり……ほんとゆっくり飛んでね?




