異世界266日目 12月22日(日) ⑤ルーミィの勇気
偶然にも見つけた横穴に避難したおかげで直接の風や雪は避けられているものの、それでも風が舞い込んで来る。この場所はそれほど深くは無いものの、幸いな事に大人二人ぐらいなら十分足を伸ばせるスペースはあった。
未だに泣き叫ぶルーミィに困惑しながら、声をかけつつ周りを見渡すと、枯れ木や葉っぱが集まっていた。どうやら吹き溜まりみたいな場所のようだ。
熊の住処とかいうオチだけはやめて欲しい……まあ、居るなら既に見つけてるだろうし、冬眠するにはいささか浅過ぎる穴ではある。
「よし、これなら……」
手を伸ばし、枯れ葉と枝を選別し、入り口付近に集めた。ポケットに入れておいた着火装置を使い、枯れ葉に火を付けた。少々煙かったが、舞い込む風が空気を入れ替えてくれている。
普通、洞窟内で焚火なんぞしようものなら一酸化炭素中毒で即お陀仏である。しかし、この場所は風通りもあり空気が循環している。更に念の為に入り口付近に焚き火を設置しておいた。
枯れ葉に十分火が燃え移ったの見計らい、細い枝を投げ込み続けているとやがて小さな焚火が完成した。風は舞い込んでくるがこれで多少は暖が取れるだろう。幸い、枯れ枝は周辺に沢山あるのでなんとか一晩ぐらいなら過ごせそうだ。
そんな焚火を作る作業と暖かな光と熱で気分が落ち着いたのだろうか、ルーミィは嗚咽こそ続いているが、泣き叫ばなくなってた。じっと、焚火の明かりを見ている。
やはり火の温もりと明かりがあると人は落ち着くようだ。
「これで少しはマシでしょうか。あまり奥に焚き火を作ると中毒死しちゃいますからね。それとルーミィ、私の前に来てもらえますか?」
腫れぼったい目をこすりながら言われた通り俺の前に来てくれたので足を広げ、コートのボタンを外した。
「いつつ……ルーミィ、こちらへ」
「そ、そんな事したら和也が寒くなっちゃうよ!」
どうやら俺がしようとしている事を察したようだ。小さな焚火があるとはいえ、極寒の屋外である。体温低下は免れない。遭難した時はいかに体力と体温を温存、維持出来るかが生死を分ける。
そんなテレビを見た事がある。人生、何処で何が役に立つか分かったもんじゃないな。
「嫌でしょうけど来て頂けませんか? 生き抜く為には必要ですので……」
おっさんに抱きかかえられる事に抵抗はあるだろうが、死ぬよりはマシ……と思って貰いたい。
「嫌なんかじゃないよ! で、でも、本当にいいの……?」
困惑しながらも俺の胸にそっと背中を預けてくれた。そのままコートをルーミィに被せるように包み込んだ。辺りは完全に暗闇となっており、神力も使えない。今日は動かずに体力温存に努めなければ。
イリアさんも気になる……レイン、お願いしますよ……。
「……ルーミィの温もりを感じます」
「わ、私も……ぁ……」
ルーミィを少し強く抱きしめた……本当に落ち着くなぁルーミィホールドは。きっとルーミィの半分は優しさで出来ているに違いない。残りの半分は間違いなく食欲だと思うけど。
焚火の光と優しいランタンの光がルーミィの顔を照らしている。気付けば嗚咽も止まり心地良さそうな顔をしていた。とりあえず落ち着いてくれたようだ……。
≪≪≪
外の状況は吹雪と呼ばれるものだろう。おそらく神ブックは雪の下に完全に埋まって最早見つけ出す事は不可能だ。なんとかして園に戻ってレインに聖水を取りに行ってもらわなければ。
イリアさん、頑張って下さい……絶対に助けて見せますから……。
「和也……寒くない?」
おっさんの胸の中で小さくなっているルーミィ。正直、寒い。しかしおっさんには若い子を守る義務がある。尚、持論だ。
「大丈夫ですよ。ところでひとつお聞きしてもいいですか? 何故ルーミィは病気の事になるとああも取り乱すのですか? 今回のイリアさんの件も、その……私の時も……」
あの時の事を思い返すと顔から火が出そうだが、しかしこの際しっかり理由を聞いておきたい。
「う、うん……あ、あの時はごめんね……あ、あまり思い出さないで欲しい……」
なんかお互いの体温が上昇したような気がする。遭難時に恥ずかしい話は有効かも知れない。
「……私、神界に居た時、小さい時から病気を患っている子をずっと見てたの。その子は不治の病で神力ではどうしようもなくて……助けれなくて……」
成程、神界まで届く強い想いとはそういった病気の子の思いもあるのだろう。それと比べて俺の想いの低次元な事……ギャルゲーを希望するおっさん……恥ずかしいったらありゃしない。
「そうだったんですか……すみません、嫌な事を思い出させて。でも無茶はしないで下さい。それで自分が命を落としたら何にもなりませんよ」
「うん、分かった……これから気を付ける……」
とりあえずこれでいきなり飛び出したりはしないだろう。後はいかにレインの下に辿り着けるかだな。日の出と共にここを出ないと。
「イリアさん、大丈夫かな……」
「ええ、レインが付いていてくれています。大丈夫ですよ」
「……このまま、二人とも助からなかったら、レイン怒っちゃうよね……」
この状況でネガティブになるのは仕方無いだろう。だが、俺は先程からとってもポジティブなのだ。おそらく、ルーミィを抱きかかえているからであろう。女神様の癒し効果炸裂中なのだ。
神ブックを無くし、足を怪我し、遭難している。が、それでもなんとかなると思っている。
「大丈夫です。必ず助かります。明日、明るくなったらここを出ます。なので今日は少しでも体力を温存しておきましょう。それにイリアさんは必ず助けて見せます!」
根拠など一切無いがなんとかなる気がするのだ! おっさんに任せなさい!
「でもね、ううん……今この状況だから、これだけはしておきたいの……後悔したく無いから……」
そう言って振り向き様に唇を添えらた。しばらく風の音が響く音だけがその空間を支配した。
「ん……今日が最後になるかも知れないと思ったから……ごめん……でも勇気出したんだよ……」
あっけに取られていると、もう一度唇を合わせて来た。先ほどは不意であったが、今度は長い時間。
感触を確かめるように優しく……。
「えへへ……キス、しちゃった……」
危機的状況による精神状態の高揚によるものだろう。よく映画とかでこんなシーンあるよな……でも今の俺は女神様効果で至って通常思考だ。
つまり……。
死ぬほど恥ずかしいんですけど!? 体温維持の大義名分があるとはいえ、密着状態で更にキスのワンツーだと!? ル、ル、ルーミィと! しかも右ストレートの時間は長時間! 抉り込むように打たれてキープされてたよ!?
こ、こんなの恋人同士がするやつじゃないか!? しかも俺、今晩は歯も磨いて無いよ!? も、もちろんルーミィもだろうけど。
い、息とか大丈夫だった!? てか密着状態だしカズヤせんせ~の匂いも心配なんですけど!?
「ル、ルーミィ!?」
「ご、ごめんね……こんな時に、不謹慎だよね、でも……後悔したく無かったから……」
なんかもう死んじゃっても俺は悔いは無いかな?
いやいや! ダメだダメだ! 何を考えているんだ俺は! ルーミィの不安を拭ってイリアさんの病気を治す! その為にもこの雪山、必ず攻略してやるぞ!
ルーミィはよっぽど恥ずかしかったのだろう、顔を隠すように俯きながら俺の服を掴み密着している。だが俺も同じ気分だ。とてもルーミィの顔を見ていられない。このまま静かに朝を待とう……。




