第19話 北の町エナルザード
北の氷原ノルディスでの激闘から数日後、俺たちトリオは吹雪を抜けて、ようやく人の気配がする集落にたどり着いた。
北の町エナルザード――雪に覆われた石造りの家々が並び、煙突から白い煙が立ち上る、まるで絵本に出てくるような静かな町だ。
「カウル! ここ、あったかいお店がいっぱいありそう! アレナお姉さん、早く休もうね!」
エルちゃんが金髪ツインテールを雪で少し白くしながら、俺を肩に乗せてスキップ気味に歩く。
8歳の元気さは相変わらずだけど、俺の目には少し心配そうな色が見えた。
アレナは左肩を押さえ、顔を少し青ざめさせながらも、クールに微笑んだ。
「……すまない。少し、休ませてもらう」
ガルドの黒い氷の槍で深く抉られた傷。
幸い、ブリザルドが別れ際にくれた高級な癒しのポーションが残っていた。
町の宿屋「氷炎亭」の暖かい部屋で、アレナはベッドに横になり、俺とエルちゃんが交代で看病した。
「ピニャ!(アレナ、頑張れよ……お前がいないと、この旅、成り立たねえんだぞ)」
ポーションを飲ませ、傷口に塗り、温かい布で冷やしたり温めたり。
一晩中、エルちゃんがアレナの手を握りながら「大丈夫だよ」と繰り返す姿を見て、俺の胸が熱くなった。
サラリーマン時代、こんな仲間思いの看病なんて、ドラマでしか見たことなかったぜ……。
翌朝、アレナの傷は驚くほど綺麗に塞がっていた。
ポーションの効果は本物だ。
彼女はベッドから起き上がり、いつものクールな笑みを浮かべた。
「助かった……本当に、お前たちには何度助けられたかわからないな」
「ピニャ!(当然だろ! 俺たち家族だぜ!)」
◇
アレナの療養で、俺たちはエナルザードに数日滞在することになった。
その間に、俺は自分の体に変化を感じていた。
盟約の鍵の力か、氷炎の輝きを覚醒させた影響か……少し大きくなったんだ。
「ピニャ……?(お、おい! 俺、手のひらサイズじゃなくなってる!? 今や猫サイズくらい!?)」
宿屋の銅鏡の前でクルッと回ってみる。
キラキラのエメラルド鱗はより輝きを増し、翼も少し逞しく、ハート型の尻尾もふっくら。
内心で大ドヤ顔だ。
「カウル、大きくなった! かっこいい! もっとピニャショーできるね!」
エルちゃんが俺を抱き上げてくるくる回す。
重くなった俺を軽々と持ち上げる8歳の腕力、相変わらず規格外だ……。
療養中のご褒美として、町の料理を堪能しまくった。
エナルザード名物のジャガイモとトマトの煮込みシチュー。
ホクホクのジャガイモに、甘酸っぱいトマトのソースが染み込んで、温かいスープが体を芯から温めてくれる。
「ピニャ!(うまい! このシチュー、前世のビーフシチュー超えてるんじゃねえか!? ドラゴンなのに野菜メインで満足してる俺、成長したな……)」
さらに名物のスノーバードの串焼き。
雪原に生息する白い鳥を香草と一緒に焼き上げたものだ。
皮はパリッと香ばしく、身はジューシーで、ほのかに甘い脂が口いっぱいに広がる。
「ピニャァ!(鳥、最高! 海の魚、南国の焼き魚に続いて、北の鳥も制覇! 俺、完全にグルメドラゴンだわ!)」
アレナも串焼きを頰張りながら、珍しく目を細めて笑った。
「ピニャ、食べてる顔が幸せそうだな」
「ピニャ!(当たり前だろ! こんな旨いもん、毎日食いたい!)」
◇
滞在中、町をゆっくり見学した。
中央の市場では、毛皮のコートや氷結晶のアクセサリー、干し肉やジャガイモが山積み。
俺のキラキラ鱗を見て、商人たちが「珍しいミニドラゴンだ!」と集まってくるので、自然と小さなピニャショーが始まってしまった。
「ピニャ!」
軽く宙返りして雪の上にハートを描くと、子供たちから拍手喝采。
銅貨と干し魚のお礼を山ほどもらった。
サラリーマン魂が疼くぜ……この町、商売繁盛だな!
そして、町のシンボルである巨大な教会の大聖堂。
雪で白く輝く石造りの建物で、ステンドグラスに古代ドラゴンと人間の盟約が描かれている。
エルちゃんが手を合わせて祈り、アレナが静かに目を閉じる姿を見て、俺もなんとなく前足を合わせた。
「ピニャ……(俺、こんなところで祈ってるなんて……転生して本当にいろんな経験してるな)」
アレナの傷もすっかり癒え、みんなの体力が回復した頃――市場の酒場で耳寄りな噂を聞いた。
「南の町ドーラクアで、黒いローブの連中がまた暴れてるらしいぜ。黒鱗団の残党だとか……」
俺たちの耳がピクッと反応した。
エルちゃんが拳を握り、アレナが目を鋭くする。
「まだ残ってたか……」
「ピニャ!(あのガルドを倒したのに、まだ終わってねえのかよ! しつこい組織だな!)」
滞在もいいけど、放っておけない。
俺は少し大きくなった翼をバタバタさせ、気合を入れた。
「ピニャ!(よし、南へ向かうぜ! 残党、ぶっ飛ばしてやる!)」
エナルザードの雪景色に別れを告げ、俺たちトリオは再び旅立った。
ジャガイモの温かさとスノーバードの旨味を胸に、ドーラクアでの新たな戦いへ――。
ピニャ魂、まだまだ燃え尽きねえぜ!




