第18話 北の氷原と盟約の真実
天空都市アルカディアを後にした俺たちトリオは、風のペンダントと盟約の鍵の導きに従い、北の果てを目指した。
雪と氷に覆われた大地――ノルディス。
息を吐くだけで白く凍る極寒の地に降り立った瞬間、俺、カウル(通称ピニャ)は全身の鱗が震えた。
「うわっ、寒っ! ピニャ!(この冷え込み、ドラゴンでも死ぬんじゃねえか!?)」
エルちゃんは厚手のマントをぐるぐる巻きにしながらも、キラキラした瞳で周りを見回す。
「カウル! 雪、キレイ! まるでおとぎ話の国だね!」
アレナは革の軽鎧の上に毛皮の外套を羽織り、剣の柄を固く握っていた。
彼女の黒髪に雪が積もり、表情がいつもより固い。
「……ここが、最後の場所だな。気をつけろ」
風のペンダントが俺の首で青白く光り、道を示すように輝く。
俺たちは吹雪の中を進み、巨大な氷の谷へと足を踏み入れた。
谷の奥、巨大な氷の岩壁に囲まれた場所で、俺たちはそれと出会った。
全身が透明な氷の鱗に覆われ、目が凍てつくような青い輝きを放つ巨大ドラゴン――ブリザルド。
「グオオオオ……」
低く響く咆哮が谷全体を震わせ、地面が凍りつく。
ただの威嚇じゃない。
これは本気の殺気だ。
「ピニャぁ!?(でけえ! 海竜のお兄さんより遥かにヤバい!)」
俺は反射的に炎を口に溜めた。
ブリザルドの冷たい視線が俺を射抜く。
その瞬間、風のペンダントと俺のエメラルド色の鱗が共鳴した。
「ピニャ……!」
小さな炎の息を、俺はブリザルドに向かって吐いた。
熱い炎が冷たい空気の中で輝き、氷のドラゴンの鼻先に優しく触れる。
すると、ブリザルドの目がわずかに細まった。
「……お前は、炎の末裔か。小さき者よ」
低く、しかしはっきりとした声が俺の頭の中に直接響いた。
ドラゴン同士の会話――テレパシーみたいなもんか!
「ピニャ!(そうだ! 俺、カウル! 盟約の鍵を探してるんだ!)」
ブリザルドはゆっくりと首を傾け、巨大な翼をわずかに広げた。
周囲の吹雪が少しだけ弱まる。
「盟約の鍵……我が一族が守り続けたものだ。だが、闇の者たちが近づいている」
その言葉が終わらないうちに、谷の奥から不気味な笑い声が響いた。
「ククク……ようやく揃ったな」
黒いローブに身を包んだ男が、影のように現れた。
顔の半分を覆う仮面、胸に巨大な黒鱗の紋章。
その背後には、数十人の黒鱗団員と、魔力で強化された氷の魔獣たちが控えている。
「黒幕……!」
アレナが剣を抜き、声が震えた。
男はゆっくりと仮面を外した。
そこにあったのは、意外にも若い――しかし冷たい目をした男。
元白狼組の騎士団長補佐だったという、ガルドという男だ。
「アレナ・レヴァリス。よくも私の部下たちを見捨てて逃げたものだな。あの任務で死んだ仲間たちの仇……今ここで討つ!」
アレナの顔が青ざめた。
彼女の過去――白狼組を裏切ったとされる事件の真相が、ガルドの口から吐き出される。
「あの時、アレナは黒鱗団の罠に気づきながら、仲間を置いて一人で逃げた。結果、騎士団は壊滅。すべてはお前の臆病のせいだ!」
「違う……! 私は、仲間を守るために……!」
アレナの声が初めて弱々しくなった。
俺の胸が熱くなった。
「ピニャ!(アレナを悪く言うな! お前が黒幕だったんだろ!)」
ガルドが嘲笑い、手を振る。
魔獣たちが一斉に襲いかかってきた。
ブリザルドも咆哮を上げて戦闘態勢に入るが、黒い魔力の鎖がその巨体を拘束し始める。
戦いは苛烈だった。
アレナが剣を閃かせ魔獣を斬り裂く。
エルちゃんが俺を抱きしめながら、風のペンダントの力を借りて小さな風の盾を作る。
俺は必死に炎を吐き続けていたが、極寒の地では炎の威力が半減してしまう。
「くそっ、寒すぎて炎が……!」
その時、ガルドが巨大な黒い氷の槍をアレナに向かって放った。
アレナは避けきれず、肩を深く抉られる。
「アレナお姉さん!」
エルちゃんの悲鳴。
俺の頭の中で、何かが弾けた。
「ピニャァァァ!(みんなを……傷つけるんじゃねえ!!)」
風のペンダント、古代水晶、そしてブリザルドの冷気と俺の炎が完全に共鳴した。
体が熱くなり、同時に冷たくなった。
鱗が青と赤の輝きを放ち始める。
新能力――「氷炎の輝き」。
俺の口から吐き出されたのは、炎でありながら凍てつく冷気を持つ、幻想的な輝きの息吹だった。
黒い魔力の鎖を一瞬で溶かし、魔獣たちを凍結させた上で焼き払う。
ガルドの黒い障壁を突き破り、彼の右腕を吹き飛ばした。
「ぐあああっ!? この力……古代の盟約の……!?」
ブリザルドが咆哮を上げ、拘束を振り切ってガルドに体当たりを食らわせた。
アレナが血を流しながらも立ち上がり、最後の力を振り絞って剣を突き刺す。
エルちゃんの風が俺の氷炎をさらに加速させた。
「みんな……ありがとう!」
三人の――いや、四人の(ブリザルドも!)絆が、黒幕ガルドを完全に打ち倒した。
ガルドは黒い霧となって消え去りながら、最後に呟いた。
「……エルミンの……正体は……」
その言葉を聞き逃さなかった俺は、エルちゃんを振り返った。
彼女は少し寂しげに、しかし優しく微笑んだ。
「後で……話すね、カウル」
◇
戦いが終わると、ブリザルドは巨大な氷の台座を砕き、「盟約の鍵」の完全体を俺たちに差し出した。
それは輝く宝石のようなオーブで、炎と風と氷の力が渦巻いている。
「小さき炎の者よ。お前はもう、立派なドラゴンだ。盟約を継げ」
「ピニャ……!(俺、ついに本物のドラゴン!? サラリーマンだった俺が……!)」
俺はオーブを受け取り、体全体が温かい光に包まれた。
翼が少し大きくなり、鱗の輝きがより強くなった気がした。
エルちゃんが俺に飛びついてくる。
「カウル、かっこよかった! 大好き!」
アレナが血まみれの肩を押さえながら、珍しく柔らかい笑みを浮かべた。
「……お前たちがいなかったら、私はまた……逃げていたかもしれない。ありがとう、ピニャ」
俺はハート型の尻尾を全力で振り、ピニャ鳴きを響かせた。
「ピニャ!(これからも一緒に冒険だ! エルちゃんの秘密も、ちゃんと聞くからな!)」
北の氷原に、朝日が昇り始めた。
盟約の鍵を手に入れた俺たちに、新たな旅の扉が開こうとしていた。
黒鱗団の残党、エルちゃんに隠された秘密、そして俺の本当の力――ピニャ魂、最高潮に燃えてるぜ!




