第17話 天空都市とピニャの新飛行
星屑の遺跡を後にした俺たちトリオは、風のペンダントの導くままに山脈を越え、雲の遥か上を目指した。
バーバル大陸の北東、天空に浮かぶという伝説の都市――アルカディア。
白い雲海を突き破るように現れたその光景に、俺、カウル(通称ピニャ)は思わず翼を止めて見とれた。
「わあぁぁ! 空に街が浮いてる! カウル! 見て見て!」
エルちゃんが俺の背中にしがみつきながら、金髪ツインテールを風に踊らせて大興奮。
8歳の無邪気さが爆発してる。
アレナは革の軽鎧を陽光に輝かせ、剣の柄に手を置いたままクールに空を見上げた。
「風の結界で浮かんでるのか……本物だったな。ピニャ、飛べるか?」
「ピニャ!(もちろん!……多分)」
風のペンダントが俺の首で優しく光り、翼に力を与えてくれる。
三人で雲の階段のような白い道を登り、巨大な浮遊島の入り口に着いた瞬間、風族の少年が俺たちを迎えた。
茶色の短髪に風を纏った羽根飾り、10歳くらいの活発そうな少年――リオンだ。
「へえ、ミニドラゴンに人間の子に剣士か。珍しいパーティだね。……おいおい、その翼、遅いんじゃないの?」
リオンが俺の小さな翼を指さしてニヤニヤ笑う。
おい、初対面でディスってくるのかよ!
「ピニャ!?(遅いって言うな!俺、まだ成長途中なんだぞ!)」
エルちゃんが俺を抱き上げて抗議した。
「カウルはすっごく飛べるよ!リオンくん、意地悪!」
アレナが苦笑しながらリオンに尋ねる。
「長老に会いたい。風の盟約について聞きたいんだが」
「ふーん。じゃあ、試練の塔をクリアしてみなよ。合格したら長老に会わせてあげる」
リオンは悪戯っぽく笑って、空に浮かぶ細長い塔を指さした。
塔の頂上までは風の渦が吹き荒れ、普通の翼じゃ到底届かないらしい。
◇
試練の塔の入り口に立った瞬間、強風が俺たちを襲った。
エルちゃんのツインテールがぐちゃぐちゃに乱れ、アレナが剣で風を切り裂きながら進む。
「ピニャ!(この風、ヤバい! 俺の翼、ちっちゃすぎる!)」
中層まで登ったところで、リオンが横から飛んできてまたからかった。
「ほらほら、遅い遅い! そのキラキラ鱗、飛ぶより飾りになってるんじゃない?」
「ピニャァ!(うるせえ! 見てろよ!)」
俺は風のペンダントに力を借り、翼を全力で羽ばたかせた。
だが、風が強すぎてなかなか高度が上がらない。
エルちゃんが俺の首に腕を回して囁いた。
「カウル、大丈夫。一緒に飛ぼうね」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
サラリーマン時代、誰かに「一緒に」なんて言われたことなかったぜ……。
塔の最上層、手すりのない風の祭壇。
ここで「風を味方につけよ」という試練だという。
俺はエルちゃんを前足でそっと掴み、翼を大きく広げた。
「ピニャ……!(重い……けど、飛ぶ!)」
風のペンダントが強く輝き、炎と風が再び共鳴した。
ゴオオッと背中に熱い風が吹き上がり、俺の体がふわりと浮いた。
エルちゃんを掴んだまま、塔の外へ――長距離飛行!
「わあぁ! カウル、飛んでる! 飛んでるよー!」
エルちゃんの嬉しそうな声が耳に心地いい。
下界の雲海が眼下に広がり、アルカディアの白い塔や風車の街並みがキラキラ輝いている。
俺はハート型の尻尾を振りながら、必死に翼を動かした。
「ピニャ!(重いけど……飛んだ! 俺、飛んだぞ!)」
感動で声が震えた。
アレナが地上から見上げて、珍しく大きな笑みを浮かべていた。
リオンも目を丸くして追いかけてくる。
「マジか……あのミニドラゴン、本当に飛んだ! すげえじゃん!」
試練をクリアし、長老のいる大広間に案内された。
白い髭を長く伸ばした風族の長老が、優しい目で俺たちを迎えた。
「風のペンダントの持ち主……そして、炎の血を引くミニドラゴンか。よくぞここまで」
長老の言葉に、俺は背筋を伸ばした。
すると突然、空に異音が響いた。
ズズズン……!
黒い飛空艇が三隻、雲を割って現れた。
甲板に立つのは、あのザイラだ!
「また会ったわね、ピニャ。盟約の鍵は渡さない!」
飛空艇から黒い魔力の砲撃が降り注ぐ。
アルカディアの結界が軋む音がした。
「ピニャ!(またお前かよ! しつこいんだよ!)」
俺は即座に翼を広げ、エルちゃんをアレナに預けて飛び上がった。
風のペンダントと古代の水晶の力が融合し、鱗が炎のように赤く輝く。
「ピニャァァァ!(くらえ、炎の竜巻!!)」
巨大な炎の竜巻が空を駆け上がり、飛空艇の一隻を直撃。
黒い船体が炎に包まれ、ザイラが悔しげに叫ぶ。
「この力が……まだ完全じゃないというのに!」
残りの二隻も俺の連続炎の波状攻撃で撤退を余儀なくされた。
アルカディアの住民たちが歓声を上げ、俺の名を呼ぶ。
「ピニャ! ピニャ!」
リオンが俺の横に飛んできて、照れくさそうに頭を掻いた。
「悪かったな、遅いって言って。……お前、すごい翼だよ」
◇
戦いの後、長老が俺たちを奥の間に招いた。
古い石の台座に、青く輝く「盟約の鍵」が置かれている。
「北の氷原ノルディスへ行け。そこで真の盟約が待っている。黒鱗団の黒幕は、古代の闇を呼び覚まそうとしている……」
長老の重い言葉に、アレナの表情が強張った。
エルちゃんは俺を抱きしめながら、明るく笑った。
「大丈夫! カウルがいるもん! みんなで絶対勝つよ!」
「ピニャ……(重い責任きた……でも、みんなと一緒なら)」
俺は黄金の首輪と風のペンダントをキラキラさせ、ハート型の尻尾を元気に振った。
天空都市アルカディアの風が、俺たちの次の目的地――北の氷原へと導く。
サラリーマンだった俺が、こんな大冒険の中心にいるなんて。
ピニャ魂、ますます熱くなってきたぜ!




