第16話 ドラゴンの秘宝とアレナの影
星屑の遺跡に足を踏み入れた瞬間、俺、カウル(通称ピニャ)は背筋がゾクッとした。
バーバル草原を越え、荒野の奥深く。
夜空に落ちた星の欠片が地面に埋もれたような、幻想的な廃墟だ。
崩れた石柱の隙間から青白い光が漏れ、風のペンダントが俺の首で小さく震えている。
「カウル! ここ、なんかキラキラしてる! 秘宝、絶対あるよ!」
エルちゃんが金髪ツインテールを弾ませて先頭を歩く。
8歳とは思えない好奇心全開だ。
アレナは剣を抜き、クールに周囲を警戒しながら俺の肩に視線を落とした。
「ピニャ、ペンダントの反応が強い。気をつけろ。黒鱗団の気配がする」
「ピニャ!(またあの組織かよ……しつこすぎだろ!)」
◇
遺跡の中心部へ進むにつれ、空気が重くなった。
天井が開けた大広間。
壁一面に古代ドラゴンの壁画が描かれ、中央の台座に淡く輝く水晶が浮かんでいる。
それが噂の「ドラゴンの秘宝」だ。
「見つけた! あれだ!」
エルちゃんが駆け寄ろうとした瞬間――。
「フフ……ようやく来ましたね、風のペンダントの持ち主」
黒いローブの女が影から現れた。
長い紫髪、冷たい紫色の瞳。
胸元に黒い鱗の紋章。
魔術師ザイラ――黒鱗団の幹部だという。
「アレナ・レヴァリス……久しぶりね、裏切り者」
ザイラの唇が嘲るように歪んだ。
アレナの肩がピクリと震えた。
剣を握る手に力がこもる。
「……黙れ。貴様らに過去を語る義理はない」
「義理? あなたが白狼組を捨て、仲間を見捨てたあの日を忘れたの? あの任務で死んだ騎士たち、あなたのせいよ?」
アレナの顔が一瞬、苦痛に歪む。
俺のピニャ魂がカッとなった。
「ピニャ!(アレナをいじめんな! こいつ、絶対許さねえ!)」
◇
戦闘が始まった。
ザイラが黒い魔力を放ち、影の触手が四方から襲ってくる。
アレナが剣を閃かせて切り裂くが、数が多い。
エルちゃんが俺を抱きしめ、後ろに下がる。
「カウル、危ないよ!」
「ピニャ!(任せろ!)」
俺は翼を広げ、風のペンダントの力を借りて宙に浮いた。
口から炎を吐き、触手を焼き払う。
だがザイラは余裕の笑み。
「ミニドラゴン……面白い玩具ね。あなたも古代の血を引いているようだけど、まだ力の半分も出せていないわ」
その言葉が俺の頭に響いた瞬間、水晶が強く輝き始めた。
俺は本能的に台座へ飛びつき、水晶に前足を触れた。
――視界が白く染まる。
古代のビジョンが流れ込んできた。
巨大なドラゴンたちが空を舞い、炎と風を操り、盟約を交わす光景。
俺の体の中に眠る「炎の力」が、目覚めるような感覚。
「ピニャ……!?(これ、俺の……記憶!?)」
水晶の光が爆発的に広がり、俺の鱗が激しく輝いた。
「いくわよ、ピニャ!」
エルちゃんの声が後押ししてくれる。
シーラの笛の旋律を思い出し、風のペンダントが共鳴した。
「ピニャァァ!(くらえ、炎の竜巻!!)」
俺の口から吐き出された炎が、風を纏って巨大な竜巻となった。
赤と緑が混じり合う灼熱の渦がザイラを直撃。
彼女の黒い魔力の盾が一瞬で砕け、悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
「ぐっ……この力が……! だが、黒幕はまだ……!」
ザイラは最後に不気味な笑みを残し、影に溶けるように逃げ去った。
広間が静かになった。
水晶は淡く光を失い、俺は地面に着地して息を荒げた。
「ピニャ……(俺、主人公!?マジで倒した……すげえ!)」
内心でドヤ顔全開。
サラリーマン時代、こんな大活躍、夢にも思わなかったぜ!
エルちゃんが駆け寄って俺を抱きしめる。
「カウル、すごい! 炎の竜巻、かっこよすぎ!」
アレナが剣を収め、俺の頭を軽く撫でた。
「……助かった、ピニャ。私の過去……いつか話すよ」
彼女の目には、まだ影があった。
でも、少しだけ柔らかくなっていた。
秘宝の水晶を調べると、中に古代ドラゴンの文字が浮かび上がる。
「北の氷原に、盟約の鍵あり」
――バルンガ老が言っていた言葉と一致した。
「ピニャ!(次は北か……ますますスケールでかくなってきてるぞ!)」
ザイラの最後の言葉が引っかかる。
黒幕……まだもっと上の奴がいるらしい。
組織の影は深まる一方だ。
その夜、遺跡の外で焚き火を囲んだ。
エルちゃんは持ってきた干し肉を頰張り、アレナは珍しく俺に焼き魚の欠片を分けてくれた。
風のペンダントと黄金の首輪が、火の光にキラキラ輝く。
「ピニャ!(グルメドラゴンも英雄も、全部俺の仕事だな……まあ、悪くないかも)」
アレナの過去、古代の盟約、そして黒幕の影。
俺たちの旅は、まだ序盤だ。
ピニャ魂、燃え尽きるまで突っ走るぜ!




