第15話 地竜の娘と風の試練
バーバル大陸に上陸した瞬間、俺、カウル(通称ピニャ)は南国の湿った空気と草原の匂いに包まれた。
港から続く広大な緑の平原。
風が草を波打たせ、遠くに巨大な岩山が見える。
エルちゃんは金髪ツインテールを跳ねさせてスキップし、アレナは剣の柄に手を添えて警戒を緩めない。
「カウル! バーバル、めっちゃ広い! 風が気持ちいいね!」
「ピニャ!(確かに気持ちいいけど、なんかヤバい気配が……)」
◇
草原を半日ほど進んだところで、事件は起きた。
地面がゴゴゴと震え、土煙が上がる。
現れたのは体長5メートル級の地竜が三頭。
灰褐色の硬い鱗、角張った頭、牙を剥き出しで低く唸る。
完全に囲まれた。
「ピニャぁ!?(マジかよ! 海竜のお兄さんとは大違い! こいつら本気で怒ってる!)」
エルちゃんが俺をぎゅっと抱きしめ、アレナが剣を抜く。
「後ろに下がれ! これは……縄張りを荒らしたらしいな」
地竜の一頭が前足を振り上げた瞬間――澄んだ笛の音が草原に響き渡った。
「待って! 彼らは悪くないよ!」
現れたのは、茶色のショートヘアの少女。
年齢は12歳くらい、革の服に羽根飾りをつけ、木製の笛を吹いている。
シーラ、と彼女は名乗った。
地竜の娘――この草原で地竜たちと暮らす風の民の末裔だという。
笛の旋律に地竜たちがゆっくりと頭を下げ、去っていく。
俺は安堵のピニャを漏らした。
「ピニャ……(助かった……でも、笛で地竜を操るなんて、すげえな)」
シーラは俺を見て目を輝かせた。
「わあ、ミニドラゴン! キラキラしてる! それに……炎の匂いがする。あなた、特別な子ね」
エルちゃんが即座にシーラと意気投合。
アレナもわずかに警戒を解いた。
シーラの案内で、俺たちは草原の奥にある「風の祭壇」へ向かった。
古い石柱が円状に並び、中央に巨大な風の紋章が刻まれた場所。
ここは昔、ドラゴンと風族が盟約を結んだ聖地らしい。
「この祭壇で試練を受けると、風の力を借りられるって村の言い伝えがあるの」
シーラが笛を構え、優しい旋律を奏で始めた。
すると、突然――草むらから黒いマントの盗賊団が十数人、飛び出してきた。
「黒鱗団の手先だ!」
とアレナが叫ぶ。
どうやら秘宝を狙う組織の影が、ここにも伸びていた。
「小型ドラゴンと風の娘……ちょうどいい獲物だ!」
盗賊たちが短剣と魔法を繰り出してくる。
アレナが剣を閃かせて前衛を捌く。
俺はエルちゃんの肩から飛び出し、小さな炎を吐いた。
「ピニャ!(くらえ!)」
ボフッと炎の玉が二人を吹き飛ばす。
だが、数が多すぎる。
シーラが必死に笛を吹くが、盗賊の魔法で風が乱れ、効果が薄れる。
その時、俺の体が熱くなった。
シーラの笛の音と、俺の炎が共鳴するような感覚。
ハート型の尻尾が震え、キラキラ鱗が風を纏う。
「ピニャ……!?」
俺は本能的に口を開け、炎を吐きながら翼を大きく広げた。
シーラの笛がそれに応えるように高らかに響く。
――ゴオオオッ!
炎と風が融合し、巨大な「風の竜巻」が祭壇を中心に巻き起こった。
盗賊たちをまとめて巻き上げ、草原の向こうへ吹き飛ばしていく。
俺自身もその力に驚いて目を見開いた。
「ピニャ!(風まで!? 俺、炎だけじゃなかったのかよ! すげえ……!)」
竜巻が収まると、祭壇の中央に淡い緑色のペンダントが浮かんでいた。
シーラがそれをそっと手に取り、俺の首(黄金の首輪の隣)に掛けてくれた。
「風のペンダント……あなたに託すね。カウル、あなたは本物の風のドラゴンだよ」
ペンダントは触れると優しい風を起こし、俺の飛行を少しだけ軽くしてくれる気がした。
◇
その夜、シーラの小さなテントで焚き火を囲んだ。
エルちゃんはシーラと一緒に野草のスープを堪能し、アレナは静かに剣を磨く。
俺は新ペンダントをキラキラさせながら、焼き肉をパクパク。
「ピニャ!(風の力、なかなかいいじゃん……グルメドラゴンに新スキル追加!)」
シーラが真剣な目で言った。
「最近、黒いローブの者たちが秘宝を狙って近づいてきてる。気をつけて。……きっと、あなたたちの旅の鍵になるわ」
アレナの目が一瞬鋭くなった。
組織の影はますます濃くなっている。
俺はハート型の尻尾を小さく振り、エルちゃんの笑顔を見て覚悟を決めた。
「ピニャ!(また強くなるぜ……俺、ただのピニャじゃ終わらない!)」
こうしてバーバルの草原を後にした俺たち。
風のペンダントを胸に、次の目的地へと旅は続く。
地竜の娘シーラとの出会い、そして初の融合魔法。
ピニャ魂、ますます加速中だ!




