満たされない日々
「……ん? ちょっ、ちょー!?」
「なんだ、まだいたのか?」
「な、なにいきなり脱ぎ始めてるんですか!? セクハラですよ!」
桃華は悲鳴に似た甲高い叫び声を上げ、真っ赤になった顔を両手で覆っている。
しかし、指の間はガッツリ開いているあたり、むっつりなのかもしれない。
龍二は一度半脱ぎ状態だった上着を下まで戻し、ジト目を向けて呆れたように言った。
「いや、学校行くんだから着替えるのは当然だろ。いつまでも見てないで、出て行ってくれよ、このむっつりスケベ」
桃華は「んなっ!?」とのけ反り、唇をわなわなと震わせる。そして、ますます顔を真っ赤にして頬を膨らませ、目の端に涙を溜めながら叫んだ。
「む、むっつりじゃないもん! 龍にぃのいじわる~~~~~!」
彼女は子供のように叫びながら部屋を出て行った。
去り際まで騒々しい。
だがこれも愛嬌だと、龍二は困ったように眉尻を下げた。
「……まったく、この年でその呼び方はやめろよな。とんだ人選ミスだよ、母さん。はやく出張から帰って来てもらないと困る」
そう呟いて机の上に置いていた写真立てを見る。
かつて、嵐堂家の中庭で撮った写真だ。
二人の少年少女の後ろに、一人の女性と一組の夫婦が写っている
中央ではじけるような笑顔を浮かべ、ピースサインをしている銀髪の少年が龍二。
手を繋いでいる麦わら帽子に白いワンピースの少女が桃華で、その後ろに彼女の両親である銀次と花が立っている。
そして、龍二の後ろで微笑んでいるのが母、鬼屋敷月菜だ。
プロの陰陽師として絶大な強さを持ち、母としての優しさを兼ね備えた女性。
父は物心がついたときからおらず、聞いても教えてはもらえなかったが、彼女が女手一つで龍二を育てた。龍二にとっては誇りであり、尊敬する偉大な人物だ。
今は引退してしまったが、当時の職場での母の先輩にあたるのが嵐堂銀次。桃華の父であり、妻の花と共に月菜の手伝いを快く引き受けてくれたという。
その繋がりで、龍二と桃華は古くからの付き合いなのだ。
「まったく、昔から変わらないな」
写真の桃華を見ながら頬を緩ませ呟いた龍二は、ゆっくり支度をして家を出る――結果、遅刻した。
「――おい、面白い噂を聞いたぜ」
越前にある高校の体育館裏、朝から授業にも出ず、六人の男子生徒がたむろっていた。
彼らは、金髪に染めてピアスをしていたり、剃り込みや刺青を入れていたりとガラが悪い。
体育館の外の段差に座り込み駄弁っている少年たちの中には、カバンを枕代わりにしてコンクリートに仰向けで寝そべっている龍二の姿もある。
彼は遅刻してきて教室に行くでもなく、不良仲間たちのたまり場である体育館裏へ直行し、朝っぱらから授業をサボっていた。
高校を囲む網の柵の外側は、民家の連なる住宅街となっており、通行人から怪訝な目を向けられることもあるが気にしていない。
彼らは別に親友と呼べるわけでもなく、龍二が荒れていた時期に喧嘩を通じて知り合ったというだけで、惰性でつるんでいる。
満たされない、くだらない日々だ。
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