熱血系美少女
――龍二様。
誰かの呼ぶ声がする。
振り向くと、そこにはたくさんの仲間がいた。
大きくて広い古風な屋敷の庭にいて、枝垂桜の下で大勢の仲間に囲まれていた。
人だけでなく、異形の姿をした者たちもいる。
だが、なぜか怖くはなかった。
目の前に母がいたからかもしれない。
その横にいる男は、もしかして……
一歩前へ足を踏み出し、顔をよく確認しようとした。
――龍二、幸せになれ。
「っ!」
鬼屋敷龍二が目を開けると、薄暗い部屋の天井が視界に入った。
いつも見る、なんのおもしろ味もないザラザラとしたコンクリートの天井だ。
夢に見た屋敷と違って風情がない。
龍二は、「ふぅ」とゆっくり呼吸し、身体を起こす。
全身を覆ったふかふかの布団に、横にはダークブラウンな木目調の勉強机。
閉まったカーテンの隙間からは、わずかに陽光が差し込んでいる。
「いっつつ……」
先ほど見ていた夢を思い出そうとすると、ズキリと頭痛がした。
なにか大事な記憶のような気がするが、もう思い出せない。
寝惚け眼を下へ向けながらぼーっとしていると、階下からドタバタと騒々しい足音が聞こえて来た。
それが少しずつ、龍二のいる二階へと上がって来て、彼はため息を吐く。
そして再びベッドへ横になると、掛布団を頭の上からかぶってアルマジロのように丸まった。
「――龍二さーん! 起きてますかー!? 朝ですよー!」
ノックもなく「ドタンッ!」と扉を荒々しく開け放ち、入ってきて早々に凛々しく力強い声が響いた。
その声の主である少女は、真っ先に窓際のカーテンを開ける。
カーテンのフックが横へスライドする音が聞こえ、入って来た陽光が直撃しているのが布団ごしにも分かる。
それでも龍二は微動だにせず、不機嫌さを隠さない低い声で言った。
「うるさい……」
「なに寝惚けたこと言ってるんですか!? さあさあ朝ですよ! 起きてください!」
少女は叫ぶようなハイテンションで言い放つと、強引に掛布団をひったくる。
光を遮断するものがなくなり、陽光にさらされた龍二はさらに丸くなり、視界に入った年下の幼馴染を見ないように腕で目元を覆った。
「あ、熱い……眩しい」
「そんなのすぐに慣れますよ。お天道様に文句言ったら、バチが当たっちゃうんですからね」
「違う、熱いのはお前だ……」
そう、熱い眩しいというのは、陽光に対して言ったのではない。
ベッドの前で仁王立ちする幼馴染『嵐堂桃華』の、はつらつとした笑顔に対して言ったのだ。
熱血系美少女。
そんなあだ名がぴったりだ。
八重歯の似合う甘くあどけない顔立ちは、子犬のような愛くるしさがあるが、キリッとした目元に翡翠の瞳を持ち、面倒見の良い性格もあって快活な印象を振りまいている。
艶のある長い黒髪を山吹色のリボンで一つに束ねてポニーテールを作っており、頭頂部からくるんと伸びているアホ毛がチャームポイントだ。
学校でも男女問わず人気があるが、その暑苦しさゆえにカノジョにしたいと思う男は多くない。
龍二に熱いと言われた桃華は、まんざらでもなさそうに両手で頬を押さえにへら~とにやけている。
「も、もぅ龍二さんったら、お上手なんですから」
「は?」
褒めたつもりはまったくないのに、桃華が不可解な反応をしたものだから、龍二は思わず腕をどけて彼女の顔を見る。
いったいなぜ、彼女は嬉しそうにクネクネとしているのか。
「そ、そんな、私が太陽のようだなんて……なに朝っぱらから口説いてるんですか~~~」
「この能天気娘が」
「むぅ、ポジティブって言ってください……って、それよりも早く支度しないと、学校に遅刻しちゃいますよ!?」
「分かってる。俺のことはいいから、先に行っててくれ。支度してすぐに行くから」
「だーめですー! そう言って龍二さんはいつも遅刻するじゃないですか!? 学年は違っても、窓際の席にいる私にはよく見えるんですからね!」
身を乗り出して力説する桃華。
龍二は目を逸らしてため息を吐いた。
「そーかよ。でも桃華には関係ないことだろ」
「そんなことはありません。私はおばさまの出張中、龍二さんのお世話を任されているんですから!」
自信満々に言い放つ桃華は、両の拳を胸の前で握って鼻息を荒くし、やる気に燃えているようだった。
背後に燃え盛る炎のシルエットが見えてきそうなほどに。
「だから熱いって……」
龍二は観念したようにやれやれと首を横へ振ってため息を吐くと、ベッドから降りた。
大きくあくびをしながら、水色パジャマの上着の裾に手をかけ、まくり上げる。
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