猫と道の話
猫は身体が軟らかく隙間を潜り抜けるのが得意で、眉と頬にある長いひげが触れずに通り抜けられれば、身体ごと通り抜けられるという。そして後ろ足は必ず前足の踏み跡を踏むように歩いているので、前方だけを見ていれば足場を踏み外したり異物を踏むといった事もない。
そんな猫が選ぶ道は、狭いか見晴らしが良いか、不意を突かれる危険性がない所が多い。たとえばブロック塀の上、道端の花壇の縁、屋根の上、排水溝の中、等々。基本的に歩きやすい場所を選ぶから時には人間の道も使うけど、身体を隠せないあまり広い場所は落ち着かないので道路の端の方を通る。基準は同じだからか、猫たちの通る場所は大抵共通した道となっていて、猫たちはそうした道を使って自由自在に立体移動するのだ。
我が家の猫たちの動向が知りたくてついて行こうとしてはそんな人間には不可能な道ばかりをたどられて、何度悔しさに拳を握った事か。街で会った猫に建物と建物のわずかな隙間に逃げられた、という経験のある人も多いかと思う。
我が家の女王様が復活を告げる大ジャンプを披露したのもこの猫特有の身体能力を駆使したルートだ。
このベランダについては、2、3ヶ月後には試行錯誤と訓練の末にリズも隣家の屋根へ飛び降りられるようになったり(パトラは逃げたが追い付かれてしまった!)、庭から上がって来れるように側にそびえる大きなこぶしの木の幹とベランダの間に板を渡して足場を作ってみたり、初期から使われている逆側の我が家の玄関の屋根に下りる一方通行のルートがあったり、と複数の道がある。ただし、屋外からベランダへ上がる為の道はこぶしの木からの一本しかない。
いくつかの障壁に囲まれて独立しているベランダは完全に我が家の領域の内側なので普通は我が家の猫しか来ない。よって我が家の猫達はこのベランダで風に吹かれながら完全に警戒を解いて寛いでいる事も多い。
しかし、何事にも例外はあるもので、我が家の猫達がベランダで寛いだり出入りする姿を見て羨ましくなるのか、時折他所の猫がひょっこり顔を出す事がある。パトラ達が見付ければ当然怒って追い出しにかかるし、もし見付けたのが人間でも侵入者はこちらの顔を見ると「わ、出来心なんだ、ごめんなさい」と慌てて逃げ出す。プライベート空間に侵入した自覚はあるらしい。
しかし猫の道は猫なら使えるのだ。私道の先をこっそり覗いてみたくなるのもわからなくもない。ちなみに家の裏手の方の屋根は完全に公道になっていたりする。
◇
――とととととっ
パトラが茂る柚子の木の葉を避けながら家の裏手に向かって塀の上を走って行った。
我が家の塀の上は猫達の公道だ。パトラ達に限らず、庭に出入りするどの猫達も頻繁に通ってゆく。それなりの高さがあるから上れる場所も限られているのが安心でなおかつ下りるのは自由というのが余計に人気の理由らしい。
――ととととととっ
後からリズが塀に上ってきて追い掛けて行く。またパトラの見回りにくっ付いて回っているようだ。これで追い付けばパトラはまたシャーッと唸って怒るのだろう。かと思えばパトラが近付こうとすれば怒るのはリズなのだから、仲が良いのか悪いのか。
ぐるりと回る家の周囲の見回りの道の途中途中で賑やかな声が聞こえる。二匹の仲はまだまだ発展途上のようだ。




