猫の瞳の話
猫を見て一番印象的なのはあのキラリと光る大きな瞳ではないだろうか。路地を覗き込むと暗がりからじっと猫の光る眼に見返された、なんて体験をしたことのある人は多いかと思う。気味が悪い、なんて言う人もいるけれど、あれは人間が自分に何かしないかな、と警戒して観察しているのだ。優しそうな人だと思えば近寄って来てくれたりもする。気味が悪いと思っている人には猫も察して近付かない。うずくまっているのが黒猫ならば身体が暗がりに溶け込んでしまって眼だけが浮かんでいるように見えて、黒猫は魔女の使い魔という迷信はこんな些細な事から発生したのかもな、と思ったりもする。
猫は夜行性で狩をする生き物だから光量の調整が自由自在で、昼は瞳が細長く線のようになり夜は丸くなりと月の様に満ち欠けするというのはよく知られている話かと思う。
ただし、夜に光を反射してギラリと光る、色のついた地の部分が虹彩で、細くなったり丸くなったりする、人間で言う黒目と思いがちな部分が瞳孔にあたるというのはあまり知られていないかもしれない。
瞳孔とか虹彩とはなんぞや、といまいちピンとこない人はカラーコンタクトを思い浮かべてほしい。あるいは女の子に人気の黒目がパッチリと大きく見えるコンタクトだ。あれの中央の色のついていない、度の入っている小さな円の部分が瞳孔で、色がついていて不透明だったりもする大きな円の部分が虹彩である。虹彩は光を遮るシャッターとかブラインドのような役割なので、不透明なほどに彩色しても大丈夫らしい。またこの部分の模様はひとりひとり異なるので個人認証にも使われている。
人間の瞳の場合、黒目と言われているのは瞳孔+虹彩で、コンタクトで覆うのはこの黒目部分、その外側の地の部分が白目だ。
しかし猫の瞳の場合、形の変わる部分が瞳孔で、地の部分が虹彩、白目は普段は瞼に隠れる程にごくごく僅かしか存在しない。言い変えれば猫の瞳は全体が黒目なのだ。
つまり、ブルーの瞳の猫のブルーの部分は虹彩、ブルーの瞳の人のブルーの部分もまた虹彩で同質である、ということなのである。
そして何故猫の瞳孔が太く大きくなったり細くなったりするかというと、虹彩を動かして瞳孔の大きさを変えることで瞳孔に入る光の量を調整しているらしい。人間の瞳もまた、よくよく黒目を覗き込むとごく僅かだけど光彩を動かすことによって瞳孔の大きさを調整している。絞るように丸く開閉する人間の瞳とは違い、猫の瞳は左右にシャッター代りの光彩を開閉することで瞳全体と言っても良いほどに瞳孔を大きくする事ができる。よく光を反射する虹彩とともにごくわずかな光を捉えて暗闇の中でも視界を確保する為の仕組だ。
そして光量の多い昼間は瞳孔が線のようになるまで虹彩を閉めることでまぶしい光から眼を保護している。暑い日やまぶしい時に窓のブラインドを下ろすようなものだ。虹彩を開閉する方式が違う為に瞳孔の形状も異なっているし、開閉できる幅も違うという事になる。
時々寝ている猫が白目を剥いている時があるが、あれは瞬膜という瞼の内側の膜がめくれて見えてしまっているらしい。人間の白目にあたるのは目頭や目尻のごく一部だけで瞬膜とはまた別物だ。まあ、白目まで晒しているのは安心仕切って無防備に熟睡している証拠でもあるから、信頼の証と思って見掛けてもゆっくり寝かせてあげてほしいところだ。
女王様の瞳がきれいなんだよ、という話を書きたかったはずなのに、猫の瞳の仕組を書いていたら文字数が膨らんでしまってどうにも圧縮できなかったのでそのまま切り出しました。
女王様の話はまた今度します。




