歴代の話~番外・獣医さんのこと~
アラジンの死の翌年の夏、パトラが彼と同じ症状を発症した。例の獣医では今度はパトラも死んでしまう、と思った私たちは違う獣医を探して予約を入れて受診した。
指定時間より早目に着くと先客がいたので車内で待機した。しばらくして犬を抱いて辞する先客と目礼を交わして入った先に居た四十代程のその女医は一目見るなり
「あ、ノミですね。この時期は大量発生するので駆け込んで来る猫や犬は多いんですよ」
と実に気軽ながらもきっぱり断言した。確かに言われてみれば、アラジンもパトラも普段より多くのノミに集られて痒そうにしていた。
そしてノミ駆除の薬剤を首から肩甲骨の間の所に滴下するやり方を見せてくれる。これだけで問題ないらしい。定期的に自宅で滴下することで予防もできると言う。
「ちょっと体力消耗しちゃってるので」
と栄養剤を注射されつつ、あまりに迅速で簡潔な処置に私たちの目が点になったのは言うまでもない。もっと複雑な病気で複雑な処置が必要かと思っていたのである。そして診断通りに翌日にはパトラは実にスッキリした表情になっていて、発疹も1週間程で治った。
アラジンの話をすると、「あー、随分勉強不足な獣医ですね。ペットじゃなくて家畜とかが専門だったのかも知れませんね」とかばいつつも「でも極めて基本的な事なんですけどね」と気の毒そうに言われた。
やはり獣医学も医学の一部、技術は日進月歩だし、人間に対するものを応用する事も多い。毒物誤飲に対しては胃洗浄したり、傷には抗生物質、不妊手術はもちろん複雑骨折には切り開いて直接骨を組み立てるなど様々な手術も行うという。最新技術の取得は欠かせませんと彼女は言った。
ペット専門を掲げる小さな診療所には入院中の猫や犬、小鳥たちが何匹もゲージに入っている。この先生は患者からの信頼が実に篤く、常に診療待ちの患者が絶える事なく繁盛していた。料金も極めて良心的で、私たちもこの後は常連となり何度もこの名医を知人に紹介する事になった。
即日死んでしまったタマや仔犬たちはとにかく、毒を吐いて1週間以上粘ったアレクや怪我が元なシャーロック、何よりもノミが原因のアラジンは、この獣医の下で適切な処置を受けていたならば助かったのかも知れない。
仮定の話だし、彼女でも救えなかったかもしれないけど、それでももっと早く他の獣医を探さなかった、彼女の元に来なかった自分たちが情けなくて、三匹に申し訳なくて仕方なかった。
口コミは大事なのですね。
18/07/19
誤字訂正
・目礼を交わして入った先に居た40台程のその女医は→四十代




