ななじゅう ぷらす きゅう。
王城から帰って来ると、アイヴィーさん達はもう宿に戻ってきておりました。
出る時と同じようにヴェルノさんに抱えられて戻って来た私にアイヴィーさんがニコニコ笑いながら「お帰りなさい。」と言ってくださいます。
それに私も「ただいまなのです!」と返事を返しました。
部屋の隅に置かれた袋の口から見える宝石や豪華な装飾品の類いにヴェルノさんと一緒に笑みが漏れます。アイヴィーさん達も上手くいったご様子なのです。
「この分なら暫くは金に困らねェな。」
「あら、ウルフは一度だってお金に困った事なんて無いでしょう?」
「まぁな。」
楽しげに言ってアイヴィーさんがヴェルノさんにお酒の入ったジョッキを手渡します。
全員がジョッキを持つと船員の方々はどこから持ち込んだのかヴェルノさんの船にいつも掲げている海賊旗を持ち上げました。
全員が今か今かと色めき立っている中、ヴェルノさんがニヤリと笑って立ち上がる。
何故か私は子供のように片腕に座る形で抱き上げられて、思わず首にしがみ付いてしまったのですよ。
「計画の成功と新しい家族に乾杯!」
「「「「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」」」
叫ぶように皆さんがジョッキを掲げました。
言葉の意味を理解してヴェルノさんを見れば、ジョッキの中身を全て煽って、そのままキスされてしまったのです。
恥かしいし、お酒の味が苦いしでお世辞にも素敵なキスとは言えません。
けれどもヴェルノさんからの好意を受け取らない理由はもう、私にはないのです。
ギュッと抱き付けば唇が離れた後にヴェルノさんが満足そうに笑いました。
周りの皆さんが冷やかすように口笛を吹いたり、手を叩いたりして、でも皆さんの表情はとても優しかったのですよ。
何より私を見つめてくるヴェルノさんは甘い蕩けるような瞳のままだったから、私自身も舞い上がって勢いのままヴェルノさんの頬にキスを返しました。
これからはずっと一緒にいてくださいね、ヴェルノさん!
翌朝、王都は王城の宝物庫が荒らされたと大騒ぎになったそうなのです。
私達は日が昇る前に王都を出て、そのお話を聞いたのは既に海に出てからのことでした。
甲板では船員の方々は失敬してきた宝石などをお互いの身につけて遊んでおります。
普段は離れた場所にいるヴェルノさんも珍しく今回は傍でその様子を眺めていて、私は胡座をかいた足の上に座って果実水を飲んでいます。
「ヴェルノさん、とっても楽しそうなのです。」
上を見てぺたぺた頬を触ると喉の奥で笑って私の手に何度も悪戯をするみたいにキスしてきます。
…むっ、これは酔ってますね?
手元のジョッキを奪ってみても、笑って私の手ごとジョッキを持つと旗へ掲げた後に一気にお酒を飲んでしまいました。
「飲み過ぎは体に悪いのですよ?」
「じゃあ酒の代わりに真白、お前が俺を楽しませてくれんのか?」
「なっ、た、楽しませるって…?」
艶めいた低い声でぼそぼそと耳元で話されるので、くすぐったいやら何やらで肩を竦めてしまいます。
お腹に回された腕にギュッと力がこもり、隙間をなくすように抱き寄せられました。
はぁ…とアルコールの香りがする熱い吐息が首にかかるのです。
「そりゃ勿論、こういう事だろうなぁ?」
「ひゃっ…?!」
ぺろりと首を舐められて悲鳴を上げてしまいます。
誰か助けてくださる方は?!と周りを見てみても、大半の方は既に酔っ払って騒いだり寝こけたりしておりまして、幹部の方々は遠くで楽しげに談笑しています。
唯一目の合ったアイヴィーさんはパチンとウィンクを一つして幹部の方々の中へ混ざっていってしまいました。
「もう逃げらんねェな、真白。」
嬉しいような、嬉しくないような死刑宣告にも似た言葉を零しながらクツクツ笑うヴェルノさんに抱きかかえられ、私は船内へ戻らざるを得なくなるのです。
羞恥で死にそうな気もします。私がドキドキしているのはきっとバレているでしょう。
悪く笑うのに酷く優しい瞳で見下ろされてしまえば私は逃げることなんて出来ないのですよ。
「お、お手柔らかにお願いします…です、」
「理性が残ってりゃ、程ほどに手加減してやるよ。」
「うぅ…っ、一生のお願いなのですよー…。」
―――――Fin.
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
これで【Jolly Rogerに杯を掲げよ】の本編は終わりとさせていただきます!!
ですが、一応この後にAnotherストーリーを書かせていただくつもりですので、まだまだヴェルノと真白をお楽しみにしてもらえると嬉しいです^^