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第4話 第二の超能力

犯人を取り押さえてから、数十秒後――

牧原が息を切らせて駆けつけてきた。


「はぁっ……! 片山くん、大丈夫か!?」


片山は地面に押しつけている男の背中を見ながら言った。


「大丈夫だ。犯人は捕まえた。リュックも無事みたいだ。」


牧原は犯人の背からリュックを奪い返し、中を確認する。

財布、スマホ、ノートパソコン――どれも無事だった。


「……よかった。全部ある。」


安堵のあまり、牧原はその場にへたり込み、深く息を吐いた。

全身の力が抜け、頬が少し青ざめている。


「まだ気を抜くなよ。警察に電話してくれ。逃げられたら面倒だ。」


その声で我に返った牧原は、慌ててスマホを取り出し、警察に連絡した。

その間も、片山は無言で犯人の腕を押さえつけ、逃げ出さないように見張っていた。



それから三十分後。

パトカーが到着し、牧原が事情を説明する。

警官たちはすぐに犯人を連行し、パトカーに押し込んだ。


後日、警察の調べで――

その男が大学近辺で三十人以上から貴重品を盗んでいた常習犯だと判明し、刑務所送りになったという。



事件が一段落し、静かになった通り。

片山は小声でつぶやいた。


「……なぁ、牧原。さっきの、誰かに見られてないよな?」


心なしか声が震えていた。

超能力を使った――その事実が胸の奥で重くのしかかる。


「大丈夫だよ。」

牧原は落ち着いた声で答える。


「警察には“君が急に高速移動した”なんて話してないし、周りも人通りがなかった。多分、誰にも見られていない。」


「……そうか。なら、よかった。」


犯人が逃げた場所は人気のない裏通り。

幸運にも、牧原以外の誰にも片山の“異変”は見られていなかった。



「いやー、ほんと助かったよ。ありがとう。」

牧原が微笑む。


「いや、よかったのかこれ……」


「え?」


「だってさ、君の超能力は“時間停止”だったはずだろ? 今のは、どう見ても“高速移動”にしか見えなかった。」


「いや、違うんだ。」

片山は首を振る。


「俺が速くなったんじゃない。――周りが遅くなったんだよ。」


「……周りが?」


「そう。時を止めろって思った瞬間、世界がゆっくり動き始めた。止まるんじゃなくて、“遅くなる”。」


「……時が遅くなる超能力。」

牧原の目がわずかに見開かれた。


「もしかして……第二の超能力か。」


「第二の超能力? 確か資料に書いていたけどあれっていったい何なんだ?」


「ここじゃまずい。人も通るし……今夜、オンラインで話そう。詳しく説明する。」


「わかった。夜は空いてる。」


「じゃあ僕は資料をまとめておく。また今晩な。」


二人は別れ、家路についた。



片山は家に帰ると、風呂に入り、夕食をとり、スマホをいじりながら時間を潰した。

時計の針が20時30分を指した頃、LINEの通知音が鳴る。


牧原からのメッセージだった。

――「資料の準備ができた。今、通話できるか?」


片山は「いいよ」と返し、通話を開始する。



「もしもし、聞こえるか?」

「うん、聞こえてる。」


互いの声が、スピーカー越しに部屋の静寂を震わせた。


「じゃあ早速、片山の超能力について話そう。まず、“第二の超能力”について説明するね。」


「それって、二つの能力を持ってるってこと?」


「いや、ちょっと違う。」

牧原は言いながら、LINEで一枚の資料を送った。



■ 第二の超能力(覚醒能力)

• 既存の能力が覚醒・進化することで現れる「第二の超能力」

• 覚醒の条件は不明で、ごく稀にしか発現しない

• 第二の能力は、今の能力の“上位互換”であり、通常より遥かに強力

• すべての第二能力は「条件発動型」に分類される

• 第一能力が発動している間にしか使えない

 (※第二能力は第一能力を“土台”として構成されるため)



「……つまり、“進化した能力”ってことか。」


「そうだね。ドラ○エで言えば、“メラ”が“メラゾーマ”に覚醒するようなものだよ。」


「なるほど、同系統の上位互換ってことか。まったく別物じゃないんだな。」


「その通り。だから片山の“時が止まる”能力が覚醒して、“時が遅くなる”能力に変化した――そう考えられる。」


「でも、もともと二つ持ってたって可能性は?」


「ないね。」

牧原の声がはっきりとした。


「AMOの研究で、“一つの身体に宿る能力は一つだけ”って証明されている。だから二つ持つのは不可能なんだ。」


「なるほど……じゃあ、第二の能力は“派生”みたいなもんか。」


「うん、まさにそれ。」



「で、僕なりに仮説を立ててみた。」

牧原は、わずかに興奮を含んだ声で続ける。


「片山の超能力は――“制御不能な制限発動型”。そして今日、覚醒した“第二の能力”が“時の遅延”なんじゃないかって。」


「……制限発動型? でも前に話したときは条件発動型だって言ってなかったか?」


「そう思ってたけど、やっぱり違う。君の記録を見る限り、どの日も“1日3回、合計30分以内”しか発動してない。一週間も続いてこれは偶然じゃないと思うんだ。」


「……確かに。」


「で、問題は“なぜ平日の昼休みだけ”発動するか、だよ。」


「そこなんだよな。規則的すぎる。」


「思い出してみて。昼休み、君は何してる?」


「講義終わって、急いで食堂に向かう途中だ。」


「そう、朝ごはんを食べずに登校してるって言ってたよね。」


「うん。空腹で、昼はできるだけ早く行きたいから。」


「つまり、“空腹によるストレス+軽い身体的衰弱”が重なってる状態。

 しかも“AMOに見つかる不安”という精神的ストレスもある。

 この三つが重なって、超能力が暴走した――僕はそう考えてる。」


「確かに……ありえるかもな。」


「強力な能力ほど、心身の負荷に影響される。資料にも書いてあるだろ?」



■ 超能力が制御できない理由

• 能力自体が強すぎる

• 肉体的な疲労や病気

• 精神的ストレス・恐怖・怒り



「なるほどな……」


「つまり、君の“時を止める能力”は本来制限発動型だけど、ストレスが引き金になって暴走してた。

 そして今日、覚醒した“第二能力”――“時を遅くする力”が、同系統の上位互換として発動したんだ。」


「これが俺の仮説なんだけどどうかな?」


「……確かに筋は通ってはいるけど。少し違和感がある。」


「言ってみて。」


「まず一つ。制御できないのはいいとして……“時が止まった後、どうやって解除した”んだ? 自分で解除できた覚えはない。」


「たぶんストレスが和らいだからじゃない?」

「“もう解除しろ”って思ってたんだろ? その意識がきっかけになったんだ。」


「……まぁ確かに“めんどくせぇ、早く戻れ”とは思ってたな。」


「ほら、それだ。」


「でも、和らぐって感覚はなかったけどな。」


「ストレスってのは、自分じゃ気づけないものなんだよ。」


「……そんなもんなのかな。」



「次に二つ目。資料には“第二能力は第一能力発動中にしか使えない”って書いてある。

 でも、俺は“時が止まる”を発動してないのに、“時が遅くなる”が起きた。これは矛盾しないか?」


「それは……同時に発動したんじゃないかな。

 本当は“時を止める”が起点で、その直後に“時の遅延”が起きた。

 でもタイミングがほぼ同時だったから、そう感じなかっただけかもしれない。」


「……一理あるな。」



「で、最後の三つ目。」

片山は少し笑いながら言った。


「“第二の能力は上位互換”って言うけどさ、普通、“時を止める”の方が“時を遅くする”より上位じゃない?」


「あ、言われてみれば...。」

 牧原が言葉を詰まらせる。


「つまり、上下関係が逆なんだよ。」


「た、確かに……逆だな。」


二人はしばし沈黙した。


「うーん、わからなくなってきたな。」


「僕もだよ。」


牧原が苦笑する。



 気づけば時計は深夜を回っていた。


「もうこんな時間か……結局、真相には辿りつけなかったな。」


「でも、確実に前よりは近づいてるよ。」


 そう言いながらも、牧原の声には少し悔しさが滲んでいた。


「僕、もっと資料を探してみる。また何かわかったら連絡するね。」


「……なぁ、牧原。」


「ん?」


「なんでこんなに超能力について詳しいんだ?俺のために何日も資料を集めたり……正直、悪い気がする。」


 一瞬の沈黙のあと、牧原は静かに答えた。


「……僕には夢があるんだ。」


「夢?」


「昔ね、超能力を持った友達がいたんだ。でも、危険だと判断されて、AMOに連れて行かれた。――無実だったのに。」


 牧原の声が震えた。


「その時、思ったんだ。本当に危険なのは“能力”じゃなくて、“理解しようとしない人間”なんじゃないかって。」


「だから、僕は超能力の研究を続けてる。」


「超能力を制御する方法を見つければ、もう誰も理不尽に奪われない。」


「それに……もう、これ以上大事な友達を失いたくないんだ。」


通話の向こうで、短い沈黙。

片山は目を閉じ、小さく息を吐いた。


「……そっか。」


「じゃあ、また明日な。」


「……ああ。また。」



通話が切れたあと、部屋には静寂が戻った。

片山はベッドに寝転び、天井を見つめたまま呟いた。


「……夢、か。牧原はすげぇな。」


「夢か...僕は……何がしたいんだろう。」


その問いに答える者は、誰もいなかった。

思考を巡らせても答えは出ず、やがて瞼が重くなる。


そして――夜は、静かに更けていった。


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