「兆し」
お待たせ致しました。今日から再開であります
その吉村宅に向かうに当たって和香様、変身したままで帰ったらどうかと笹姫達に言うのだが、いくら何でもそれは悪戯に過ぎると雨子様が一喝。
その余りにしょんぼりとした姿が可笑しくもあり、意外でもあり、下を向きながら口元に手を当てた笹姫は、必死になって声を抑え、小刻みに肩を揺らしている。
一方次郎太は、気持ちがもう追いついていかないと見えて、有らぬ方を見ながら呆然とした表情。その姿を見ていた雨子様、これから大丈夫かなと少し心配になってしまうのだった。
しかし、そのような時のために腕輪が有るのだと思い、、まあ何とかなると考えを改める雨子様なのだった。
実際雨子様の能力を持ってすれば、例えどんな事態が起ころうとも、ほぼ瞬間的に答えを返すことが出来る。
だがそう考えた所で、また別の問題が浮かんできてしまうのだ。
そう、いくらどう対応したら良いかと返しても、それを受け取った側が、即座に反応出来なければ意味が無いのである。
此処で心配されるのは次郎太かと思いきや、実は笹姫の方がより大変なのであった。
如才ないという意味でなら笹姫の方が圧倒的に優れている。
だから通常であれば恐らく笹姫の方が圧倒的に諸事をこなすのだろう。
だが彼女が再現しなくてはならないのは、ことも有ろうに雨子様なのだ。
いくら気働きの良い笹姫であったとしても、雨子様として怪しまれないだけの反応を返せるかというと、微妙であると言わざるを得ないのだった。
そこでどうしたものかと少し悩んでいると、気が付けば祐二の目が雨子様のことを見つめているのだった。
「なんじゃ祐二?」
少し嬉しいと思う内心の思いを隠しながら、当たり前に尋ねる雨子様。
「ん、珍しく何か思い悩んでいるみたいだから…」
雨子様に尋ねられた祐二は、僅かに照れくさそうにそう返すのだった。
普段ぼんやりしているように見えて、この様に時として核心を突いてくる所が面白い。
そう思う雨子様なのだったが、一体自分の何を見てそう感じたのだろうと、矢庭に好奇心がむくむくと擡げられるのだった。
「どうしてそう思うのじゃ?」
「普段でもたまに何か考えているなって思うことはあるんだよ?でも今のは少しだけいつもより長い?」
「ほう…」
そう言いながら雨子様は感心する。何故なら、何かを考えるにも雨子様のこと、その時間たるやいつも一瞬に過ぎないのだった。だからその心の内が肉体の動きに反映されるにしても、恐らく兆しでしか無いはずなのだった。
「しかし、それほど我の表情は読み易いのかえ?」
そう問う雨子様に、祐二はちょこんと首を傾げながら言う。
「ん~~、表情の変化とかそう言うのじゃ無いんだよ、何と言えば良いのかな…揺らぎ?」
「なんじゃそれは?」
少し驚きながら問いかけるのだが、なんとも良く分からないと頭を振る雨子様なのだった。
一方祐二も苦笑しながら返してくる。
「さぁ、僕も今一良く分からないんだよ」
要領を得ない祐二の答えに、雨子様もまた大いに苦笑してしまうのだった。
しかし祐二はこうやってよくよく、言語化が上手く出来無かったりはするのだけれども、それでも往々にして物事の核心を突いてくる。
雨子様はそんな祐二のことを本当に面白いなと思うのだった。
さて祐二のことはともかく、問題は笹姫のことなのだった。
当面自身の中だけで答えを出そうにも限界がある。一度笹姫と協力し合いながら、習うよりも馴れろ方式でやってみるしか無い、そう考える雨子様なのだった。
これが自身の中だけで完結することであれば、こうも苦労することは無いのだ。
ところがこの様に誰かが絡むことで、途端においそれとは簡単に行かなくなってしまう。
だが今の雨子様は、それをもすら面白いと感じるのだった。
「ともあれこれ以上はどうしようも無さそうじゃ、一旦は家に帰るとするか…」
そう言うと雨子様は、笹姫達の方に向かって言う。
「其方達これから祐二の家へと参ろうと思うのじゃが、何か支度する物は有るのかや?」
すると傍らでそんな雨子様達のことを、なんとも面白そうに見守っていた和香様、ほんの少しだけ自慢げに言うのだった。
「それやったらもう準備出来てるで?着の身着のままこっちに呼び寄せ取ったから、昨日の内に小和香と、色々入り用になる物を買いに行かせとってん。部屋の隅っこにキャリーバッグおいてあるやろ、あれがこの子らの私物になってるねん」
そう説明する和香様に、笹姫が嬉しそうに笑みを向けている。
「笹姫よ、何か気に入った物でも買うてもらえたのかや?」
そう問うてくる雨子様にこくりと頷いて見せる笹姫。
「色々服や身の回りで必要になるものを買って頂きました。今世は本当に目にも綾な衣装が、これでもかと溢れかえっているのですね…」
「むぅ、確かにそうかも知れんの…、じゃが楽しめたかや?」
「はい、しかし分からぬことだらけで御座います」
「それはまあ、そうであろうなあ」
雨子様自身も過去を少し振り返りながら、笹姫達の苦労にそっと心を寄せるのだった。
そんな雨子様に和香様が更に願い事を言う。
「それでなんやけどな雨子ちゃん、この子らが苦労せんように位は、色々知識を補完してやってくれる?うちもなんぼかやろうとは思てんけど、こういうのって言ってみたら雨子ちゃんの専門やん?なまじうちが中途半端に手ぇ~出すより、一括して任せた方がええかな思て、やらんといてん」
和香様のその説明を聞いた雨子様は、うんうんと頷いて見せる。
雨子様としては和香様のその配慮、とても有り難く思えることなのだった。
「うむ、助かるのじゃ和香。素直に情報を導入し、それに基づいた条件付けをするにはその方が都合良いのじゃ」
雨子様は和香様に向かってそう言うと、今度は笹姫達に顔を向け、優しく包み込むような笑みを浮かべて言うのだった。
「安心するが良い、これから其方らが行く所は、沙喜の処と変わらぬような優しき処ぞ。思い悩まずとも素直にあるがままで居るが良いよ」
そう言うと和香様に向かって軽く頷き、祐二を促して部屋から出ていくのだった。
束の間顔を見合わせ合った笹姫と次郎太、どちらとも無く頷き合うと、キャリーバッグを手に雨子様達の後を追い始める。
だが部屋を出た所で振り返り、和香様達に丁寧に頭を下げるのを忘れないのだった。
思えば本当に登場人物増えたなあ・・・
えらいこっちゃ
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