「雨子様の内緒」
お待たせしました(^^ゞ
少しうつむき加減で、何とも可愛らしく祐二のことを罵倒する雨子様。
だが…、ちっとも、さっぱり、まるっきり、罵倒になっていないのだが、それを見ていた和香様と小和香様、御二柱共に手を手を取り合い、悶絶せんがばかりに顔を赤くしているのだった。
「わ、和香様…」
言ってはいけない言葉が、思わず口から自然に溢れてしまいそうになる。そんな何かを必死になって避けるかのように、とにもかくにも和香様の名を呼んでいる小和香様。
一方その和香様、唇に人差し指を押し当てながら言うのだった。
「し~~、し~~や、小和香、今はおとなしゅうにしてるんや…」
だが言うまでも無いことなのだが、いくら小声で話そうとも、彼女らの会話は全て雨子様にまる聞こえなのだった。
だが何がそうさせたのかは分からないが、今の雨子様は特に何を言うでも無く、じろりと目を走らせるだけなのだった。
本当のところは何かを言いたいと言う気持ちが、ありありと分かるのだが、にこにこ笑顔を浮かべている祐二のことを見ると、はぁっと小さく溜息をつくだけで、全て思いを飲み込んでしまうのだった。
そんな皆の様子を見ながら、つい先程まで青くなっていた笹姫がそっと呟く。
「神様方は皆さん、仲が良いのですね…」
その言葉を聞いた三女神は揃って苦笑してしまうのだった。
「さてそれでなんやけど祐二君…」
何とか平静を取り戻しつつある和香様が祐二に向かって言う。
「旅をするにも何をするにも、先立つ物が要るやろ?と言うわけでこれな…」
そう言うと和香様は分厚い封筒を一つ手渡してくる。
受け取った祐二が中を覗くと、現金と、以前渡されたことがある、普段お目に掛かることなどまず無い例の黒いカード。
「げっ?またこれですか?」
思わずどん引きしながらそう述べる祐二。幸いなことに、前回渡された時には使う場面には行き当たらなかった。
適うなら今回も、こんなカードを使う羽目には陥らないようにと、切なる思いで居る祐二。しかしこのデジタルマネー時代、果たしてそう上手く行くかどうか、何とも怪しい先行きなのだった。
触れてはいけない、何かの忌避物でも掴むように、こわごわとカードをつまんでいる祐二のことを見ながら、雨子様は和香様に問うた。
「それでいつ頃から行けば良いのかえ?」
そう言う雨子様に、和香様は腕を組みながら答えるのだった。
「そうやねえ、早ければ早いほど良いのは事実や。そやけど…」
そう言うと和香様は、笹姫達のことを見るのだった。
「いくらお膳立てとして出来るだけ多くの情報を与えたと言うても、そう何もかも思惑通りにはいかへんやろう。そやから数日はまず様子見せんとあかん思うで」
和香様のその意見には、雨子様も賛成のようだった。
「確かに和香の言う通りじゃな。学校が始まってから数日ずつ、交互に相方を変えて通学してみるのが良いかも知れんの…」
見ると祐二はその方式に賛成の様子なのだが、祐二以上に賛成というか、ほっとして見えるのが笹姫と次郎太なのだった。
先程までは青くなったり赤くなったり、緊張しっぱなしだった二柱が、今では目に見えてほっとした感じになっている。
「ともあれ今日は一旦連れ帰るかの…」
そう言いながら祐二のことを見る雨子様に、彼はこくりと頷いて見せるのだった。
「そしたらこれも渡しとくな」
和香様がそう言いながら、薄い緑の腕輪を笹姫と次郎太に、濃い緑の腕輪を雨子様へと渡すのだった。
「ふむ、少し試してみるか…」
各自が腕輪を付けたのを確認すると、雨子様はふっと腕輪に意識を集中させる。
「おお、これはように出来ておるの」
今、雨子様の脳裏には笹姫と次郎太から、あらゆる情報が一気に流れ込んできているのだった。
「確かにこれは祐二には無理じゃの…」
雨子様はそう呟くように言うと、いきなりきっと和香様のことを睨む。
「それにしても和香、これはちとやり過ぎじゃぞ?」
だがその和香様、今一何を言っているのかピンとこないようなのだった。
「ええ?それは一体何を言うてるのん?」
そう言う和香様の言葉に、雨子様はつと首を傾げる。
「ああなるほど、確かに和香の言うのも分からんでも無いの」
等と独り言ちするように言っている雨子様のことを、口には出さないが、祐二が何だかじれったそうに見つめている。
その様子に気が付いた雨子様、致し方なしとばかりに説明を始めるのだった。
「祐二も知っておるように、我ら神族は嘗て個々では無く全体で一つの意識体となって居った。じゃがそう言う形を取りはしていても、それでも個々に身の内に置きたきことも有るものじゃ。そう言ったものを守る為我らは、各々自動で心の中に障壁を設け、全体とは混じらぬように区別して居ったのじゃ」
そこまで言うと雨子様は、笹姫と次郎太に視線を向ける。
「じゃからこの様な腕輪を付けたとて、必要な情報は自動的に守られるように、心が自然に成り立っておるのじゃ。しかしながら笹姫達のような龍は、そう言った集合知の経験がまるで無い。故にこの者達には自動障壁に当たるような物が、心の中に存在しておらんのじゃよ」
不思議そうな顔をして祐二が尋ねる。
「そうしたらどうなるの?」
珍しく雨子様が、困ったなと言うように頭を掻きながら言うのだった。
「この腕輪はこの者達の殆ど全ての情報を、分け隔て無く伝えるように出来ておる、非常に広帯域じゃな。それはつまりこやつらの心の中にある、感覚思い善悪好き嫌い等、全てが我に伝わってきて居るという訳なのじゃ…」
その言葉の意味が伝わり、きちんと理解されるまでに数瞬の時が流れる。
「うげ!それは酷い!」
とはまず祐二、さすがにあらゆるSFを読み漁ってきているだけのことはある。
そして次に理解したのが笹姫なのだが、みるみるうちに顔を赤くしながら、悲鳴のような声を上げるのだった。
「いやぁ~~~、どうか、どうかお許しを~~」
そう言うと真っ赤になった頬を押さえながらその場で蹲ってしまうのだった。
一方、ことここに至っても相変わらず次郎太は何が何やらの状況。
一体笹姫が何を騒いでいるのかと思い、当の笹姫に聞こうとはするのだが、笹姫本人は次郎太に常に背を向け、何を語ろうとも言葉を聞こうとしない。
これは一体どうしたことかと、頭を抱える次郎太。一人途方に暮れていると、心配になった祐二がそっと近づき、噛み砕いて説明して上げるのだった。
「あのね次郎太さん、つまりはね、この腕輪を付けていると、次郎太さんの考えていることや思っていること、誰かのことをどう感じてどう思っているかってことが、皆雨子様に伝わってしまうってことなんだよ」
しかしそこまで説明して尚ピンとこない次郎太、この上どうやって説明した物だろうかと、暫し祐二が思案していると、その間に次郎太にどうやら理解が始まったようだった。
「あの…それはもしや…おえが笹姫様のことを…その、あの…うわぁ~~」
悲鳴のような声を上げてその場に蹲ってしまう次郎太。
その次郎太と笹姫のことを交互に見ながら祐二が言うのだった。
「これどうするの?」
「全くじゃな…」
そう言いながら今度は雨子様が和香様のことを見る。
すると和香様、まさか自分にお鉢が回ってくるとは思わず、心底仰天しながら言うのだった。
「ええええ?それってうちが悪いのん?」
すると雨子様、大いに苦笑しながら和香様の肩を慰めるように叩くのだった。
「まあ和香も悪気が有ったわけで無し、我ら神族としてはなかなか気が付きにくい所よの。やむなきことと言えないでも無いか…。これ笹姫、次郎太、聞くが良い」
そう言いながら雨子様はほんの少しだけ覇気を纏って、床に蹲っている二柱の竜神達を睨む。
さすがにその一睨みは、思った以上に効果があったらしい。
未だ顔を染めながらも一生懸命に居住まいを正し、その場にきちんと座り直しては、真剣に雨子様のことを見るのだった。
「まず最初に謝っておくの笹姫、次郎太。予め我がもう少しこの腕輪の性質を理解しておけば、斯様な自体にはならなかった、本当にすまぬ。ただ一つ断っておくが我は神じゃ、其方らのような存在が我ら神に願掛けをする時には、屡々その心の内の多くを受け取って居る。ある意味此度のこととそう変わらんのじゃ。故に我らはそう言った秘密を守ることに長けて居るし、それを知ったからと言って、どうこうする物でも無いのじゃ、そこまでは分かるかや?」
涙ぐんだ目をしながら、雨子様の言葉に静かに頷いて見せる笹姫。
そんな笹姫の動きを目にして少し安心したのか、同様に頷いて見せる次郎太。
「故に安心するが良い、其方らの心はきちんと守られて居る。更に加えるならば、我の方でこの腕輪に今少し改変を加え、余分な心の動きを伝えて来ぬようにしておく。じゃからもう安心するのじゃ、良いな?」
素直に「はい」と答える二柱の姿にほっと安堵しながら、ふと考えてぞっとする祐二。もし自分が腕輪を付けていたら…。
ところがそんな祐二の心の動きは、とっくの昔にお見通しの雨子様。顔色を変えている祐二に背を向けると、にやにや笑いが止められないのだった。
先日も書いていますように、明日は更新お休み致します。
明後日にはまた書けるかと思います、ご容赦の程よろしく(^^ゞ
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