「鳴動」
お待たせしました。
一頻りの笑いの後、和香様は真面目な顔で祐二に言うのだった。
「祐二君の心配しとる件なんやけど、うちもそこんところは考えとってん。それに現地行った時、ことと次第によって何があるや分からへんやん?そんな場合に自分らだけで何の力も無いのは問題や思てな…」
和香様はそう言うと、小和香様が手渡してきた、二冊の手帳と思しき物をすっと目の前に置く。濃緑色の色合いで静けさを感じさせられるものだった。
「何じゃそれは?」
そう言う雨子様に、和香様がにんまりと笑みを浮かべながら言う。
「百聞は一見にしかずやで?なあ中見てんか?」
和香様手ずからそれぞれ手帳を受け取り、言われるがまま中を確かめる雨子様と祐二。
「何じゃこれは?内閣神域調査官?」
「僕のは補佐がついてる!」
二人の注意が自分に向いたのを確認した上で、少し自慢げな表情をしながら話し始める和香様。
「それ、日本政府と折衝して作った本まもんやで?」
「何じゃと?」
目を丸くする雨子様。まさか和香様がここまで本気で物事を運ぶとは、思って居なかったのだった。
「いっつも二人には苦労させとるやろ?そやから今回は少しでも助けになるようにって、うちも相当がんばったんや、褒めてくれてもええんやで?」
そう言うと、ふふんとばかりに反っくり返る和香様。それを見た雨子様、何を思ったのかすっと席を立つと和香様の処に向かう。
それを見た和香様が、雨子様の真剣な表情を見て急に焦り出すのだった。
「わわわ、何々何やのん?」
だがそれに直接反応すること無く、雨子様はそのまま和香様の側に立つ。
そしてくりくりと、その頭を丁寧に撫で付けて上げるのだった。
撫でられている間、がちがちに固まった表情になる和香様。
雨子様が撫で終わって手を下ろすと、ほっとした表情になりながら言うのだった。
「あ~~~怖かった…。何されるんかと思った…」
それを聞いた雨子様、ぷくっと頬を膨らませると、ぴしりと和香様の頭を叩く。
「ああああ…」
笹姫様達の方から声が漏れ、そちらを見ると二人揃って顔を青くしている。
「何が怖かったじゃ?其方が褒めろと言うたから褒めたのでは無いか?それが何じゃと?怖いじゃと?」
大むくれにむくれる雨子様なのだった。
それを見た和香様、揉み手をしながら雨子様に謝る。
「ごめんごめん、ごめんやて。今はちゃんと褒めるためやと分かって、めっちゃ喜んでるねんで?わ~~、嬉しいなぁ~!」
そうやって取って付けたように喜んでみせる和香様に、ぷりぷりとしながら雨子様は言うのだった。
「それで?」
何の脈略も無くそう言う雨子様に、きょとんとした和香様が言う。
「それでってなんやのん?」
そう言う和香様のことを、じろりと睨め付けながら雨子様は言うのだった。
「これが黒龍の調査と言うだけなら、和香はそこまで動かんかったじゃろう?」
雨子様のその台詞を聞いた途端に、和香様と小和香様は目を見合わせるのだった。
「やっぱりなあ、智恵の神の名は伊達や無いゆうこっちゃ」
ぽんと手を打ちながらそう言う和香様の横で、小和香様がうんうんと頷くのだった。
「雨子ちゃん、ご明察やで?」
和香様のその言葉に、雨子様は目を細めながら言うのだった。
「分かった分かった、それでなんじゃと言うのじゃ?」
そこで和香様はこれまでに無く真剣な顔をしながら、固い声で話し始めるのだった。
「殺生石が割れたんや…」
雨子様の記憶に、茫漠とした土地にうち捨てられた、異様なまでに邪の気配を放つ殺生石の記憶が蘇る。
「何じゃと?」
目を大きく見開きながらそう言う雨子様、ただ事で無い雰囲気が傍らに居る祐二にまでも伝わってくる。
「ねえ雨子さん、その殺生石って、一体何なの?」
すると雨子様が、これまで見たことも無いような渋い表情をしながら言うのだった。
「殺生石とはの、端的に言うと、彼の国で大騒ぎを起こした、龍像の昔版みたいな物じゃな」
「龍像みたいなもの?それって滅茶苦茶大変じゃ無いの?」
自分だけで無く雨子様の死をも招きかねなかった戦い、恐怖と共にそれを思い起こすと、祐二の唇は自然噛みしめられるのだった。
そんな祐二のことを見ながら雨子様同様、苦虫を噛みつぶしたような表情になった和香様が言う。
「大変なんて言う言葉で片付くようなもんちゃうで、祐二君。力量を見ても龍像に十分に匹敵するんやけど、問題はそれや有らへんねん」
「げっ、龍像どころじゃ無いのですか?」
うんうんと頷きながら、尚も和香様は説明を続け様とするのだが、その前にくいっと笹姫達の方に視線を向けるのだった。
「あ~~、悪いね笹姫ちゃんら、今から話す内容は外で話したらあかんで?機密事項や」
それを聞いた笹姫と次郎太の二人が、かっちりシンクロしながらぶんぶんと頭を振っている。
「それで何やけどな、先達ての龍像は、なんやかんや言うて実直っちゅうか、素直やった。けどな、この殺生石の中に居った奴は陰湿なんや、そして奸計に長けとるんや。その奸計で一体どれだけの人々が死に至ったことか…」
和香様の話を聞いているだけで思わず身震いをしてしまう祐二。まともに戦うだけでもとんでもなく大変だった龍像のことを思うと、背筋に更なる悪寒が走ってしまうのだった。
そこに尚も和香様の説明が続く
「殺生石の中に封じ込められとった奴、名は玉藻言うんやけど、大本は玉の付喪神で、龍像同様あちゃらの国で力を付け、とんでもないしろもんになった奴や」
聞けば聞くほどに嫌な感じしかしない祐二は、ふと疑問に思うことを尋ねる。
「でもそんなのがどうしてまた、日本で封じられることになったのです?」
「それがやな、当時彼の国には巨大な青銅の壺を、多くの人々が信仰することによって生まれた、上帝っちゅう半ば神のような存在が居ってん。それでその子がやね、悪さしとった玉の付喪神を見つけて、国から叩き出したんよ」
その説明を聞いて苦笑する祐二。
「なんだ、それで日本に来ちゃったんだ?」
シリアスな流れの中、祐二のその言いようがおかしかったのか、吹きだしそうな顔をしながら和香様が言う。
「そうそう、そうなんよ。来ちゃったんよ。それで当時、君もよう知っとる八重垣が、退治しようと思て立ち向かったんやけど、大陸って人が多いやん、下手するとあちらの方が力が強かったりするねん。そやから仕方なしに封じることにして、いずれ消滅するのを待とうとしたんや」
「もしかすると、それが消滅してしまう前に封印が解かれてしまった?」
深刻な表情の祐二が問うと、和香様もまた同様の表情でゆっくりと頷くのだった。
「それでまあ一大事や言うことで、どないしよう思うとったら、黒龍まで消えたらしい言うやんか?これはもう捨て置けへんな言うことで…」
そう言いながら和香様は、雨子様と祐二の顔を交互に見つめるのだった。
それを目にした雨子様、嫌々をしながら口を開く。
「いやいくら何でも其方、我らを都合よく使いすぎなのではあるまいか?」
そう言って和香様のことを責める雨子様なのだが、恐らくそれは祐二のことを思ってのことなのだろう。
だが和香様は真剣な顔をして言い募る。
「そう言うけどな雨子ちゃん、君ら二人は当面うちが切れる最強のカードなんよ。何としても頼まれてくれへんかったら困るねん。それに雨子ちゃんの立場やったら、即断即決で対応出来るやろ?うちとしてはそれをサポートするためにも、この身分証を作った…、言うても過言や有らへんな」
「むぅ…」
そう言いながら腕を組んで考え込む雨子様。
確かに現地に入り、様々な情報を収集するにも、雨子様の能力は何よりも役に立つ。
加えて疑似宝珠程度ならまだしも、例え小であれ、正規の宝珠を所持するのは、数多神々は居れども雨子様たった一柱なのだった。
更に言うなら、祐二の所持する神威もまた、とんでもなく大きな力を持っているのだった。
和香様が二人を指して最適と言うのも、十分に頷ける話なのだった。
雨子様は祐二に向かうと、本当に申し訳なさそうな表情をしながら言うのだった。
「済まぬの祐二、どうやら和香が言うように、我らが現地に赴くのが最適解のようじゃ」
するとその祐二、嬉しそうに笑いながら言うのだった。
「でもまあ僕としては、雨子さんとまた旅が出来るのは嬉しいのだけれどもね?」
そう言う祐二の前で、大いに困ったような表情をしながら雨子様は、小さな小さな声で言うのだった。
「馬鹿祐二…」
いよいよまた話が大きく動き出す?はずなんだよね?(^^ゞ
因みに四月四日所用発生の為、更新をお休み致します。
申し訳ありません
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