「出逢う」
お待ちどおさまでした
さて、笹姫と次郎太を伴って家に帰ってきた雨子様達、ぱっと見、何だか草臥れ果てているように見える。
理由は言うまでも無く連れ帰った二人に有った。
しかしこれは二柱の境遇を考えれば、無理からぬことなのかも知れない。
それこそ何百年も前の、とある農村から一気に現代の街へやって来たことを考えれば、彼らの困惑の度合いも分かろうというものだった。
しかしその心中が表すものとなると、それぞれの性格を反映してか、面白いくらいに大きな差を見せつけるのだった。
まずは次郎太。目にした色々な物に対して感動もしくは驚愕という反応を示すのだが、その間完全に思考停止してしまう。そして心が再起動するまで、その場から動かなくなってしまうのだった。
お陰で街中を歩きながら、一体何度フリーズしてしまったことか。それが彼一人立ち尽くしてしまうだけなら未だ良いのだ。今の彼らは和香様の好意で手に入れた、沢山の身の回り品を入れた、大きなキャリーバッグを引きずって居るのだ。これが人混みの中で邪魔になら無い訳が無い。
そこで慌てて祐二が次郎太の手を引いて、その場から動かす訳なのだが、一度二度なら未だしも、相当な頻度で何度も繰り返されると、まるで何かのコントを見ているような具合なのだった。
その度に我に返った次郎太に盛大に恐縮されるのだが、その横を大きなクレーン車でも通ろう物なら再びフリーズする。
その様子を見ながら祐二は、本当にこんな事で大丈夫なのだろうかと、身代わり作戦の行く末に、真面目に危惧し始めるのだった。
その一方、笹姫の方は次郎太のようにフリーズすることは無い。しかし色々な事柄に対して何かに付け感動し、その所為でやっぱり歩みが遅れてしまうのだった。
赤ちゃんを乗せたベビーカーを見てはその便利さに感動し、日傘を差して歩く女性を見ては、やっぱり便利な物があると感激する。
だがそんな中でも尤も感動していたのは、男性が一人で乳幼児をベビーカーに乗せ、楽しそうに街中を闊歩していることなのだった。
「こちらでは男性があの様に、たった独りで赤子の世話をするのですか?」
目を丸くして何時までも何時までもその様子を見ている。
その様子を見ていた雨子様、大いに苦笑しながら、笹姫にとっては驚きになるようなことを告げるのだった。
「笹姫はそう言うがな、江戸の街では逆にそう言うことが、結構当たり前に有ったようじゃぞ?」
すると今度こそ目をまん丸にしながら驚く笹姫。まさか自身の生まれ育った時代に、地域によっては、既にそういう習慣があったと言うことに、かなりの衝撃を受けているのだった。
とまあ、目先で変わったことがある度、多くはフリーズとまでは行かないにしても、なんだかんだと足を止めることが多い二人。
それを欺し欺し引き連れ、ようやっとのことで列車に乗せた雨子様達は、ほっとしながら頽れるように席に着くのだった。見るとその目は何だか虚ろで、まるで遠い所を見ているようだ。
さすがに列車の中では二人とも大人しく席に着いていたのだが、それを見ながら雨子様がそっと祐二に零す。
「なんかもう、幼稚園児の遠足かと思うてしまうの…」
それを聞きながら祐二、言い得ているなあっと思いながら、ぼおっとした表情で頷く。
小声とは言うもののこれらの会話、龍神である二柱にはどうしても聞こえてしまう。ただ幸いなことに次郎太に於いては、雨子様が一体何を言っているのか、さっぱり分かって居ない。ある意味ただ聞き流して居るだけなのだった。
だが笹姫に至っては、何とは無くではあるが意味を察してしまっているらしい。ちらちらと雨子様の方を盗み見ると、顔を俯けて仄かに赤くするのだった。
やがて最寄り駅で降り、祐二の家へと道行くのだが、閑静な街並みに入ると笹姫達の気を引くものの無くなり、お陰で誰も立ち止まること無く、速やかに帰り着くことが出来たのだった。
だが二柱を案内しながら家に辿り着き、まずにと先に立って家の扉を開けた祐二、偶々そこに居た節子が彼を見るなり呆れたように言うのだった。
「どうしたの祐ちゃん?何だか魂でも取られたみたいな顔してるけど?」
後ろでその言葉を聞いていた雨子様、自身も同じ様な表情をしていたはずなのに、いきなり腹を抱えて笑い始めるのだった。
「くはははは…」
そんな雨子様のことを、ぐるりと振り返った祐二が恨めしそうに見つめる。
その傍らでは笹姫と次郎太が、それはもう申し訳なさそうな表情をして立ち尽くしているのだった。
祐二の背後の雨子様の笑い声を聞いた節子、あらあら等と言いながらひょいと玄関から顔を出す。
そして恐縮しながら立って居る笹姫達を見つけると、急いで彼らに近寄り、暖かい笑みを向けながら言うのだった。
「あなた達が和香様の仰って居られた、笹姫さんと次郎太さんね?ようこそ遠路はるばるお越し下さいました。どうか我が家だと思って気楽に滞在して下さいね」
そう言い述べる節子の声を聞いていた笹姫、その声に案の定、沙喜を彷彿したのか、顔をふっと上げるなり何故か涙を流してしまう。
それを見た節子は微かに唇を噛むと、すぐさまその肩を抱き、何も言わずに優しく部屋の中へと導いていくのだった。
そんな二人の様子を見ていた雨子様、嬉しそうに笑みを浮かべながらうんうんと頷き、目を細める。その後、次郎太にも言うのだった。
「次郎太、我らも入るとしよう」
すると次郎太、素直にうんうんと頷きながら、先程の光景を見てきっと安心したのだろう、彼もまた安堵の笑みを浮かべているのだった。
櫻もそろそろ盛りを終え、ふと見上げればもしかしてあれは燕?
そんな季節になってきました。
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