第十章 小さくて可愛い、強力助っ人登場 その5
《ビュィィィィィィン!》
バイクのハンドルは取り外されており、二本のジョイスティックが装着されていた。
一本はアクセルとエアブレーキ、もう一本が操舵だ。
右のジョイスティックを上に倒し、左のジョイスティックを手前に引くと、エア・エグザックス(略してAE)はもの凄い勢いで加速しながら急上昇した。
「うわぁ! うわぁぁぁぁぁ!」
後ろでノブヲが俺の腰にしがみ付きながら叫んでいる。
一応シートベルトはあるが、一気に数百メートル上昇したため、街並みは瞬間的にミニチュアサイズになった。
「うぉっ! すげえ! こりゃ、すげえや!」
俺は雄叫びを上げた。
本当に最高の気分だった。
俺は右のジョイスティックをさらに上に倒して加速した。
《ビュッバァァァァァン》
俺とノブヲは軍隊用のヘルメットとゴーグルを装着しているが、酸素マスクは付けていないので、鼻と口は息ができない状態になった。
後ろからノブヲが俺の背中をドンドンと叩く。
俺は右のジョイスティックを手前に引いて、AEを水平飛行にした。
高度計は二千メートルを指している。
大丈夫だ、空気はまだある。
「おいっ、ノブヲぉ~。大丈夫かぁ~?」
「だ、大丈夫~。で、でも、マコトさ、これ大丈夫なの?」
「これって何がだよ?」
「俺たち、空飛んでんだぜ。未確認飛行物体でレーダー探知されんじゃねえ?」
うん、確かにノブヲの言う通りだ。
高度二千メートルを三百キロ近い速度で飛んでいるわけで、俺たちは明らかに未確認なわけだから、今ごろ、自衛隊の基地から戦闘機がスクランブル発進しているかもしれない。
さて、どうする?
「とりあえず下に降りよう。下は海だから低高度を低速で飛べば船だと勘違いされるんじゃないか?」
俺はそう言うと、一気に加速して海に向かって下降した。
「うわっ! ま、マコト、やり過ぎだからぁぁぁ~」
後ろでノブヲがまた叫んでいるが、その一分後には、俺たちは歌を歌いながら、海面すれすれを五十キロ程度でクルージングしている。
潮風が気持ちいい。
千葉県沖五十キロといったところだろう。
周りは全て海で、しかも綺麗な青い色をしている。
「ノブヲぉ~、なんか気持ちよくね?」
「これはいいね! 最高な気分だな。あっ、マコト、あれ!」
《グオォォォーン! グオォォォーン!》
遥か上空を二機の戦闘機が飛んで行った。
「おっ、やっぱ気付かれてないや。オッケーじゃん!」
俺がそう言うと、ノブヲは少し心配そうな声で、
「やっぱり危なかったじゃん! 撃ち落されるよ、マジで」
「大丈夫だよ。もう操縦も慣れたし、機動力はこっちのほうが上だって!」
俺はAEを左右に振ってスラローム状態にしてみる。
「うわっ! あぶねっ! ま、マコト、危ねえし!」
「はははは~。大丈夫だって! 戦闘機も帰っちゃったし、俺たちも帰るぞ! ノブヲ、しっかり?まってろ!」
《ビュッバァァァァァン~ビュィィィィィィン!》
俺はまた一気に加速して急上昇すると、都心方面に向かってぶっ飛ばした。
「ま、マコトぉ、空から俺んち分かるの?」
「ん? 大体ね。グーグルアースで暇なとき見てるし」
「ま、マジかよぉ~、ウワァァァ……」
背中から聞こえるノブヲの悲痛な声をよそに、俺は自分の翼で飛んでいる感じで、いい気分になり、さらに加速した。
《ドバァァァァ~ン!》
空から見た街並みは、どれも同じように見える。
これが結論だった。
結局、三回も戦闘機をスクランブル発進させ、その度に地上に降りては隠れ、散々迷った挙句、夕方近くにようやくガレージに到着した。
そして、そこには今日二つめのサプライズが待っていたのだ。
俺は天窓から慎重にAEをガレージ内に入れると、ゆっくりと着陸させた。
グローブを外して、ゴーグルとヘルメットを脱ぐと、
「……。……」
なんと、そこには本城モトミの姿があったのだ。
モトミは超ミニの制服姿でガレージの中に立っていた。
その脇にはキリカが同じ制服姿で、こちらは校則ピッタリの膝下丈のスカートで立っている。
二人は近未来的乗り物から降りてきた俺たちを驚いた表情で見ている。
「や、やあ!」
混乱する頭で俺が出せた精一杯の言葉だ。
モトミはキョトン顔で、キリカはいつも通りの強い目で俺を見ている。
「やあ、じゃないわよ。アンタたち、それ何? 今、空を飛んできたわよね?」
「あっ、いや、これは、その……。おまえに貰ったエネルギーでヒデヨが作った空飛ぶバイク、名付けて、エア・エグザックスだよ。どうだ? すげえだろ?」
「まったく、人類が危機だってのに、遊んでんのかと思ったわ、もうっ。で、ヒメカは何でここにいるの?」
キリカは鋭い視線を素早くヒメカに移した。
ヒメカはドキッとした表情で姉の姿を見る。
「あっ、お姉ちゃん! おかえりっ! アタシ、トーマくんを手伝ってんだよっ! トーマくんがアタシのことを必要だって言うんだもん。ネッ? トーマくんっ」
キリカにはトーマ君がヒデヨという認識があるようだった。
二人が付き合っているのを知っていたのかな? ヒデヨはデカいバッテリーの塊からヒョッコリと顔を出すと、
「あっ、キリカ先輩、おかえりなさい。ちょっと妹さんの力を借りています。僕一人ではとてもカバーできそうもない作業量だったので……」
ヒデヨもキリカには遠慮した言い方である。
そして、キリカはその鋭く強い目をさらにキリッとさせると、
「ヒデヨ君、昨日言ったわよね。妹を巻き込まないでって。約束だったはずよ」
「す、すみません……」
どうやらキリカは妹の天才的頭脳がヒデヨに利用されて、結果としてこの作戦にヒメカが参加することになるのを懸念していたようだ。
確かにヒメカは頭が抜群に良いと言ってもまだ中学生だ。
妹の協力が不可欠だと思っても、簡単には巻き込めない。
「お、お姉ちゃんっ! アタシがトーマくんに無理言ってここに来たんだよ! アタシだって役に立ちたいモン。アタシだって役に立てるでしょ?」
ヒメカは目に涙を浮かべている。
「アナタは黙っていなさい。アタシはヒデヨ君と話をしているのよ」
冷静な口調でキリカがそう言うと、
「あのぉ~」
モトミが急に口を開いた。一瞬で周りに薔薇が散りばめられたように華やいだ感じになる。
「あのぉ~、皆さん、仲良くしませんか? 美味しいマカロン買って来たんです」
笑顔で紙袋を持ち上げて見せるモトミの可憐な雰囲気に、緊張していた場の空気が緩んだ。
「もうっ、モトミはすぐそうやって気を遣うんだからぁ~」
キリカが少し笑みを浮かべて言う。
ヒメカは、
「あっ、カフェ・ルージェのマカロンだ! アタシそれ大好き~!」
すっかりマカロンにやられた感じだ。
「と、とりあえず温かい紅茶でも淹れようぜ。俺、ちょっと持ってくるわ」
ノブヲはそう言うとガレージから出て行った。
俺はソファに座り、キリカも俺の隣に座った。
モトミは俺の目の前でマカロンを箱から出すと、ニコッと笑う。
俺は少し照れて、軽く会釈した。
「マカロンっ、マカロンっ! イエイっ!」
ヒメカはマカロンの歌を歌いながら姉の隣に寄り添うように座り、ヒデヨは持っていた工具を置くと、申し訳なさそうな顔と態度で、少し離れた椅子に腰を落とした。




