第九章 実験は、うれし、たのし、はずかし その4
大魔王は申し訳なさそうに頭を下げた。
「やはり……。やはり、そうでしたか」
納得したヒデヨは、やや困った表情を浮かべて、キリカのほうを見る。
「えっ? アタシ? アタシが何かした?」
困惑した表情のキリカを全員が注目する。
その中で、ヒデヨは驚くべきことを言ったのだ。
ヒデヨの論理的な思考回路は、このとき大魔王の頭の中深くまで達していたようだ。
大魔王は目を強く瞑ってしまい、口も堅く結んでいる。
「キリカ先輩、すみません。先輩は何も悪くありません。むしろ……、むしろお願いがあります。そのスパッツを脱いでもらえませんか?」
うぐっ……、ヒデヨの奴、何てことを言いやがる! それじゃあキリカにパンツを見せろと言っているようなものだ。
これからロジカルなヒデヨの説明が始まるのだ。
その論理的妥当性が証明されれば、キリカはスパッツを脱ぐのだろうか? っていうか、これはキリカの正義感につけこんだセクハラではないか?
「ごめん、ヒデヨ君、言っている意味が分からないわ。なんでアタシがこのスパッツを脱ぐ必要があるの?」
当然ながら彼女はヒデヨに説明を求めた。
さあ、どんなロジックだ? ヒデヨ。
「いきなりですみません。失礼でしたね。謝ります。しかし、これは重要なことなんです。大魔王さんの念力は、大魔王さんのイメージが具現化されるものなんです。ここまではいいですか?」
「ええ、分かるわ」
キリカは素直にうなずく。
「僕は最初、大魔王さんが単純にスカートをめくるイメージさえすれば、どんなスカートでもめくれると思っていました。しかし、この状況を見ると、そうではありません。大魔王さんの深層心理が関わっているものと僕は考えました」
「深層心理? 一体どういうことなの?」
「つまり……」
ヒデヨは大魔王のほうを一度見て、またキリカに視線を戻す。
「つまり、分かりやすく言うと、大魔王の深層心理では、この状態をスカートめくりだと認めていないということなります」
「この状態って……、アタシがスパッツを穿いていること?」
んん? なんかおかしなことになってきたぞ。
と思ったそのとき、ノブヲが話しに割って入った。
「ちょっと待ってよ。じゃあさ、大魔王はパンツを見たいってこと?」
彼ならではの単純明快な理解だ。
このオッサン、ムッツリだったんかっ! それでもヒデヨは冷静な口調で説明する。
「大魔王さん自身がどう思っているかは分かりませんが、深層心理では、そのような欲求があることは確かですね。まあ、男性ですから、仕方ない部分もありますが……」
くそっ、俺たちが真面目に取り組んでやっているのに、このオッサンのムッツリが原因でここで作戦中断だぞ? 俺は大魔王の丈夫な身体に横から蹴りを入れると、
「おい、オッサンっ! いい加減にしろやぁ! パンツが見たいだと? オッサンの、その深層心理とか言うやつに、スパッツでもオッケーみたいなイメージできないんかよ?」
何というか、このオッサンがスパッツを認めないってことは、キリカのスパッツで少し萌えちゃった俺のほうが負けてないか? なんか、それがムカつくわぁ~。
「そ、そんなことを言ってもじゃな、ワシはそんな……」
全員の視線がまた大魔王に向いた。
ノブヲはこの状況を楽しんでいるようだ。笑いながら、
「じゃあさ、やっぱり大魔王はパンツ見たいんじゃないの? どうなのよ?」
「うぐっ、うぬぅ~」
まあ、大魔王と名乗る男がパンツ見たいなんて認めるわけにはいかないよな。
認めたところでどうなるわけでもないし。
結局、この作戦もここまでだなぁ~。
大魔王の言っていることが本当なら、これで人間界も終わりってことか。
こりゃあマジで明日にでもモトミ姫に告らないといけないなぁ~。
と、俺がもう半分以上諦めていたそのとき、
「もうっ、いい加減にしないさいよぉ~。アンタたちっ!」
今まで黙ってたキリカがキレた。
そりゃそうだ。普通怒るよなぁ~。んっ?
《……! ……!》
全員が言葉を失った。
ただ黙ってその光景を見ている。
怒ったキリカはクルッと後ろを向くと、スカートに手を入れてスパッツを脱いだのだ!
キリカは脱いだスパッツをソファーの上にヒラリと投げると、こちらに向き直し、強い目で言った。
「アンタたち、パンツ、パンツうるさいわねぇ。これじゃあ、アタシがスパッツ穿いたのが悪いみたいじゃない。どうなの? 大魔王さんっ! アタシ、スパッツ脱いだわよ。これであなたの念力でスカートがめくれるのかしら? それとも、そもそもアタシじゃダメってことなの?」
仁王立ちした女神が、まさに神目線でそう言うと、大魔王はいきなり両手を素早く前に出した。
一気に力を込めた、そのとき、
《プシャァァァ~、ブワッアァ~、グワァ~~~》
もの凄い勢いでキリカの穿くエネカイ、エネルギー回収スカートがめくり上がり、薄いピンクのパンツとおへそまでが丸見えになった。
「キャッ! キャアアアァ~」
彼女の悲鳴がガレージに響きわたる。ノブヲの家がデカくて良かった。
一体ガレージで何をしているかと思われてしまう。キリカはスカートを手で押さえようとするが、めくり上がる力が強すぎて、全く押さえられない。スカートの先端がキリカの顔にまでかかるくらいめくり上げられていて、今にも飛んでいきそうだ。
現実にカヨさんのときはワンピースが全てめくれ上がって飛んでいってしまったが、それを見ていたヒデヨは、エネカイの腰の部分に細工をして、ベルトに組み込まれた何層ものフライホイールでスカートを吹き飛ばしてしまうほどの力を吸収するようにしていた。
「うぉ~、すげぇ。パンツ丸見えじゃん!」
ノブヲは嬉しそうに笑いながら、その様子を見ている。
ヒデヨはパソコンの画面に釘付けになり、
「これは凄い。思った以上のパワーだ。この力を全て受けきれないかも」
と独りでブツブツとしゃべっている。
結局、大魔王の念力は一分以上も続き、その間、俺は下半身が前へならえ状態になってしまい、今まで何度もふざけてキリカのスカートをめくったことはあったけど、こんなにしっかりとその下着姿を見たのは初めてだなぁ~と思いながら、ただ前かがみにうずくまることしかできなかった。
こ、これは、萌える……。




