第七章 ヒデヨの実力、恐るべし その1
中学の頃から、ノブヲんちのガレージにはよく泊まった。
ガレージは空調が効いていて快適だし、ソファーや椅子もたくさん置いてあるので、寝る場所にも困らない。
ノブヲんちの人が食事も出してくれるので、まさに至れり尽くせりの秘密基地だ。
ノブヲの受験勉強をしたのも、このガレージだ。
俺やヒデヨにとっては第二の我が家のような居心地だ。
ヒデヨはガレージの一角に自分の机とパソコンを置いており、ネットの回線も引いている。
天窓から朝日が漏れて、その眩しさで俺が目を覚ますと、ヒデヨはパソコンに向かってカタカタカタカタタタタタタ……と凄まじい勢いで何かを打ち込んでいた。
俺は起きて周りを見渡した。
大魔王は床に大の字になって寝ている。
かなり無防備な体勢だ。
この念力大魔界のキングを、今なら一撃で倒せそうだ。
ノブヲは別のソファーに横になり、きちんと布団をかぶって寝ている。
ここはノブヲの家なので、ノブヲにはもちろん自分の部屋があるわけだが、この優しい性格の持ち主は、皆でガレージに泊まるときは必ず自分もガレージで寝る。
ヒデヨは一睡もしていないのだろう。
この天才は一度自分のゾーンに入ると、何日も寝ないで集中することができる。
今、念力という新しい研究対象に出逢って、彼はきっと今までにないくらいの好奇心と知的探究心で自分の世界に入っているコトだろう。
俺は眠い目をこすりながらヒデヨの机まで歩いて、
「よう、ヒデヨ。おはよう。何かわかった?」
と、かなり軽い感じで言った。
軽く言わないと、この男の説明はもの凄く長いのだ。
しかもゾーンに入ったヒデヨは相手の理解を何段階も超えるレベルで話してくる。
それはとても疲れるのだ。
ヒデヨは首を回して俺の姿を確認すると、
「ああ、マコト先輩。おはようございます。だいぶ解明できましたよ。大魔王さんの説明は非常に分かりやすかったです」
ふんふん、順調なのね。
俺はそれだけ分かればいいっす。
じゃ、ノブヲを起こして朝メシにするかな。
ノブヲんちの朝メシは高級ホテル並みに美味いのだ。
もちろん、俺は高級ホテルの朝メシなんて食ったコトないけどね。
そして俺がノブヲを起こそうと向きを変えようとしたとき、ヒデヨの椅子が回転し、俺のほうを向いた。
「マコト先輩、いろいろ分かっちゃいましたよ」
うぬぬ、この表情、わずかな笑みを浮かべ、知的探究心が満たされた顔。
この顔のヒデヨは間違いなく話が長い。
それは俺に説明して理解してもらおうとするわけではなく、自分が解明した事実を誰かに話したくて話したくて仕方がないからなのだ。
この孤高の天才は自分の成果を誰かに言うために、科学部に入部しているのだ。
科学部の人間なら自分の話を聞いてくれると思っているのだ。
俺は……、俺は覚悟した。
「マコト先輩、この念力という力は凄いモノですよ。もっと解明していけば我々のような普通の人間にも使える力かもしれません。力の性質は気孔に近いですね。人間の体内にあるエネルギーを増大させて、それを特殊能力に変えて使うことができます。特殊能力はあくまでもエネルギーを体外に排出する手段ですので、エネルギーそのものは特殊能力とは別次元で管理されています。体内の念力をコントロールして増大させることは、かなり難しいものですが、大魔王さんはその能力が優れており、さらに相当な修行をしたようなので、スカートめくりという特殊能力でも、カヨさんに与えたような大きなエネルギーを出すことができるんです。僕の想像では、シュミドラは大魔王の特殊能力を手に入れていても、その力を最大限活用することはできていないと思います。むしろ力を持て余していることでしょう。ですので、この戦いはなるべく早く行動しなければなりません。シュミドラが、念力をモノに変える力をある程度使いこなしてしまうと、かなり厄介です。しかし! 安心して下さい。この力を運動エネルギーとして捉えれば、比較的簡単に念力を有効活用できます。あとはどうやってその力を……ブツブツ……、ブツブツ……」
ヒデヨはメガネを指で押さえたまま目を閉じて、何かを考え始めてしまった。
またゾーンに入ったようだ。
念力がどれ程のものかは分からないが、ヒデヨは着実に謎を解き始めている。
であれば、あとは彼に任せるしかないだろう。
俺は、メシでも食おう!
「ノブヲぉ~、起きろぉ~! メシ! メシにしようぜぇ~」
「ん? んぅん? もう朝? 眠いなぁ~」
ノブヲは目をこすりながら起き上がると、背伸びをしながらガレージを出て行った。
美味いメシが運ばれてくるまで三十分というところかな。
バイク雑誌でも読みながら、念力大魔界のヒーロー様の愛車でも選ぶとするかな。
金があるならトライクなんかもいいな。
メットがいらないし、ワルっぽいもんなぁ~。
ん? テーブルに置いてある俺のカバンを取ろうとすると、足元に無防備なオッサンが爆睡している……。
「おい! オッサン! 起きんかい! 朝じゃあ~」
俺は大魔王の横腹も軽く蹴った。
「ぎゃあ! ひゃあ!」
相変わらずこのオッサンはたまに女みたいな反応をしやがる。
「な、な、な、何するんじゃ!」
「そんなにビックリすることないじゃん。優しく起こしてあげたのによぉ」
「こ、こ、こんな扱いは初めてじゃ! 昨日までは五人の美女が《大魔王さまぁ~、あさよぉ~、お・き・な・きゃ・ダ~メ! チュッ》って優しく起こしてくれてたと言うのに。何たる扱いじゃ……」
このオッサン少し涙ぐんでやがる。
しかし、なんちゅう萌えシチュエーションで起床してたんだ? まったくアホ大魔王だな。
ん? 待てよ。
ということは、俺がヒーロー様になったら……、超ミニスカ萌え萌えニーソっ娘が十人くらいで俺を囲んで、《マコトヒーロー様ぁ~、朝でちゅよぉ~、早くオッキしましょうね~、チュッ》なんて感じで起こされんのか? 間違いなくオッキしちゃいますよ。
絶対! むふふふ……。




