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アステリアの末っ子王女は、嘘を見逃さない ~王家総出で謎解き中!~  作者: 神代 チイ


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第四話:吹雪の密室と、熱に揺らめく二重の毒①

──王立学園の正門前

冬の柔らかな陽光が王都を照らす朝、学園の正門前には数台の巨大な魔導馬車が、蒸気を上げながら出番を待っていた。


豪華な装飾が施された魔導馬車の前で、アリシアは呆れたように大きな革袋を見つめていた。


「セシル、これ……全部"温熱石"なの?」


「はい! 全て、ライアン殿下からの差し入れですので、予備の予備まで含めて三十個。全て持って行きます!」


「そ、そう、ありがとう…」

苦笑するアリシアの傍らには、護衛のカイルが欠伸を噛み殺しながら立っている。

今回の研修は、北方の高地にある古い洋館。

アリシアは少しだけ胸を高鳴らせていた。


「山奥の古い洋館なんて、少しロマンチックじゃない? 何か起きるかもしれないわね…」


「アリシア様、それはフラグというものでは……」

カイルが呟くのを遮るように、馬車のステップを蹴る荒々しい音が響いた。


「おい! いつまで喋っている! 王族だろうが、貴族だろうが、研修中は一兵卒と思え!」


現れたのは、巨漢の教師バルカス。

公爵家の次男という身分を盾に、彼は常に傲慢だった。

特に、自分より線が細く、胃をさすってばかりのユリウスをまるで目の敵のように執拗に嫌悪していた。


「僕に務まるかな……」

青い顔で胃を押さえるユリウスに続き、その後ろから……

「ユリウス先生、しっかりしてください。雪山ではその弱気が一番の命取りになりますよ」

と、冷淡な声の主は、眼鏡を指で押し上げたもう一人の引率教師のエレナ・ウォーカーだ。


馬車が動き出すと、華やかな王都の景色はみるみるうちに白銀の世界へと塗り替えられていった。



──洋館:学園所有・ノース・スター別館

数時間の走行を経て到着した《ノース・スター別館》は、山奥の断崖に切り立つように建つ、重厚な石造りの洋館だった。


馬車を降りた瞬間、バルカスの怒号が冷たい空気に響き渡った。


「荷物を降ろしたら即座に整列だ! これより"極寒地における魔力循環実習"を開始する!!」


バルカスは、雪の中に震えながら立つ男子生徒の一人の前に立つ。


「おい、何を縮こまっている。男子生徒は今すぐ上半身裸になれ! 雪かきだ! 己の魔力で体温を維持しろ!できない奴は魔導師なんて辞めちまえ!!」


「えっ、この吹雪の中でですか!?」


「口答えするか!」

バルカスはその生徒の胸ぐらを強引に掴み上げると、雪の中へ放り投げた。


さらに、止めに入ろうとしたユリウスを冷笑で見つめる。


「ふん!ユリウス()()。生徒に見本を見せてやれよ。ヒョロヒョロした体で教壇に立ちおって、虫唾が走るわ。」


バルカスはわざと激しく肩をぶつけて去っていく。

ユリウスは雪の中に膝をつき、絞り出すような声で呟いた。


「うう……胃に穴が空きそうだ……」


「先生。ユリウス先生。大丈夫ですか...?」

ジュリアンや男子生徒がユリウスに駆け寄った。


その光景を、特待生のルカ・エインズワースが冷ややかな目で見つめている。

「…本物の獣は、吠えずに獲物を待つものだがな…」

ルカの呟きは、激しくなり始めた吹雪の音にかき消された。


──晩餐

食堂へと向かう静かな廊下で、アリシアはセシルが大事そうに抱えている大きな袋に視線を向けた。


「セシル、その袋…まさかまた温熱石?」


「はい! 食堂は広いので足元が冷えるかと思いまして。アリシア様のお座席用に、上質な温熱石をいくつか持参いたしました!」


「ふふ、ありがとうセシル。本当に準備が良いのね」

二人がそんな会話を交わしながら食堂の扉をくぐると……そこは、暖炉が赤々と燃えているにもかかわらず、空気は凍りついたままだった。


バルカスは引率の立場を忘れ、給仕が止めるのも聞かずに、学園備え付けのヴィンテージ・ワインを何杯も煽っている。


「ふん、ローレンス公国のワインか。まあ、この宿泊研修で唯一の救いだな」


バルカスは、エレナや他の女子生徒にまで、不快な接触を繰り返しながら酒を飲み続けた。


「おいお前。卒業後の進路、俺の推薦状一枚でどうにでもなるんだぞ?なあ?」

ワインを片手に、女子生徒の頬を掴んだ。


「…や…やめてください、先生」


「バルカス先生、もうそのくらいに……。明日の実習もハードだと伺っていますし……」

ユリウスが勇気を振り絞って止めに入るが、バルカスは飲みかけのワインをユリウスの足元にぶちまけた。


「黙れ! お前に、指図される筋合いはない!」

そう言って目の前のスープを豪快に飲むと、突然…噎せ始めた。

「ガハッ……!!ゲホッ…ゴホゴホ……」


「バルカス先生、大丈夫ですか!?」

エレナが背中を擦っていると、バルカスはエレナを突飛ばし、残りのワインボトルと、乾燥対策だと言って学園から持参させた「魔導加湿器」を抱えた。


更に、去り際…セシルが抱えていた大きな袋を見て……

「おい、その大袋は何だ!? ほう、上質な温熱石か! この寒さだ、教員の俺が使ってやる!」

奪い取った温熱石を片手に、バルカスは千鳥足で自室へ消えていった。


食堂の重い扉が閉まると、静まり返った室内にその音が虚しく反響した。


残された生徒たちは、凍りついたように動けない。

先程の女子生徒は肩を震わせ、ユリウスは胃を押さえたまま椅子に沈み込んでいる。


「申し訳ございません、アリシア様…っ!」


セシルがガバッと深く頭を下げ、今にも泣き出しそうな顔で拳を握りしめた。


「ライアン殿下からお預かりした大事な温熱石を、あのような者に奪われてしまうなんて! 私……っ」


「おい、セシル、落ち着けって。アリシア様、俺が今からあいつの部屋に殴り込んで奪い返してきましょうか? ついでに一発殴っておきますが!」


カイルが柄に手をかけ、本気の殺気を漂わせる。


そんな物騒な護衛二人を前に、アリシアはふっと息をつくと、パチンと手を打った。


「もう、二人とも落ち着きなさいよ。温熱石なら、まだ沢山残っているでしょう? それに、やっと静かになったんだもの! 今のうちに、あの美味しそうな鴨のコンフィを全部食べちゃいましょう♪」


アリシアは座り直すと、キラキラした目で大皿を見つめた。

そのあまりの切り替えの早さに、殺気立っていたカイルとセシルが思わず脱力する。セシルはすかさず額を押さえた。


「アリシア様、切り替えが早すぎます。少しは怖がるフリくらいなさってください……」


「だってお腹空いちゃったんだもの。セシルだって、さっきからずっとお腹鳴ってるじゃない!」


「~〜っ!? 鳴ってません! 一回しか鳴っていません!」


必死に顔を赤くして言い返すセシルと、いたずらっぽく笑うアリシア。


二人のいつも通りのやり取りに、周囲の生徒たちの肩からふっと緊張が抜けていった。


「さあ!皆さん、そちらのスープも、こちらの鴨のコンフィも、美味しいですわ♪」


「そ、それでは……私達も、いただきます…」

アリシアの周りの生徒達が恐る恐る食べ始めると

「美味しいわ……」「ええ、本当に美味しいわね」


その様子を見て、ユリウスは胃を押さえながらも、兄として、そして引率教師として、深く溜息をついてから背筋を伸ばした。


「ふぅ。アリシアは相変わらずだね…でも、君の言う通りだ。皆、冷えた体には栄養が必要だ。さあ食べよう!」


アリシアがパンを頬張り、ユリウスは「兄の威厳が……」と溢しつつも、震える手でスプーンを持ち、生徒たちの不安を打ち消すようにしっかりとスープを口に運んだ。


その喧騒から少し離れた席では、特待生のルカが、一言も発さずに食事を淡々と進めていた。


ユリウスの隣の席では、エレナがワイングラスに残った一滴を見つめ、静かに、飲み干していた。


──夜八時

洋館の魔法通信機の前で、ユリウスが困惑の声を上げた。

「ど…どうしよう…。王宮に定時の通信ができない。これじゃあ、大騒ぎになる……はぁ……」

ユリウスは、大きな溜息を漏らした。



──深夜十二時

廊下から響く、必死なノックの音でアリシアは目を覚ました。

「バルカス先生! 起きてください! 交代の時間ですよ、先生!」

廊下へ出ると、ユリウスが泣きそうな顔でドアを叩いていた。


「お兄様、どうされたの?」


「アリシア……。バルカス先生が、見回りの交代時間になっても出てこないんだ。何度もノックしているんだけど、返事がなくて……」


アリシアがドアに近づくと、ドアの隙間から、凍りつくような冷たい風が出ていることに気づく。


「…あら…窓が開いているのかしら? 支配人を呼びましょう!」


アリシアがすぐに、支配人に合鍵で部屋をあけるように提案した。


「しかし、先生のプライバシーが…」と渋る支配人だったが、アリシアの強い眼差しに押され鍵を回した。


──カチャリ

扉が開かれた瞬間、猛烈な吹雪と不気味な冷気が廊下まで吹き抜けた。


「う、うわぁぁぁ!?」

あまりの冷気と衝撃に、ユリウスは恐怖で後ずさりし、そのまま派手に尻もちをついた。


支配人は青ざめて言葉を失い、アリシアは息を飲みながら、静かに部屋の中を観察した。


部屋の窓が全開になっており、大量の雪が吹き込んでいる。そしてベッドの上には、雪で薄っすらと覆われ、驚愕の表情で絶命しているバルカスの姿があった。


アリシアの瞳が、静かに現状を捉える。

(……死んでいるの……!?)


○△□●▲■○△□●▲■○△□●▲■○△□


◆ノース・スター別館について

王立学園が所有する施設の中でも、特に異彩を放つ歴史的建造物です。

【立地と構造】北方の険しい断崖絶壁の頂に、しがみつくように建つ石造りの洋館。一度吹雪に見舞われれば、外界との道は完全に閉ざされる「陸の孤島」となる。

【伝統と威容】数世紀にわたる風雪に耐え抜いてきた外壁は、黒ずんだ重厚な石材で構成されており、訪れる者に言葉を失わせるほどの圧迫感を与える。

【研鑽の場】厳しい自然環境ゆえに、古くから高位魔導師たちの修行の場としても利用されている。


◆バルカス・グレンデル

グレンデル公爵家次男。

公爵家の威光を傘に着て、家柄の低い者や、自分より弱そうな者(特にユリウス)を見下している。

初めての殺人事件と言うことで(笑)

バルカス…ですが…嫌なヤツ感を出せたかな?

まぁ、嫌なヤツだからって…●されてもいい。

というわけではありませんが…(苦笑)


つづきは、また明日。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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