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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
三章 いつもと違う、神隠し
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 場所を移してからの事情聴取は、少しばかり苦戦した。

 別に笹見・彩が非協力的だったって訳ではないのだけれど、彼女の話にはあまりに無駄が多かったから。

 例えば笹見・彩は、中学時代に軽い虐めにあっていて、そうならないように高校では流行りに、噂を敏感に仕入れ、孤立しないように立ち回ってた事とか。


 何もない時、普段の僕がそれを聞かされたなら、これまでの行動にも納得して、今後は彼女を少しばかり気に掛けようって気にもなっただろう。

 でも今は残念ながら、笹見・彩のその話に、同情してる余裕がない。

 しかしここで、話を聞きながら苛立っても、結論を急いでも仕方がなかった。


 だって笹見・彩は今回の件が悪魔の仕業だなんて理解してないし、呪いに掛かってる間の行動にも、何となくの罪悪感こそあるものの、一体何が悪くて、またどうして自分がそんな行動を取ったのか分からないのだから、責める意味はない。

 むしろそんな状態であっても罪悪感を覚える分、彼女の感性は善良だ。


 まぁそうやって自己防衛の為に周囲の目に、噂に敏感になり過ぎていて、疲れた笹見・彩が出会ったのが、彼女が教室で話していた占い師だった。

 実際、笹見・彩もどうして自分が駅裏なんかに、しかもビルの五階にある、知りもしなかった占い師の店を訪ねたのか、よく分からないと言う。

 恐らくは弱った心を悪魔に招き寄せられたのだろうけれど、だがそれは、別に彼女は知らなくて良い話である。


 占い師は笹見・彩が何も言わずとも、彼女の全てを言い当てたらしい。

 もちろん、中学の頃に虐められていた件も、今の笹見・彩が孤立しない為に流行や噂ばかりを気にしてて、それが苦痛になりつつある事も。

 そして占い師は、そんな彼女に共感してくれた。


 悩みの理解とは、即ち弱みの把握に等しい。

 他者の悩みを理解すれば、その苦痛を和らげる事もできるけれど、逆に傷付ける事だって実は容易いのだ。

 或いはもう一歩踏み込んで、相手を支配する糸口にもできる。

 笹見・彩は、理解され、共感され、更に悪魔の呪いにも侵されて、知らず知らずのうちに支配されてしまったのだろう。


「皆が同じ物を見て、同じ物を信じれば、貴女の悩みはなくなります。だって、ほら、貴女はもう、私が怖くないでしょう?」

 占い師は、悪魔は、彼女にそんな風に囁いた。

 あぁ、確かに皆が呪いに思考を誘導され、悪魔を信じるようになれば、笹見・彩が流行や噂を、周囲の目を気にし過ぎる必要は、恐らくなくなる。

 皆が同じ方向を向いた狂信者の群れの中なら、決して孤立はしないから。

 悪魔の言葉に、嘘はない。

 

 だけど笹見・彩の理性は、何かがおかしい、そんな事ができる筈はないと、訴え続けたのだろう。

 だからこそ事態を理解できずに呪いをばら撒く運び手として動きながらも、彼女は後ろめたさを、罪悪感を覚え続けた。

 或いは周囲の目を気にし続けたから、見え易い悪意ばかりでなく、本来ならば見えない筈の何かにまで、敏感になっているのか。


 だとすれば、ここで僕が下手な嘘を吐けば、笹見・彩は妙な猜疑心を募らせて、勝手に動いてしまうかもしれない。

 故に僕は、事態をとても簡単に、彼女があまり良くない物に出会ってしまって、心の隙を突かれたのだと説明をする。

 もう心配はないから、今日は家に帰ってから、体調不良で下校したのだと、学校に伝えた方が良いとも。


 もしも笹見・彩が、口の軽い噂好きなら、僕も何らかの対処はしただろう。

 でも彼女の噂好きは、自分を守る為の手段でしかない。

 そんな笹見・彩なら、今回の件を下手に言い廻れば、信じて貰えないどころか、要らぬ厄介事を招くと理解出来る筈だ。

 もちろん口止めはするけれど、それ以上は必要もなかった。



 それからも僕は、悪魔の呪いの気配を辿り、それを払拭し続ける。

 地味で時間の掛かる作業ではあるが、単に呪いを払うだけなら、吉祥婆ちゃんの加護のお陰で簡単だ。

 根気強さには、自信があった。


 もちろん、大元である悪魔の居場所へ乗り込んだりはしない。

 数度、唐突な神隠しによる移動があったから、あれはもしかしたら悪魔が僕を狙ったんだろうか。

 この僕が生きる世界、時間では、学生という身分は多少不自由ではあるけれど、頼もしい支援に恵まれている。


 まぁ三日程、家には帰れなかったけれど、それはもう仕方のない話だろう。

 けれども、そう、その三日で、事態は解決した。

 田舎の、高比奈の爺ちゃんから連絡を受けた、例の恵理が所属する予定の組織が、精鋭を集めて大元である悪魔を打ち倒したらしい。

 一体どんな戦いが行われたのか、僕はさっぱり知らないけれど、その事は爺ちゃんから通話ではなく、メールで知らされた。

 呆気なくも感じるし、こんな物かとも思い、溜息を吐く。


 恐らく今回の件は、僕が動かなくてもやがては解決した話だ。

 この世界は、多少強い悪魔が蠢いた程度で、どうにかなる程にやわじゃない。

 あとついでに言うならば、そもそも僕はヒーローじゃない。


 ただそれでも、僕がいち早く動けたからこそ、出たかもしれない犠牲を一つでも防げたのなら、それを幸いには思う。

 


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