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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
三章 いつもと違う、神隠し
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 本当ならば笹見・彩との鬼ごっこは、圧倒的に僕が不利な筈だった。

 いやだって、神隠しで行くような異なる時間や異なる世界なら兎も角、この現代日本では社会規範が彼女の味方をするから。

 これは男尊女卑、女尊男卑、今の流行らしいフェミニズムとは無関係に、男が女を追いかけ回していたら、多くの人は犯罪の匂いを感じる筈だ。

 僕だって、他の誰かがそうしてる姿を見かければ、介入か通報を検討するだろう。


 ましてや僕と笹見・彩は高校生という身分であり、互いに午後の授業をサボってる。

 午前中に比べれば、午後は補導もされ難いだろうが、あまり目立つ訳にはいかない。

 なので仮に笹見・彩が、悲鳴を上げる等の大きく目立つような行動を取ったり、警察に保護を求めるような事があれば、完全に僕の負けだった。


 ……にも拘らず、彼女がコソコソと人目を避けるように駅裏のビルを目指している。

 こういった状況に不慣れでそこまで頭が回らないのか、それとも自分の行いが悪しきモノだとの自覚があって後ろめたいのか、あるいはその両方か。

 少なくとも笹見・彩の行動は、僕にとっては都合が良い。

 彼女が社会規範を味方としないなら、体力に勝り、駅裏の土地勘もある僕が、笹見・彩との鬼ごっこに負ける道理はなかった。

 僕は人目の多い場所では敢えて距離は詰めずに追跡し、駅裏の、人の気配が少ない場所に入るや否や、一気に駆け寄って逃げる彼女を袋小路に追い込む。


 手を伸ばし、笹見・彩の肩を掴んだ瞬間だった。

 バチィと、冬場にドアノブに触った時に起きる静電気を何倍にも強くしたような衝撃が手に走り、……だけど僕は肩を掴んだ手を離さない。

 吉祥婆ちゃんがくれた加護と、強い呪いが反発すれば、そういった事もあるだろうと最初から覚悟していたから。

 でもそれは僕がこうした事態に慣れてたから、事前に予測してたから耐えられた事で、笹見・彩はそうじゃない。

 恐らくは僕の手が感じたのと同じ衝撃が、彼女の身体にも走ったのだろう。

 力が抜け、ぐたりとその場にへたり込みそうになった笹見・彩の身体を、僕は慌てて支える。

 彼女からは、呪いの気配は既に消え去っていた。



 しかしこの状況は、少し悩ましい。

 呪いは消せたが、こんな場面を誰かに見られたら、僕にはちょっと言い訳が思い付かないし。

 かといってこんな場所に笹見・彩を、女子を置いて行く訳にはいかないだろう。

 そう、何度か述べた通り、この駅裏はあまり治安の良い場所じゃないのだ。


 だが幸い、彼女は意識を失ってた訳じゃなくて、

「……あっ、高比奈、くん?」

 身体に力は入らねど目を開き、僕を見て確認し、声も発した。

 そしてその瞳に、声に込められた感情は、恐れと、申し訳なさだろうか。


 いきなり叫ばれなかった事に、僕は少し安堵する。

 恐らく彼女には、呪いに掛かってる間の記憶は、ちゃんと残っているのだろう。

 笹見・彩の様子から察するに、あの呪いは掛かった相手の思考を誘導し、悪魔の目的に沿って動かす物だ。

 悪魔が直接彼女を操っていたならば、こんなにも簡単に僕に捕まる筈がない。


 今の悪魔は、これは少し楽観的な想像かもしれないけれど、大っぴらには動けず、或いは呪いに掛かった一人一人を直接管理するような余裕は、ないんじゃないだろうか。

 だとすればそれは、僕が付け込むべき大きな隙だ。


 笹見・彩が僕を恐れるのは、……まぁ、何となく理由は分かる。

 彼女が僕に関する噂を口にしていたのは、少しでもそれを信じる心があったからだ。

 荒唐無稽な話でも、心の奥底でもしかしたらと思うからこそ、その噂を楽しめる。

 更に言うならば、クラスメイトという多数の人間に囲まれる事で、学校という守られた環境だからこそ、僕を恐れずに噂に興じられた。


 けれども今、ここに笹見・彩と僕を遮るクラスメイトはおらず、何が起きても学校は介入してくれない。

 そりゃあ怖くもなって当然だろう。

 あの噂は間違いだらけだし、その噂を広めた件に関しても、別に僕は何とも思っていない。

 あぁ、いや、正しくは、クラスメイトであるという事以外に、彼女に対してはそもそも大して関心がないから。


 でも人は、自分を中心にしか、或いは自分を物差しにしてしか、物事を考えれないし、測れない生き物だ。

 故に笹見・彩は、僕に対して恐れを抱く。


「大丈夫? 立てる?」

 だからという訳ではないけれど、僕は殊更に穏やかに声を掛けた。

 取り乱されては困るし、何よりも脅えられたままでは話が、情報収集が進まない。


 頷いた笹見・彩を自分の足で立たせれば、彼女はその事にようやく少し落ち着いた様子で、

「あっ、あの、高比奈君、私っ……」

 何事かを、恐らくは謝罪か、言い訳か、または今回の件に関する何かを、口にしようとした。

 だけど僕は、今は首を横に振る。


「笹見さん、取り敢えず、この場所を離れようか。この辺りは少し危ないからね」

 そう、この辺り、駅裏は、何度か述べたように彼女のような普通の女の子がいるべき場所じゃない。

 単なる不良程度なら、僕が付いていればどうにかなるとは思うけれども、……ここは推定される、悪魔の居場所にも近いから。

 一刻も早く離れたかった。



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