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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
三章 いつもと違う、神隠し
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 ふと気付くと、僕は通う学び舎、七白学院の校舎の屋上に立っていた。

 時間は、正確には分からないけれど昼間だから、恐らくは吉祥婆ちゃんの所に移動した時間から、然程経ってはいないだろう。

 念の為、これまでの経緯を爺ちゃん、高比奈の家に伝えておこうとスマホを取り出し、……通話を押そうとしたところで、嫌な予感を覚える。


『何よりも絶対に会話をしない』

 どうしてだか、吉祥婆ちゃんの忠告を思い出した。

 もちろん、爺ちゃんは絶対に悪魔じゃない。

 仮に爺ちゃんを悪魔がどうこうしようとしたところで、そう簡単にやられる人じゃないし、何よりも爺ちゃんの傍には婆ちゃんがいる。


 ……のだけれど、通話の先に悪魔がいるかもしれないという、嫌な予感がぬぐえない。

 通話を何かが乗っ取るなんて、ホラーではありがちな展開だった。

 だけど連絡は、どう考えても取るべきだ。

 僕がいち早く動くとはいえ、悪魔に対して対応する手は複数あった方が良いだろう。


 少し考えてから、僕はメールの存在を思い出し、アドレス帳から高比奈の連絡先を探して、……婆ちゃんのメールアドレスを見付け出す。

 因みに爺ちゃんのはなかった。

 だから僕は婆ちゃんに、事の経緯と通話はしないで欲しい旨をメールし、スマホをマナーモードに変えてポケット放り込む。

 爺ちゃんと婆ちゃんなら、これで察してくれる筈。


 そして次は、……僕がこれからどう動くかを決めよう。

 残念ながら情報は全く足りてないけれど、幸い僕は足りない情報を勘で埋める事には慣れていた。


 基本方針は、悪魔と直接対峙せずにその目的を阻害する。

 ではその目的が何なのかといえば、今は全く不明だが、恐らくはそこに至る為の手立てとして、悪魔は呪い広めているのだろう。

 その広め方は、直接呪った者を運び手とし、二次接触で呪いを移す。


 あぁ、なんだか感染症みたいな呪いだ。

 後は確か、……呪いの運び手となった笹見・彩は、他の生徒を占いに誘導しようとしていた。

 あの時、確かに呪いを受けてしまった僕は、その占いが妙に気になって仕方なかったように思う。

 つまりそこに、悪魔がいるんだろうか。


 少し分かってきた。

 強く呪われた人間は悪魔の思う通りに動き、軽く呪われた人間は誘導されて悪魔に会いに行き、強く呪われる。

 時間が経てば、呪いを撒き散らす強く呪われた運び手は、加速度的に増えて行くだろう。


 悪魔が自分の思い通りとなる人間を増やして何を望むのか。

 それはさっぱり分からない。

 自らを信仰させて崇められたいのか。

 それとも人間達を生贄として欲するのか。

 或いは、悪魔自身が人を思い通りにする事を望むのではなく、悪魔と関わった誰かの意図の為に動いてる可能性だってある。


 ……が、その根本的な解決を図るのは僕じゃない。

 僕に悪魔と対峙する心算はなく、行うのは目的の阻害だ。

 要するにこの場合は、片っ端から呪いを払っていくのが手っ取り早い。

 幸い、今の僕には、その為の手段が吉祥婆ちゃんより与えられていた。


 もちろんこれは僕の予測に過ぎないけれど、呪いを払う手段を得てこの場所に戻ってきた事こそが、僕の予測を裏付ける根拠だろう。

 神隠しという過程を経れば、今の状況だって、既に僕にとっては何時も通りの日常だ。

 まぁやるべき事が決まったならば、さっさと動こうか。

 この場所は比較的安全の筈だけれど、時間が経てば経つ程に状況は悪化する。


 僕は守り袋から札を二枚取り出し、左右の袖にそれぞれ仕込んでから、空を見上げた。

 晴れた昼間の筈なのに、天に昇った太陽は、何時もより少し暗い。



 校内は、走らないのが学校のルールだ。

 こんな時に何をって話ではあるのだけれど、こんな時だからこそ、焦りから普段と違う行動を取れば目立つし、その動きにも邪魔が入る。

 だから僕は決して走らず、校舎の廊下を歩いて進む。


 時間帯は、どうやらまだ昼休み。

 恐らくあの直後の時間に、僕は戻されたらしい。


 校内に、呪いの気配は幾つかあった。

 ありがたい事に今の僕は、悪魔が広めている呪いに対する感覚も鋭くなっていた。

 本当に、吉祥婆ちゃんは僕がこの呪いに抗し易い加護を与えてくれたのだろう。

 

 傍らを通る上級生、虚ろな目をした女生徒の傍らを、肩が触れるか触れないかの距離で通り過ぎる。

 但し自分の肩で、女生徒に纏わり付いた呪い、汚れをこそぎ落とすイメージを強く意識して。

 僕が通り過ぎた後、ハッと我に返ったように、女生徒は辺りをキョロキョロと見回し、首を傾げてから再びどこかへ歩き去った。

 彼女が完全に見えなくなってから、僕は自分の肩を手で払い、こそぎ落とした呪いの残滓を散らす。


 そうやって昼休みの時間を使って校内の呪いを払っていると、突然最も強い呪いの気配が、校外へと出てしまう。

 つまりは、そう、この学校に二次接触で呪いを広めたのであろう人物、笹見・彩が僕の行動に気付いて逃げ出したのだ。

 恐らく呪いの元凶、悪魔に助けを求める為に。


 少し、失敗したかもしれない。

 笹見・彩はどうせ同じクラスだし、後回しにしても授業時間になれば教室で顔を合わせると、後回しにしたのが拙かった。


 ……まぁ今更悔やんでも仕方のない話だ。

 彼女が校内の呪いの数を把握してるなんて予想外だし、学校をサボる程の度胸があるなんて、僕が抱く笹見・彩のイメージとは大きくずれる。

 たとえそれが、呪いに操られての行動だとしても。

 僕はどうやら、彼女をあまり理解していなかったらしい。


 だがこのまま悪魔と笹見・彩を接触させて、いい結果になる筈もないから、……僕も午後の授業は、もうサボらざるを得なかった。




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