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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
三章 いつもと違う、神隠し
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 僕の態度に、吉祥婆ちゃんは大きな大きな溜息を吐く。

「吾郎ちゃん、貴方、少し危険に慣れ過ぎてるわねぇ。本当に、危ないから言ってるんだけど、ねぇ……」

 頬に手を当て、心底困った風に。


 そうかもしれない。

 確かに僕は、自分の身を危険に晒す事に慣れ過ぎてる。

 でも心配してくれていて、色々とお世話になってる吉祥婆ちゃんには、ちゃんと伝えたいのだけれど、僕だって別に軽々しく覚悟を決めた訳じゃないのだ。

 仮に今、目の前の出来事から逃げて安全を選べば、その後悔はずっと続く。

 結果が運良く被害少なく終わったとしても、そうすべきだと思った事から僕が逃げ出した事実に変わりはない。


 要するに僕は、誰かの為じゃなくて、自分自身の為に命を懸ける。

 これまでの神隠しもそうだ。

 ずっと高比奈の家がそうしてきたから、神隠しに遭ってるから、……だけじゃなくて、僕はちゃんと納得して命を懸けて神隠しに挑んでた。


 もちろん、毎度突然に起こる神隠しの詳細な事情は分からない。

 だけど子供の頃からの体験で、神隠しを起こす神様が僕の心に寄り添ってくれてる存在である事は、感じていたし知っている。

 だからその神隠しの目的にも、きっと僕は寄り添えると理解して、納得して挑んでいた。

 軽々に諾々と従ってる訳では、決してないのだ。

 

 目の前に提示された、するべきだと思った事から逃げずに戦う。

 何時もと何も、変わらない。


「でもそんな目をした男の子は、とめられないわねぇ。吾郎ちゃんは随分と大きくなったけれど、それでもまだ子供よ。だったら、同級生もそうなんでしょうね」

 そう言って吉祥婆ちゃんは、優しく笑った。

 それから手を伸ばして僕の頭を軽く撫でてから、

「子供が、子供を助ける為に頑張ろうとしてるのを、手助けするのが私の役割だからねぇ。吾郎ちゃん、おむすび作ってあげるから、食べて行きなさい」

 炊事場へと向かう。


 ……恐らくそれが、僕がこの場への神隠しに遭った意味である。

 単に僕の身に降りかかった呪いを解くだけならば、婆ちゃん、この場合は吉祥婆ちゃんじゃなくて、元聖女である実の祖母がいる高比奈の家でも良かった筈だ。

 むしろ広く助けを求めるなら、爺ちゃんに事情の説明ができるそちらの方が都合は良いだろう。

 しかし自らも動いてクラスメイトを助けようとするならば、僕自身にも呪いに抗える何かが必要だった。

 悪魔そのものと対峙をする心算はなくても、広がる呪いに抗えなければ、僕があの場に戻っても何の意味もない。


 おむすびは、御結びだ。

 まぁ米のおにぎりの事なんだけれど、御結びって呼称には色々と意味があると、爺ちゃんから教えられている。

 ムスヒは山に関係する神様の名前であるから、御結びは三角形なのだとか、ムスは生み出す、ヒは神を意味するだとか。

 他にも結び、つまりは縁や繋がりの意味もあった。


 吉祥婆ちゃんが何なのか、僕は正確には知らない。

 鬼女である事は見れば分かるが、それ以上は聞かなかったし。

 けれどもとても強い、神様にだって近いような存在である事は察しがついてる。

 そして吉祥婆ちゃんは、今、僕に御結びを、……もっと具体的に言えば彼女の加護を与えようとしてくれてるって、そういう事なのだろう。

 だからこそ神隠しの神様は、僕をここに運んだのだ。



 それから待つ事暫し、運ばれて来たのは、三角形の御結びが三つと、温かいお茶。

 その一つを手に取って、大きく口を開けて齧り付けば、程好い塩気と米の旨さ、海苔の香りが口に広がる

 特に具は入ってないけれど、塩、米、海苔、この三つだけで、とても美味しい。

 更にそこで一口お茶を飲めば、美味しいが優しいに変わった。


 特に空腹だった訳でもない筈なのに、僕の食べる手は止まらずに、ガツガツと御結びを貪ってしまう。

 吉祥婆ちゃんはそんな僕に、優しい笑みを浮かべながら、

「吾郎ちゃん、食べながらで良いから、聞いて頂戴ね。多分ね、今の吾郎ちゃんなら呪いは寄せ付けないし、呪われた人も吾郎ちゃんが払えば正常に戻るわ」

 減ったお茶を注いでくれる。


 あの呪いに、一体どんな不都合があったのか、僕にはさっぱり分からない。

 だけど笹見・彩の様子は明らかにおかしかったし、何より神隠しの神様が急いで避難させたくらいには危ない物の筈。

 それを寄せ付けず、また呪われた人を正常に戻せるなんて、随分と心強い手助けだ。


「でもいい? 呪いの根源である悪魔とは、できる限り直接対峙しちゃ駄目よ。悪魔はとても強い代わりに、何らかの条件が揃わないと物事に干渉できないし、その条件を満たし続ける事は難しいの」

 吉祥婆ちゃんの言葉に、僕は頷く。

 今回の件は唐突に、僕が生きる世界、時間帯で起きた、普段の神隠しとは全くの別物だった。

 でも神隠しの神様がこの場所に、僕が吉祥婆ちゃんの加護を得るようにと運んだ事で、それはもう変わってる。

 つまり今回の件は、既に僕に何とかできる物事の範疇に収まってる筈。

 そう、何時もの神隠しと同じように。


「だから相対せず、相手の目的を邪魔する事に専念なさい。それで退散させれる筈よ。それからもしも、悪魔の方から吾郎ちゃんの前に姿を現しても、すぐに逃げる。姿は兎も角、できる限り目は見ない。何よりも絶対に会話をしない。……覚えた?」

 もう一つ、頷く。

 相手の目的を邪魔し続けて、達成させずに退散に追い込む。

 もちろん相手が物事に干渉し続けられる条件を、乱せるなら乱そう。

 悪魔が出て来たら目を合わせない、可能な限り逃げる。

 何よりも絶対に会話しない。


 それが今回のルールか。

 少し難しそうだけれど、まぁやってみるより他に道はないのだ。

 指を折って確認し、僕は三度頷いた。


「ありがとう、吉祥婆ちゃん。またきっと、すぐに会いに来るよ」

 全ての御結びを平らげた僕は、指の塩気も舐め取って、立ち上がる。

 元の場所に戻される予感がした。

 訳も分からず呪われて、逃げる羽目になったけれど、ここからは反撃だ。


 僕の言葉に吉祥婆ちゃんは、やっぱりどこか心配そうで、それでも手を振って見送ってくれた。



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