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あの事件があって以降も、僕の生活は変わらない。
一時はあの例の、なんて表現したらいいのか分からないけれど、恵理が所属する予定の組織からのスカウトが僕に来てたらしい。
ただそれに関しては、話し合いの上、爺ちゃんから断って貰った。
だって基本的には、僕は恵理のような特殊な能力者ではなくて、常ならざる者への対処法を、少し知ってるだけの人間である。
確かに悪魔の事件では呪いへの対応をしていたけれど、あれは吉祥婆ちゃんの加護と、高比奈の守り神が適切に支援をしてくれたからなんとかなっただけで、何時でも同じ事ができる訳じゃない。
……うん、要するに僕が動けたのは、神隠しがあったからこそなのだ。
似たような事件があったなら、僕はやはり、自分にできる事を探して動くだろう。
それは僕の性分であると、今回の件で理解した。
でもそのできる事は、恐らく毎回、その度に違う。
能力を評価されて、適切な事件の対処に割り振るのであろう組織のやり方とは、僕はきっと相性が悪い。
恵理の事は心配だから、組織の活動に全く興味がない訳ではないけれど、少なくとも、今はまだ。
校舎の屋上で、総菜パンをかじってパックの牛乳を啜る。
誰が考え出したのか知らないけれど、焼きそばパンは今日も美味しい。
だが少し、牛乳とは微妙に相性が良くない気もする。
アンパンには牛乳が合うのだけれど、焼きそばパンにより合うのは、コーヒー牛乳じゃないだろうか。
なんて下らない事に思いを馳せてしまうくらいの、日常だ。
クラスメイト達にも何も被害は出なくて、変わらない日々を送ってる。
あぁ、いや、……笹見・彩は、僕の事に関して噂するのをやめたらしい。
だからといって僕に関する噂が消えてなくなる訳じゃないのだけれど、あぁ、それから時折、目が合えば、挨拶してくれるようにもなったか。
西野・昭は相変わらずサッカーに熱心で、僕を部活に勧誘してくる。
もしかしたら、自分はキーパーに向いてるんじゃないかなんて、少しは思わなくもないけれど、でも僕はあれ程に熱心にスポーツに打ち込める気はしない。
佐野・祥子も変わらずで、目立たないけれどもお人好し。
でもいい風に使われてるだけというよりも、本当に優しい人なのだと、周囲に認識され始めて来てる気もする。
僕が何かをした訳じゃないけれど、……あぁ、うぅん、もしかすると僕とも臆さずに話すようになった彼女の姿を見た周囲が、認識を変え始めたのかもしれない。
……まぁ、そんな感じだ。
僕が何かをしなくても、世界も、周囲の人も動き続け、変わって行く。
だけど僕が何かをすれば、その変わり方がほんの少しだけ、良くなるかもしれない。
潰した牛乳パックを紙袋に入れ、空を見上げた。
日差しは優しく、風は涼しい。
雲の流れはゆっくりで、穏やかな印象を与える。
気を抜けば、そのまま寝入ってしまいそうだ。
しかし残念ながら、昼休みは有限で、寝入れば午後の授業をサボってしまう。
次の授業は英語だから、このまま寝入ってしまいたい誘惑は本当に強いけれども……。
気力を振り絞り、身体を起こして立ち上がる。
もちろん、ゴミを入れた紙袋も忘れずに手に持って。
だって普段から危ない出席日数を、爺ちゃんのコネ、七白学院の創設者の厚意で目溢しして貰ってる身なのだから、その上で堂々とサボる訳にもいかないだろう。
そんな風に考えて、僕は、ウンっと大きくひと伸びしてから、屋上を後にした。
……のだけれども、うん、実は少し予想していたのだけれども。
屋上の扉を潜った僕が立っていた場所は、どことも知れぬ森の中。
そう、神隠しだ。
当然のように、例の事件以降も、僕は神隠しに遭っている。
これまでもそうだったように、これからも、僕は神隠しに遭い続けるのだろう。
爺ちゃんのように何よりも大切な物ができて、神様に気遣われるか、或いは果たすべき役割がなくなるその時までは。
さて、今日は、一体どんな場所に飛ばされたのか。
何が僕を待ち受けるのか。
神隠しは何時も唐突だけれど、僕は不思議と、この不思議な現象が嫌いじゃない。




