17
気付けば、辺りをびゅうびゅうと雪が吹雪いてた。
「うわ、さむっ。恵理姉、大丈夫?」
今の僕は厚手の鎧下と甲冑を纏っているとは言え、流石に吹雪の寒さは身に凍みる。
ましてや神隠しに付いて来た恵理は、僕の様な重装備を纏っても居ない。
爺ちゃんの家は、僕が普段住んでる場所に比べれば涼しいとは言え、それでも今の日本は夏の最中だ。
暑いのが当たり前になってた身体に、この行き成りの寒さは非常に厳しいものがある。
少しでも恵理の寒さを和らげようと、僕は前回の反省を踏まえて持って来た荷の中から、持って来たカイロを幾つか取り出す。
だけどそんな僕を止めたのは、その他ならぬ彼女だった。
「大丈夫。ほら」
その声と共に恵理は僕の背中、甲冑の背に手を触れる。
途端に僕の背からふわっと熱が広がって、感じていた寒さがピタリと消えた。
彼女の魔法だ。
あまりに便利な魔法の効果に、僕は驚きが隠せない。
こんな魔法が前回あったら、あんな無様を晒さなくても済んだのに。
僕は魔法と言えば敵を焼き払ったり、地形を変えたり、自分の傷を癒す為に使う物だと思い込んでた。
「大した魔法じゃないけれど、どう? マシになったでしょ」
そう言って恵理は、驚く僕の顔を見て、得意げに笑う。
ちょっとこれは本当に、魔法を使える彼女が羨ましくて仕方ない。
しかし今はそんな妬心はさて置いて、僕は一つ確信する。
どうやら今回の神隠しは恵理が、魔法使いの同行が前提となる難易度なんだと。
恵理にとっては初めての神隠しだから、祀る神も多少は手心を加えてくれるかも知れないと秘かに思っていたのだけれど、やはりそれは不敬で失礼だったらしい。
困った事に、全く容赦はなさそうだ。
「……でもこれ、どうしたら良いの?」
吹雪に視界の閉ざされている状況に、恵理は少し不安げに、僕に問う。
確かに神隠しに慣れていなかったら、今の状況は情報が皆無に等しくて、そりゃあ不安にもなるだろう。
けれども小さな頃から神隠しに遭って来た僕は、この状況でも何をするべきかは、薄っすらとではあるが察しが付いた。
まず最大のヒントはこの寒さだ。
寧ろ今の状況では、寒い位しか情報がない。
基本的に神隠しは、何らかの困り事を解決する為に行われる。
時には遊びの様な物もあるけれど、流石に武器を携え、魔法使いまで同行している時に、どうぞ遊んで下さいとの神隠しは起きないだろう。
では一体困り事とは何なのか。
それは今の状況が寒いとしかわからないのなら、その寒さこそが困り事で間違いない筈だ。
他に解決して欲しい何かがあるのなら、そもそもそれと分かる形で、その問題がある場所に送られるから。
なら次に、その寒さで何が困るのかを考えよう。
勿論、寒いと言うのはそれだけで厄介事だ。
僕も先程、身体に沁みる寒さに、それを実感したばかりである。
しかし夏は暑く、冬が寒いと言うのは、これは極々当たり前の事だった。
故に単に寒いだけなら、わざわざ神隠しが行われて、それを解決する必要なんてない。
と言うかそもそも解決の手段が存在しないだろう。
すると逆に考えると、この寒さは異常な物であり、解決の手段が存在すると言う事がわかる。
それが普段の冬よりも異常に寒く、このままでは辺りの村が凍り付いてしまう程の物なのか、それとも本来ならば春が来る時期にも拘わらず、寒さが一向に衰える様子を見せないのか、その辺りは不明だった。
だがいずれにせよこの寒さは、何者かが引き起こしている物だ。
「妖の類か、それとも魔物か。……この場所が違う時間の日本か、それとも異なる世界かがわからないから、判別は出来ないけれど、それが居る場所は明白だね」
僕はそう言って、吹き付ける吹雪に顔を向けた。
寒さが問題だと言うのなら、その発生源はこの吹雪が、冷たい風が吹き寄せる先に居るのだろう。
今回の神隠しは、間違いなくハードだ。
それが妖であれ魔物であれ、環境に大きな影響を及ぼせる存在が、弱小であろう筈がない。
また原因が間違いなく手強いだろう事だけでなく、周辺の環境も全てがハードである。
「恵理姉、今回は本当に容赦ないみたいだから、本当に頼りにしてる。早く終わらせて帰って、婆ちゃんに豚汁頼もうか」
僕の説明を真剣に聞いていた恵理は、その言葉に大きく頷く。
どうやら僕の説明は、彼女にとっても納得できる物だったようだ。
今回、僕には三つの責任があった。
先ずは何時も通り、神隠しを無事に解決する事。
……と言ってもこれは、本当に無理だと感じたら逃げてリタイヤするって手もあるから、絶対の物じゃない。
だけど他の二つは、必ず果たす必要がある。
その二つとは、恵理を無事に帰らせるのと、僕自身も無事に帰る事。
恵理の身は、当たり前だけど僕が絶対に守らなきゃいけない。
しかし僕自身も無事でなければ、彼女の心に傷を残す。
まぁ、従妹だし。
妙な後悔は、抱えさせたくない。




