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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
二章 彼の夏休み
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 僕の風邪と熱は、次の日には大分とマシになっていた。

 やっぱり食事から活力が吸収できると、回復も早い。

 誰かに風邪をうつさぬ為にもう一日はジッとしていたが、流石に三日も四日も寝てばかりいると、体力も落ちるし何より飽きる。


 だから五日目からは、寝過ぎて落ちた体力を戻す為に、軽い訓練で身体を動かす。

 一度動き始めれば、すぐに体力も戻って来る実感があったけれど、しかし日曜日の特別なお勤めは、流石にその週は無理だと判断して休むと決めた。

 特別なお勤めは何かを、または誰かを殺すし、殺されそうにもなる場合が多い。

 完全に復調してる訳でもないのなら、お勤めの為の心構えを作る事さえ困難だ。


 そんな状態で命を懸けようとするのは単なる自殺に他ならず、神隠しを行う存在、祀る神に対しても失礼で迷惑な行為だろう。

 故に爺ちゃんも僕の判断には何も言わず、ただ頷いて同意した。

 寧ろ僕がお勤めを休むと言わなければ、多分諫められて、場合によっては叱られたかも知れない。


 だけど自分の役割を果たせないのは、少しばかり気分が落ち込む。

 仕方ないと分かってはいても、決して楽しいお勤めではないけれど、サボってしまった気分になるから。


 それに前回の神隠しを振り返ってみれば、あれはあまりにギリギリ過ぎた。

 復調し、ちゃんと頭が回る様になってから考えてみれば、あの狒々との戦いはもっと上手いやりようがあった風に思う。

 勿論あの時は体力が限界に近く、判断能力も低下していただろうけれど、命が掛かった状況では何の言い訳にもならないから。

 体力が足りなかったのなら増やさねばならないし、鈍った頭でも正しい判断が下せるように、判断能力も磨かねばならない。

 己の未熟さ、足りなさを自覚させられると、やっぱり気分は落ち込んでしまう。


 しかし爺ちゃんはそんな僕を見てニヤリと笑みを浮かべ、

「あぁ、吾郎よ。来週から日曜日のお勤めは、な? 暫くは恵理と共に行って貰おうと思っておる」

 なんて意味不明な事を言い出した。


 神隠しに同行者とは一体どういう事なのか。

 また何故そこで恵理の名前が出て来るのか。

 さっぱりわからずに僕は思わず首を捻る。

 落ち込んでいた気分すらどこかに吹き飛ぶ位の驚きだ。


 そんな僕の顔を見て、爺ちゃんはしてやったりとばかりに嬉しそうに笑う。

 その笑みに腹は立ったがグッと堪えて、もっと詳しい説明を要求すると、爺ちゃん曰く、何でも神隠しには他人を連れて行けるケースもあるらしい。

 要するに武器や防具と同じく、神隠しの目的を達成する為に必要だと判断されたなら、同行者も共に見知らぬどこかに飛ばされるそうだ。

 但しそれには条件があって、神隠しに遭う本人である高比奈の当主が相手を心の底から仲間だと思っているか、或いは家来や己の所有物だと考えてる相手に限られると言う。

 以前の、高比奈の家がもっと大きかった頃の当主は、三十人もの兵を集めて神隠しに挑んだ事もあったんだとか。

 尤も神隠しと言う特殊な事態を受け入れられる素養のない者を幾ら連れて行った所で、無駄な犠牲者を増やすばかりであったそうだけれど。


「今回の件は恵理が言い出した事ではあるがな。まぁ儂と婆さんは賛成しとるよ。あの子はもう少し高比奈の意味を知った方が良い。だがな、吾郎よ。結局決めるのは当主たる吾郎の意思よ。好きな風にすると良い」

 そう言って爺ちゃんは、また楽しそうに笑って僕を見た。



 恵理、高比奈・恵理(たかひな・えり)

 恵理は僕の叔父、父より二歳年下の弟の娘だが、生まれたのは彼女が一年早い。

 婆ちゃん譲りの金髪と碧眼で、容姿も日本人離れしていて、正直な所を言えば結構な美人だ。

 爺ちゃんが恵理に少し甘いのは、きっと若い頃の婆ちゃんに似てるからだろうと思う。

 そして恵理が婆ちゃんから受け継いだのは容姿だけじゃなくて、魔法を操る才能も。

 あぁ、多分だけれど、本当は優しさも婆ちゃん譲りなんだと思う。

 最近はその優しさは僕に対して発揮されないけれど、幼い頃はそうだった。


 僕は良くは知らないけれど、恵理はそのうち異能者の集まる組織に入って、悪霊や妖と言った怪異と戦う事になるらしい。

 爺ちゃんや婆ちゃんは、その事に懸念を示してるそうだ。

 何故かと言えば、この世界で遭遇し易い悪霊や妖に関しては、異世界の魔法を婆ちゃんから受け継いだ恵理はそれだけで優位に立ててしまうから。

 それも多分、圧倒的に。


 しかしだからこそ危ないと、爺ちゃんと婆ちゃんは考えているのだろう。

 容易い戦いばかりを経験して増長していては、本当の危機に遭遇した際に成す術もなく心が折れる。

 この世界ではそんな脅威に出会う事は滅多にないとしても、この世界にだって恐ろしい怪異は皆無じゃないから。

 恵理がその組織とやらで有能さを発揮すればする程に、そう言ったどうしようもない怪異に出会う可能性は高まる筈だ。

 ……或いは人の悪意にも。


 故にどんな相手に遭遇しても決して崩れぬ心構えを、かなうならば今の間に身に付けて欲しいと、爺ちゃんと婆ちゃんは考えている。

 そう、高比奈の家が重視する心構えを。

 その為に僕が遭う神隠しに、二人は恵理を同行させたいのだろう。

 それに僕が上手く恵理をフォローして実戦経験を積ませれば、或いは僕自身の安全性も高まるだろうし。

 なのでこれは充分に理解できるし、納得も行く話だった。


 だけど一つわからないのは、何故それを恵理が言い出したのかって事である。

 聞いてもあんまり教えてくれる気がしないが、だけどそれを知らねば彼女を仲間だと思えるかどうか自信がない。

 家来や己の所有物と思い込む事なんてもっと無理だし……、さて、一体どうしよう?



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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ、疎遠になっていた相手、何なら嫌われていたとも言える相手を心から信じる事なんて、そんな短時間じゃ難しいですよね。
[一言] これはむしろ昔から一人で危険な目に合ってるのをどうにかして助けたくてもどかしくてっていう方かなぁ お兄ちゃん大好きだけど、つんけんしちゃうタイプ
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