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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
二章 彼の夏休み
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 ぐるりと辺りを見回せば、僕は大きな湖の前に居た。

 空はどんよりと曇り、空気は湿気を含んで重い。

 周囲は山々と森に囲まれていて、一本の道が湖からどこかへ伸びている。

 それから何やら、湖の奥深くに、大きくて強い何かが荒ぶる気配。


 成る程。

 何となくだが、察した。

 これよりこの地には雨が降る。

 単なる雨じゃなくて、嵐の様に強い雨が。

 そしてその雨による湖の増水に乗じて、荒ぶる何かが暴れようとしている。

 僕はそれを食い止める為に、この地への神隠しに遭ったのだと。


 まぁ手持ちの情報ではそれ位しかわからないけれども、一つ確かなのは、湖の底にで荒ぶる何かを僕が直接どうにかするのは不可能であると言う事。

 相手が何なのかはわからなくても、自分の力量位はわかる。

 幾ら今回の神隠しは武器や防具を身に着けてるとは言っても、荒れて氾濫しそうな湖を相手に勝てるとは思えない。


 ……ああ、そうか。

 自分の言葉に気付かされたが、相手はこの湖その物か。

 湖の水は雨で大きく増水し、下流で川を氾濫させて、人々の生活を脅かす。

 その災害を恐れた人は氾濫する川を蛇の神に見立て、その蛇神は上流の湖に住むのだと考えた。

 それがこの湖の底に荒ぶる物の正体だろう。


 少し考えが纏まって来る。

 だけど恐らく雨による増水だけでは下流で大きな氾濫を起こすには少し足りない。

 だからこそ蛇神は、自らの滋養を得る為に贄を呼ぶ。


 生贄と言えば人の若い娘と相場が決まっているけれど、この場合は違うだろう。

 人が生贄を出すのは、荒れ狂う何かを宥めて鎮める為。

 つまり今回の贄とは真逆の意味合いだ。

 わざわざ被害を拡大する為に、自ら生贄を差し出す馬鹿は居ない。


 なので今回の贄は人ではなく、周囲の山々から荒ぶる蛇神に惹き付けられてやって来る、自我の薄い妖達。

 僕の役割はその自我の薄い妖達が成す百鬼の行列を、湖に辿り着かせずに追い返す事だった


 ……多分。

 確証はないけれど、この推測に自信はある。


 神隠しの際に最も必要とされるのは、強さでも賢さでもコミュニケーション能力でも魔法でもなくて、状況や達成すべき目標を察する事だ。

 目標がわからなければ達成なんて出来る筈がないし、またその難易度が理解出来れば、リタイアって選択肢も場合によっては選べる。

 もう一つ付け加えるなら、その目標と自分のやりたい事の擦り合わせが出来ればなお良い。


 故に僕は自身の推測を疑わず、道を通ってやって来るだろう妖達を迎撃する準備に取り掛かった。

 婆ちゃんがくれた守り袋から札を三枚選んで、鎧の籠手の内側に仕込む。

 周囲の地形を改めて確認して迎撃する場所を定めると、やはり守り袋から一枚札を取り出して、籠められた魔法を行使する。


 発動した魔法は大地の操作。

 土を移動させて道を寸断する溝を掘り、その土を使って壁を造る。

 ついでにこれから雨でぬかるむであろう足場を、強く固める事も忘れない。


 自分の力じゃないからと、普段はなるべく使用を控えてる婆ちゃんの札だけれども、今回はそうも言ってられないだろう。

 幸い爺ちゃんの家にいる間は、婆ちゃんが直ぐに札の補充もしてくれるし。

 でもこの札を使う事に慣れ過ぎてしまえば、将来、婆ちゃんに何かあった時に困る。

 婆ちゃんはその時の事を考えて、恵理に魔法を教えているんだろうけれど、……その時に彼女が僕に協力してくれる気は、あまりしない。


 まぁ異世界の聖女である婆ちゃんが爺ちゃんの嫁に来た今の状況が特別なだけで、代々の高比奈の当主は魔法なしでもお勤めを果たして来たのだ。

 ない物ねだりは甘えである。

 そしてそんな事を考えていると、ポツリと雨粒が僕の鼻に当たった。



 キリキリと音を立てて矢を番えた弓を引き、ビュンと放つ。

 雨を切り裂き飛んだ矢は、ズドンとこちらに向かって行進する小鬼、体長が150cm程の餓鬼の様な妖を撃ち抜き滅ぼす。

 彼我の距離は、七、八十m位だろうか。

 正直な所、僕はあまり弓が上手くない。

 一応は前にも狙った方向にも矢を飛ばせるが、的に当たるかどうかは運任せと言った所だ。

 でもそんな僕でも問題なく命中する位に、こちらに向かって押し寄せる妖の数は多かった。


 幸い進行速度は然程に早くないけれど、矢筒の矢が全て命中したとしても、減らせる妖は一部に過ぎない。

 そうなると残る武器は腰に吊るした大小の刀と、懐に忍ばせた拳銃が一丁となるけれど、これ等を用いて力尽きるまで戦ったとしても、乱戦状態になれば十か二十も数を減らせれば上出来と言った位だろう。

 相手を完全に根絶やしにするなんて、到底出来る筈もない。

 更に雨はざぁざぁと音を立てて降っていて、容赦なく身体を濡らして僕から熱と体力を奪って行く。

 

 だから当たり前の話だけれど、正面からぶつかるだけでは今回の目的は果たせないし、間違いなく無駄死にとなる。

 だけど今の状況では正面からぶつかるより他に手はなく、相手の数を減らしながら少しでも長く耐えるしかない。

 そう、勿論それは今の状況ではの話だ。

 粘り強く耐えて戦いが長引けば、潮目は必ず一度は変わる。


 その為に弓で少しでも相手の数を減らす事は、地味ではあるが重要な手順だ。

 再び僕が放った矢は、狙いを違わずと言う訳ではないけれど、狙った個体の隣の小鬼を貫き、やはり一撃で滅ぼした。



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