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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
二章 彼の夏休み
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「ただいま帰りました」

 吉祥婆ちゃんが住んでる原っぱの屋敷にも劣らない、広い平屋の古めかしい和風建築である爺ちゃんの家。

 僕はそこの開かれた門を潜り、玄関に入って、胸に手を当てそう告げる。

 別にここは僕の家じゃないけれど、建前上は高比奈の当主が住まう屋敷だから。


「ご当主様、お役目よりよう無事におかえりになられました」

 廊下に胡坐をかいだ爺ちゃんと、正座をした婆ちゃんが、僕に向かって頭を下げた。

 これがまた酷く居心地の悪い、僕の嫌いな瞬間なのだけれども、高比奈の家の決まり事らしい。

 僕が外で、今の父が建てた家で暮らしてるのは、お役目、つまりは神隠しの解決の一環と言う体になっている。

 だからこうして高比奈の家にやって来た時は、お役目より戻った当主を迎える形式で、爺ちゃんと婆ちゃんは振る舞うのだ。


 ふと気付けば、廊下の向こうで金髪の少女、従妹の恵理がこちらをジッと睨んでる。

 恐らく爺ちゃんと婆ちゃんに平伏させるなんて、何様の心算だとでも思ってるのだろう。

 その意見には僕も全面的に同意するので、二人に一刻も早く立ち上がって欲しい。


「まぁ堅苦しいのは終わりにして、吾郎よ。よう来た。さ、入れ」

 僕の想いが通じたのか、スクっと立った爺ちゃんが、婆ちゃんに手を差し伸べる。

 婆ちゃんはそれにとても嬉しそうに掴まって立ち、

「ゴロー、今日は夕飯は天ぷらにするけれど、先に何か食べるかい?」

 それから僕が見てる事を思い出したのか、ちょっと照れながら誤魔化す風に、そう問うた。



 田舎での生活はのんびりとしたイメージがあるけれど、普段の家での生活よりも、爺ちゃん家での生活は規則正しい。

 まず朝は五時位に起きて、爺ちゃんに鍛錬の間に連れて行かれる。

 それから一時間半ほど訓練を受けて、朝風呂で軽く汗を流せば七時に朝食。

 朝食後はお茶を飲んだりテレビを見たりする食休みが一時間程あるけれど、八時から昼食まではまた訓練だ。


 昼食を食べて昼風呂に入ると、夕方までは自由時間となる。

 昼寝をしても良いし、夏季休暇の課題をやっても良い。

 遊びに出かけても良いけれど、この辺りは娯楽が少なく、川に涼みに行ったり、近所の畑を手伝ったりする位だろうか。

 この辺りの住人はお年寄りも多いので、手伝いをすると喜ばれるし、お土産に野菜や果物を一杯分けてくれたりするのだ。


 尤も、高比奈の若様って呼ばれるのだけはどうにも慣れなくて心地が悪い。

 しかし彼等に悪気はないのだろうし、強くやめて欲しいとも言い難く、僕は曖昧に笑ってその呼び方を受け入れている。


 小さい頃は近所の歳近い子たちと遊んだりもしたのだけれど、それも中学に上がる位までの話だ。

 中学生、高校生ともなれば、普段から顔を合わせていない人間との付き合いが遠くなり、やがて思い出す事もなくなってしまうのは、至極当たり前の話だった。

 他に歳近い相手と言えば恵理がいるけれど、彼女が僕と遊ぼうと思う筈もないだろうし。


 そう言えばその恵理だが、高校を卒業すれば実戦に出られると張り切ってるらしい。

 何でもこの世界には神隠し以外にも不思議な事は一杯あって、それ等に対処する人間も、ごく僅かだが居ると言う。

 そしてそんな僅かな人間が集まる組織に、恵理も加わっているそうだ。

 因みに僕が神隠し先から持ち帰る品々を買い取ってくれるのも、その手の組織が主となる。


 婆ちゃんは自分が魔法を教えた孫が、そんな所に首を突っ込んでは欲しくないそうだけれども、かと言って今更教える事を拒めば、恵理が実力不足で危険な目に遭うかも知れない。

 爺ちゃんには何か考えがあるようだけれども、あまり良い予感はしない。


 あぁ、話がずれたが、夕食後は再び二時間ほど訓練で、その後は風呂に入って就寝だ。

 これが月曜日から金曜日まで続き、土曜日は朝と夜の鍛錬以外はずっと自由時間で、日曜日には特別なお勤めがあった。


 日曜日には、朝も夜も身体を動かす鍛錬はない。

 だけどだからといって自由時間と言う訳でもなく、朝から全ての時間を使って、ひたすらに心構えを作って行く。

 無事に特別なお役目を乗り切れる様に、それがどんな物であっても揺らがず対処できる様に、自分に問いかけて言い聞かせる作業をするのだ。

 心を柔軟に解し、されど堅固な鎧を着込む。

 それは相反する事だから、その為には丸一日と言う時間が必要となる。


 朝と昼はしっかりと食べ、夕食は軽めに。

 風呂に入って身を清めたら、いよいよ特別なお勤めの始まりだ。



 高比奈の家でお勤めと言えば、それは当然ながら神隠しの事だった。

 しかし神隠しには自ら赴くのではなく、高比奈の家で言う所の、祀る神の意思で唐突に起きる。

 では一体特別なお勤めとは何なのかと言えば、言うなればその祀る神に対しての御用伺いの様な物。


 僕は鍛錬の間で、大河ドラマに出て来る武将の様な鎧兜を身に着けて、先ずは刀を、次に槍を、ゆっくりと振るう。

 要するにこれは、武器や防具を必要とする様な危険なお勤めがあるのなら、どうぞ今こそ遣わして下さい。

 その為の準備は充分に整っていますと、祀る神に対してアピールをしているのだ。

 懐には、爺ちゃんから渡された古めかしい中折れ型の回転式拳銃すら隠し持つ。


 銃刀法って日本の法律がどうなっているのかは不明だけれど、爺ちゃんに聞いたら捕まる事は絶対にないから安心しろと言われた。

 勿論欠片も安心できる訳がないけれど、まぁ僕の知らぬ取り決めか何かがあるのだろう。


 一通り武器を振って何事もなければ、その日は祀る神からの御用はなかったと言う事で、お勤めは終わりとなる。

 僕が普段は高比奈の家におらず、武器を持つ機会が滅多にないからだろうか、この特別なお勤めの日に、僕が神隠しに遭う確率は今の所は非常に高い。

 普段の神隠しは兎も角、この特別なお勤めで起こる神隠しは結構殺伐としてるので、僕としてはあまり嬉しくない事だけれども。


 弓に矢を番えて引く僕を、爺ちゃんと婆ちゃん、それから何故か、今日は恵理も見守っていた。

 流石に鍛錬の間の中で矢を放つ事はせず、引いた弦をゆっくりと戻して矢筒に矢を納め、周囲の景色が切り替わったのは、まさにその瞬間である。

 あぁ、どうやら今日は弓が必要になる位に、ハードな神隠しに遭うらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様が有能で助かる 人間側もシステム化してて納得 同じような家が数十軒有りそう
[良い点] 神様、ここまでハッキリと存在感があると、逆に安心してきますね。
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