第六章 《術後》
術後の痛みはないが、何故か気持ちが空しくなって、気分が落ち込む。
特に夕方がだめだ。昔に戻った気がしている。
会社の事は気になるので、パソコンは家に持ってきているが、
メールの確認と仕事の引継ぎを時々して、寝たり起きたりの生活をしている。
術後の副作用で、リンパ液がわきの下に溜まり、体が重い、
会社にはいつ行けるのか、浮腫の為行く気がしない。
このわきの下の腫れを如何にかしないといけなくなり、
病院へ電話をし、前倒しで予約日の1週間前に病院へ行くことにした。
今後、このリンパ液のドレナージの為、毎週病院へ通わなくてはいけなくなった。
あー手術が終われば、自宅療養して会社にある程度で復帰できると思っていたのに、そう簡単にはいかなくなった。
1か月から1か月半で普通は溜まらなくなると言われたが、
もう1カ月以上続いている。量は少なくなったと言っているが、、、
浮腫のある間は、午前勤務としている。
何故かとても理不尽な気がしている。
がんと診断されたが、がんと知らされる前は元気でどこでも行けたし、
仕事もバリバリできたし、友人と定期的に会って食事もしたし、
体調は頗る良かった。
なのに、手術をしたら、疲れるし、重いものは持てないし、
シートベルトは胸にあたり不快に感じるし、一番はリンパ液が溜まること・・・
これさえなければ、普通に戻れるのに、何でこんな体になってしまったのか・・・?
本当に自分はがんだったのかと思ってしまい、
悪くないのに家族にもあたってしまう・・・何でこうなってしまったのか・・・と
がんは痛みとか具合が悪くなったらもう手遅れなのだよと、早く見つかったし、
全摘して、放射線も抗がん剤治療もしなくて良かったのだと先生に言われ、
実際、一日1回のホルモンの薬を飲むだけの治療となったのだが、
やはり以前の私には戻れない気がしている。
温泉が好きで、ストレス解消に休日になると日帰り温泉に行っていたが、
さて、自分の胸の醜さを見たら、躊躇してしまった。
連休には泊りがけで行ったが、タオルで胸を隠し、丁度閑散期の為、
宿泊者が少なく、温泉も貸し切り状態で、
傷にはとても効くので何回も入ることが出来た。
体、特に胸の傷には湯船に浸かった途端染み渡った、あーと深いため息が出た。
気持ちがいい!やはり温泉が一番好きだし、体にいいのが分かっている。
また、温泉に入ることを復活させよう!胸は誰も良く見ないようだし、
タオルをかけていれば、自分自身も見なくても済むし、
少しずつ、以前の生活に戻っていこうと、思いが前向きになってきた感じがした。
只、未だ、体に自信が持てない、今まで生きてきて、
何にもこれと言って病気もせず、死ぬまで順調に行くかと思っていたのに、
この年で命にかかわる病気にかかり、手術までし、死生観が全然変わってしまった。
転移、再発、この恐怖から逃れられない。最低5年間は、経過観察となる。
その為、あまり無理は出来ないし、私のがんはストレスから来ていると思っているので、
ストレスのかかることはなるべく避けなければならない。
そして外向きの私にとって、旅行とかの計画は立てていたので、
体調を考え、実行したいとは思っているが、まだ自信が無い。
車での旅行は、もうしているけど、電車・飛行機・バスとかの移動は、
考えてしまう。
でもすごく不思議なことに、この重大なことで、1度も涙を流さなかった。
悲しいとは思ったが泣くことまで至らなかった。
やはり、他人事のようにまだ事実を認めていないのか、
こんなに体は醜く変わり、痛みと違和感が時々襲ってくるのに・・・
色々この数カ月、ジェットコースターのような日々を送ってきたのに、
絵空事のように今でも感じている。
いつになったら、現実を直視するのか、未だに自分の気持ちがわからない。
一生このままで終わることになるかもしれない。




