5話 鎚の音と、新たな出会い
※イラストは生成AIによるものです。
窓の隙間から差し込む朝日に、俺はゆっくりと目を開けた。
(……頭、痛くないな)
寝台の上で体を起こし、首を回す。昨日まで引きずっていた二日酔いは、すっかり抜けたらしい。かわりに全身を包んでいるのは、心地よい筋肉痛だけだった。
(よく寝た。体も軽いし、絶好調だ)
俺は枕元の革袋を引き寄せ、中の金貨を検めた。ずしり、と手のひらに沈む重み。昨夜の飯代と宿代を差し引いても、まだ八百ゴールド近くが残っている。
(初仕事の稼ぎとしちゃ、上等すぎる額だよな)
それから俺は、壁に立てかけた相棒へと目をやった。錆だらけの、鈍らの大剣。
(こいつのおかげでもあるんだよな、この稼ぎは)
骨董品のくせに驚くほど素直に振れて、最後はボスの突進まで受け切ってくれた。武器屋で買ったときから考えていたことだが――どうせ整備するなら、腕のいい鍛冶師にちゃんと見てもらいたい。
(BHの経験からいっても、当分は魔獣素材の良い武器なんて望めないしな)
F級依頼で相手にするのは、F級の魔獣ばかり。その素材じゃ大した武器は打てない。上等な魔獣素材で得物を組むなんて、まだまだずっと先の話だ。
(少なくともE級に上がるまでは、鉱物素材の得物で戦うのが現実的だろうな)
幸い、懐には余裕ができた。方針は決まりだ。
(よし。今日は、鍛冶師探しといこう)
*
俺は、大剣をぼろ切れでぐるぐるとくるんで担ぎ、宿を出た。昨日通りを歩いていて、すれ違う人々にギョッとされたのを思い出したからだ。
まず向かったのは、この剣を買った、あの武器屋だった。
「おう、この前の悪ガキか。なんだ、もう剣をへし折ったか」
でっぷりと太った店主が、カウンターの奥からにやついた。
「まだ折ってませんよ。ちょっと聞きたいんですけど、この辺りで腕のいい鍛冶師に、心当たりはありませんか。こいつを、ちゃんと整備したくて」
「鍛冶師ぃ?」
店主は、ふん、と鼻を鳴らした。
「貧民街の鍛冶屋なんぞ、鍋と鍬と蹄鉄を打つのが関の山よ。武器を任せてえなら平民街の工房だが……まあ、おめえの身なりじゃ門前払いだな」
(ぐ……言い返せないのが悔しい)
「そうですか……じゃあ少しでもまともそうな鍛冶屋を自分の足で探してみます」
「期待するだけ無駄だと思うぞ? ま、現実を知ったらウチの店で別の武器を買う方がましだと気づくさ」
店主の捨て台詞を背に、俺は歩き出した。
結果は、店主の言ったとおりだった。軒先に並ぶのは鍋に鎌に蹄鉄ばかり。武器といえば、申し訳程度の山刀が転がっているくらい。どこも、金物屋に毛が生えたような店ばかりだ。
(なるほどな……だから下級ハンターは、出所の知れない中古の武具を使うわけか)
新品を平民街で誂える金はない。かといって、貧民街の鍛冶屋にまともな武器は打てない。なら、死んだハンターや出世したハンターから流れてきた「実績のある」得物のほうが、よっぽど信用できる。そういう理屈らしい。
(俺の相棒も、その口だったわけだしな)
そこからは、あてどない捜し歩きだった。
昼を回ったころ、気づけば貧民街外周の壁際の路地に迷い込んでいた。
(こんな通り、余計に鍛冶師なんて見つかりそうもないじゃないか)
人通りは、いよいよまばらになっていた。軒の傾いたあばら家。ここは貧民街の中でも、ひときわ貧しい区画らしい。
――と、そのときだった。
カン……カン……
(……鎚の音?)
風に乗って、金属を打つ澄んだ音が、かすかに聞こえてくる。
(こんな活気のないところに、鍛冶屋なんてあるのか……?)
俺は音を辿って、路地の奥へと足を進めた。
角を曲がった、その先。
(……なんだ、これ)
そこだけ、景色が違った。
木とわらのあばら家が連なる通りの果てに、切り出した石を積んで建てられた、背の低い工房が唐突に現れたのだ。飾り気はまるでなく、看板の一枚も出ていない。それでも、がっしりと組まれた石壁は、周りの家々とは比べものにならないほど頑丈そうに見えた。
(明らかに周りから浮いているな)
俺は、煤けた窓から、そっと中を覗き込んだ。
赤々と燃える炉。舞い散る火の粉。その前に、岩のような背中があった。
背は低いが、恐ろしく分厚い体。丸太みたいな腕が、真っ赤に灼けた鉄を正確な律動で打ち据えている。胸元まで届く豊かな髭が、炉の火に照らされていた。
(ドワーフだ……本物の)
ドワーフ。優れた戦士と、腕利きの職人を数多く輩出する種族だ。独自の都市国家を構えているが、気質の合うヒューマンの都市にも少数が暮らしていると聞く。とはいえ、このエツァで見かけることは滅多にない。それも、こんな貧民街の外れでなんて。
(間違いない。頼むなら、この人だ)
俺は意を決して、工房の戸を叩いた。
*
「――下級ハンター、それもガキの相手はしねえ。帰れ」
戸を開けた俺に、開口一番で飛んできたのがそれだった。
(って、いきなりかよ! まだ名乗ってもいないんだけど!?)
ドワーフの職人は、俺を一瞥しただけで、さっさと炉に向き直ってしまった。取りつく島もない、とはこのことだ。
(……けど、ここで引き下がれるかっての)
俺は追い出される前にと、狭い工房の中へ視線を走らせた。薄暗い土間、炉の熱気。そして、壁際の武器掛けに――俺は、思わず息を呑んだ。
(うそだろ。なんだ、この品揃え)
片手剣、戦鎚、短槍、手斧。数こそ多くないが、どれもまっとうな造りの武器ばかり。道すがら覗いてきた金物屋どもとは、月とすっぽんだ。
(それどころか……そこらの店売り品より、よっぽど上等だぞ)
俺は吸い寄せられるように、武器掛けへと歩み寄った。
「おい、ガキ。勝手に触るんじゃ――」
「この片手剣、樋を深めに彫ってあるのに、刃厚は落としてないんですね。軽くて取り回しがいいのに、打ち合いで負けない。斬り主体の戦士向けだ」
「あ?」
「そっちの戦鎚は、打撃面をわざと小さく絞ってある。分厚い鱗の魔獣に、一点集中で衝撃を通すためでしょう。それにこの短槍――穂先が細身で、返しがない。深く刺さっても引き抜きやすい。二の突きの速さを取った、実戦向けの穂だ」
BHで、何千、何万と武器を見比べてきた。性能の裏にある「設計の意図」を読むのは、廃プレイヤーの嗜みってやつだ。
気づけば、槌の音が止んでいた。
振り返ると、ドワーフの職人が、目を白黒させて俺を見ていた。
「……ガキ。てめえ、どこの工房の回し者だ」
「ただの駆け出しハンターですよ。武器を見るのが、好きなだけで」
「ふん……」
職人は髭の奥で唸り、まじまじと俺を眺めた。それから、面倒くさそうに顎をしゃくる。
「口だけの素人じゃねえのは分かった。話くらいは聞いてやる……それで? 何の用だ」
(よし、食いついた!)
「この大剣を、整備してほしいんです」
俺は背中の得物を下ろし、くるんでいたぼろ切れをほどいていった。
錆だらけの刀身が、炉の明かりに鈍く照らされる。
その瞬間だった。
「――っ!? おい、ガキ! そいつをどこで手に入れた!」
職人が、弾かれたように身を乗り出した。
「ど、どこって……ギルド近くの古武器屋で買ったんですけど」
「貸せ!」
ひったくるように大剣を取り上げると、職人は刀身を矯めつ眇めつ、柄を、鍔元を、切っ先の握りを、食い入るように検めていった。そして、深く長い息を吐いた。
「……間違いねえ。こいつは、俺が十年前に打った大剣だ」
「えっ」
(この人が、作った本人……!?)
「銘は入れてねえが、俺の仕事は俺が一番よく知ってる。……確か、C級の戦士に売った一本だ。豪快な、いい振り手だった」
職人の声が、ふっと低くなった。
「そうかい、古武器屋に、な……あれっきり顔を見せねえと思ったら、そういうことかい」
(……その戦士がどうなったのか。聞くだけ、野暮ってもんだよな)
中古の武具ってのは、そういうものだ。前の持ち主の最期を乗せて、店の棚に流れ着く。しばしの沈黙のあと、俺は静かに口を開いた。
「……俺、ついてるみたいです。まさか、打った本人に見てもらえるなんて」
「ふん」
「この大剣、本当にいい剣なんです。刀身と柄の重量バランスが絶妙で、鈍らのくせに、驚くほど素直に振れる。それに、この切っ先の背の握り――」
俺は、逆手用の握りを指でなぞった。
「一昨日、アルミラージのボス個体とやり合ったとき、この握りのおかげで、突進を正面から受け切れました。こいつは俺の、命の恩人なんです」
職人の眉が、ぴくりと動いた。
「……ほう。ありゃあ、大剣を盾に使う人間のための造りだ。売るときに説明したって、大抵の奴は使いこなせねえ……お前さんはこれを上手く使えたみたいだな」
職人は、あらためて俺の顔をじっと見た。さっきまでの剣呑な色は、もうそこにはなかった。
「ドヴァリンだ。いいだろう、ガキ。その依頼、引き受けてやる」
「ほんとですか! テオドールです。テオでいいです!」
「錆を落として、刃を研ぎ直す。刀身の歪みを見て、狂ってりゃ矯正。柄の革は総巻き直し、留め具も打ち替えだ。刃の錆は深いが……芯までは食ってねえ。今なら、まだ十分に化ける」
(おお……プロの整備メニューだ。頼もしすぎる)
「費用は、手間を考えりゃ四百ってところだが――」
ドヴァリンは、ふん、と鼻を鳴らした。
「俺の剣を、埃の中から拾い上げてくれた礼だ。二百でいい。ただし先払い。仕上がりまでは、数日みておけ」
「二百で……! ありがとうございます!」
俺は金貨を数えて、ドヴァリンの分厚い手のひらに載せた。これで手元は六百ゴールド弱。それでも、安すぎる買い物だ。
(期待してるぞ、相棒。見違えて戻ってこいよ)
*
というわけで、大剣は数日、ドヴァリンの工房に預けることになった。
(得物がないんじゃ、狩りには出られない。さて、どうしたもんかな)
幸い、日はまだ高い。俺はその足で、依頼の下見がてら、ギルドへと引き返した。大剣が戻り次第すぐ動けるよう、手頃なF級依頼の目星をつけておこうという算段だ。
ギルドの中は、相変わらず酒場みたいな喧騒に包まれていた。
――そのときだった。
「お願いします! 登録、させてくださいってば!」
受付のほうから、必死な声が聞こえてきた。まだ幼さの残る、少女の声だ。
(……なんだ?)
人垣の隙間から覗くと、受付のカウンターに、小柄な少女がしがみつくようにして頭を下げていた。
歳は、十四かそこらだろうか。短く切りそろえた紺色の髪に、継ぎだらけの粗末な服。そして何より目を引くのが――頭の上でぴんと立った獣の耳と、腰の後ろで揺れる、ふさふさとした尾だった。
(リカントの女の子か)
リカント。獣の特徴を持つ、野性味の強い種族だ。身体能力は高いが、魔力に乏しいとされ、この都市では農奴として働く者がほとんどらしい。
応対しているのは、受付嬢のイルゼだった。心底うんざりした顔で、少女を見下ろしている。
「だから、何度言わせるの。登録料は五百ゴールド。払えないなら登録はできない。規則よ」
(五百って……俺と同じ額じゃないか。俺だけふっかけられてたわけじゃなくて、あれが正規料金だったのか)
ちょっとだけ、イルゼへの疑いが晴れた。いや、今はそれどころじゃない。
「そこを、なんとかしてよ……! 稼いだら、耳をそろえて返すから!」
「はいはい。そういうのは受け付けてないの」
少女はくるりと振り返ると、今度は近くのテーブルのハンターたちに頭を下げ始めた。
「ねえ、あたしをパーティーに入れてよ! 戦士の才があるんだから! 癒術だって、ちょっとは使えるし――」
「はっ、リカントの癒術だぁ?」
赤ら顔の男が、酒臭い息で笑った。
「猫の手を借りるほうがまだマシだぜ。魔力なしの獣人が、よく言うよ」
「ガキの子守りしながら狩りができるかっての」
「外縁の村から出てきたんだろ? 悪いことは言わねえ、とっとと帰んな」
少女は唇を噛んで、それでも次のテーブルへ、また次のテーブルへと、頭を下げて回った。
(……戦士と癒術、両方の才?)
俺は、壁の依頼書を眺めるふりをしながら、聞き耳を立てていた。
飛び交う断り文句を拾い集めると、事情が見えてくる。あの子には、戦士と癒術、二つの才があるらしい。まともなハンターがその二つを持っていれば、本来なら引く手あまたのはずだ。
(けど――「魔力の低いリカント」で、「年端もいかない小娘」で、「外縁の農村から出てきた一人ぼっち」……と)
こういう状況では、鼻で笑われるのも仕方がないだろう。むしろ、魔獣の囮にされかねない。
「お願い……! お母さんが、病気なんだよ……!」
少女の声が、ひときわ大きく響いた。
「街の癒術士様の治療代なんて、村じゃとても払えっこない……だから、あたしが稼ぐしかないの! なんだってやるよ、荷物持ちでも、なんでも――」
けれど、返ってくるのは嘲笑と無視だけだった。
やがて、イルゼが、はあ、と深いため息をついた。
「……あんた。事情は分かったわ」
その声は、意外なほど静かだった。
「でもね、ここであんたにできることは、何もない。ハンターの世界は、覚悟や事情でどうにかなるほど甘くないの……村に帰って、お母さんの看病をしてあげなさい。それが一番よ」
厳しくて、それでいて、突き放しきれない優しさの滲んだ声だった。
少女は、ぐっと言葉に詰まった。ぴんと立っていた獣の耳が、へたりと伏せられる。うつむいた小さな肩が、震えていた。
(戦士と癒術の、二重の才)
俺は、依頼書の前で腕を組んだまま、考えを巡らせていた。
(BHじゃ、癒術一本のビルドなんて誰も組まなかった。回復役こそ、魔獣に詰められたらひとたまりもないからな。自衛できるだけの戦士スキルを積んでおくのが、常識だった)
前衛が崩れても自分の身は自分で守れて、なおかつ味方を癒やせる。攻守の要になれる人材だ。
(けど、この世界じゃビルドは選べない。いくら鍛錬しても、素質がゼロならスキルは習得できないって話だ)
そして、癒術の才を持つ人間は、わざわざ命懸けのハンターになんてならない。安全な街で癒術士をやっていれば、それなりに稼げてしまうからだ。
(つまり――「自衛できる癒し手」なんてハンターは、この世界にはほとんど存在しない)
喉から手が出るほど欲しい、稀有な才能の原石が、目の前で門前払いされている。
(これを黙って見送るわけには、いかないな)
少女は重い足取りで扉へ向かおうとしていた。その小さな背中に、俺は声をかける。
「なあ、ちょっといいか」
少女は、びくりと肩を跳ねさせた。振り向いた目には、警戒の色がありありと浮かんでいる。尾の毛が、ぶわりと逆立った。
「……なによ。あんたも、あたしを笑いに来たわけ?」
「いや。取引をしに来た」
「取引……?」
きょとんとする少女に、俺は続けた。
「登録料の五百ゴールドは、俺が立て替える。返済は、お母さんの治療費を稼いで、払い終わったあとでいい。その代わり――それまでの間、俺の受けるF級依頼を手伝ってくれ。報酬は、折半だ」
「…………は?」
少女の口が、ぽかんと開いた。獣の耳が、混乱したように、ぱたぱたと忙しなく動く。
(我ながら、譲歩し過ぎかもしれないな)
憐れみの施しってわけじゃない。恩を売って、あわよくば、この得がたい素質を持つ少女を固定パーティーに引き込みたい。それが俺の、正直な腹づもりだった。
「……あ、怪しい。怪しすぎるってば、あんた」
少女は、じりっと半歩後ずさった。
「そんな都合のいい話、あるわけないでしょ。どうせあたしを騙して、どこかに売り飛ばす気なんでしょ」
「疑うのも、無理はないけどさ……」
(初対面の信用って、どうやって稼げばいいんだ?)
俺が言葉を探していると、カウンターの向こうから、イルゼがひょいと身を乗り出した。そして、少女の獣耳に顔を寄せると、俺にも聞こえるくらいの声量で、こう耳打ちした。
「……あんた、悪いことは言わないから、その話は乗っておきなさい」
「え……?」
「その少年、昨日今日の新人のくせに、アルミラージの群れをたった一人で狩り尽くしてきた変人よ。おまけに、ボス個体つきでね。性格は知らないけど……腕だけは本物」
(変人て。いや、フォローになってるのか、それ)
少女は、まじまじと俺を見た。それから山と積まれた依頼書と、イルゼの顔を、順繰りに見比べる。疑いの色は、まだ消えない。それでもその奥に、すがるような光が、確かに灯っていた。
「……ほんとに? 二人がかりで、あたしを騙そうとしてない……?」
少女の声が、震えた。
「言っとくけど、あたしリカントだよ。魔力なんて、ちょっとしかないし、癒術だって、かすり傷を塞ぐのが精一杯なんだから……それでも、いいわけ?」
「ああ、構わない。君の将来性への投資だと思ってくれ」
俺は、即答した。
少女は、大きな目をさらに見開いた。耳をぴんと立てたり伏せたりを、しばらく忙しなく繰り返して――やがて、意を決したように、深々と頭を下げた。
「……わかった。その取引、乗ってあげる」
顔を上げた少女は、まっすぐに俺を見た。
「アセナ。あたしの名前だよ……外縁の、壁際にある村から来たんだ」
アセナは、ぽつり、ぽつりと語った。流行り病で臥せったきりの母親のこと。癒術士を呼ぶ金なんて、村じゅうかき集めても届かないこと。
「あたしの癒術じゃ、母さんの病気は治せない。だから稼いで、ちゃんとした癒術士様に診てもらうしか、ないんだ」
「そうか……なら、稼がないとな」
俺は、少女に向き直った。
「テオドールだ。テオでいい。よろしく、アセナ」
それから俺は受付へ歩み寄り、金貨を数えて、カウンターの上に置いた。きっかり、五百ゴールド。
「この子の登録を、お願いします」
「……はいはい。まったく、変なのが増えたもんだわ」
イルゼは呆れ顔で、それでもどこか楽しげに、羽根ペンを走らせた。羊皮紙に、アセナの名前が刻まれていく。
(これで手元は、残り百ゴールドかそこら……初仕事の稼ぎ、ほとんど吹っ飛んだな)
大剣の整備に二百。登録料の立て替えに五百。宿代や飯代も合わせて、財布は、あっという間に軽くなった。
(でも、後悔はなしだ。金なんて、また稼げばいい)
腕のいい鍛冶師との縁と、得がたい相棒候補。この二つが手に入ったと思えば、むしろ安すぎるくらいだ。
「よし、アセナ、ついて来てくれ」
俺はそう言って、ギルドの扉を押し開けた。
外に出ると、西の空が茜色に燃えていた。傾いた日差しが、貧民街の雑踏を、まるごと金色に染め上げている。
「ちょ、どこ行くのよ?」
「俺の大剣は、さっき整備に出したばかりでさ。数日は、依頼には出られないんだ」
「う、うん」
俺は振り返り、軽くなった財布をアセナの前に掲げてみせた。
「その間は、この金でしっかり食って、体調を整えよう。それと、アセナの能力がどんなものか把握して……あとは少しだけ鍛錬をしよう。頑張ろうな、アセナ」
「……っ、うん! こっちこそ、よろしく! テオ!」
夕焼けの下、アセナは、獣の耳を今度こそ嬉しそうにぴんと立てて、初めて、年相応の笑顔を見せた。
こうして俺は、二度目のハンター人生で、初めての仲間を手に入れたのだった。
ここまでお読みいただき有難う御座います。戯演です。
ボーイ・ミーツ・ガール、やっぱり良いですよね。
もしお気に召しましたら是非ご評価いただき、気長に次話をお待ちいただけますと幸いです。




