97.今日の夕食に、お肉が登場です!
「お話し終わった?」
「お話し終わったの?」
「おわった?」
「おわた?」
カンタとリコットとちびちゃんたちが、談話室兼食堂で、あたしたちを待っていたらしい。
年長さん二人がいないね。
じゃれついてくるちびちゃんたちを抱き上げながら、2人の行方を聞くと。
台所で、お肉を焼いているらしい。
「イクミねーちゃんがよく食べるから、今日はお肉を仕入れてきたんだよ」
「へー」
子供たちだけで買い出しなんて大丈夫だったかな、とか思ったけど。
パレードを観に来る位なんだし、心配することでも無いか。
少なくとも、スラムではあたしの存在は大きく知られている。
あたしの教会の家族に手を出したらどうなるか位は、さすがに分かるでしょ?
で。
ん-子供にまで、あたしの食欲を心配されてんのか。
「オラクルの街の周囲に、狩場みたいなものはあるの?」
カンタやリコットに聞いてもしょうがないけど、何となく聞いてみる。
「ん-畑を荒らす害獣を退治して欲しいって話は、聞くことがあるよ」
「なー」
あーあるんだ。
街の周辺は、もうぎっしりと小麦や大麦畑が広がってるんだけど、その先は街道沿いに村々が点々としてるだけ。街から離れるにつれ、うっそうとした森や沼地、草原が広がってる。
当然、野生動物が住んでるんだよね。
たまに里に下りてきて悪さするんだね。うん、旧時代の動画で結構観たよ。
現代のコロニー生活では、全く考えられないけどね。
ここでは、街の近くか、そうでないかで、本当に全然違うんだよね。
って事は、馬車みたいな移動手段があれば、楽に狩りが出来そうなんだけどね。
冒険者ギルドの狩人パーティーは、そんな感じで獲物を街まで運んでいるのかしらん。
ん-でも、見つけるのも追いかけるのも、人間の足だと無理があるか。
専門の狩人は、そういう技術を持ってるんだろうね。
あたしは、向こうから襲ってきてくれないと、狩りは無理かもしれないね。
自力でお肉の調達かぁ。うむう、なんとかなんないかなぁ?
で、今日の夕食に、お肉が登場です!
「今日は、オーク討伐お疲れさまでした会、なので、いいんです!」
アリちゃんが、そう宣言してるんだから、いいんだよね。
結構な大きさの塊肉が、大きなお皿にご登場。羊肉らしい。
こういう時は、集団の一番偉い人が肉を切り分けるのが習わしらしいね。
で、マム院長が厳かに肉を切り分けて下さる。
結構、豪快な切り方で、明日に残すとか、しなくていいのね?
大きな肉の塊に、男の子も女の子も、みんな大興奮ですな。あたしもだけどね。
「俺、こんなの見たことない!」
「僕も!」
「私も!」
「わたちもー!」
「ぼ、ぼくもー!」
アリちゃんが、どんなもんだいな、お顔をしてらっしゃる。
あたしとみーよの分も、切り分けられた。
ちょっと、あたしの分、なんか大きくない? みんなの軽く3倍はありそうなんですけど?
「あなたは、いいのよ、それで」
にこやかにマム院長が仰る。
みんなも、それでいいらしい。
なによーこれじゃあたし、大食いみたいじゃないのさー
ちがうの?
そう、みーよの顔に書いてあるけど、口には出さない。
あれ? みんなそう思ってるの?
やだなーあたしだってちゃんと空気読むよ?
「さあ、頂きましょう!」
ちゃんと女神ちゃんにお祈りして。
みんな、わっとお肉に齧りついた。
あ、これ、スゴク旨い。岩塩を利かせただけの味だけど、肉自体に旨味が凝縮されている。焼き方が上手なんだね。
「肉市場に行ったら、あんた、あのオーク・キラーのとこの子だね。今夜は戦勝会なんだろ、これ、安くしとくから持って行きなって」
あらまあ、有名人も悪くないわね。
それでアリちゃん、ご機嫌なんだね。お安く買えたからねぇ。
「市場の横で、イクミねーちゃんの事、吟遊詩人が歌ってたぜ」
「ねー」
う、歌?
「異界の羽衣を身に纏いし 告死天使イクミ アギト・ナイフを振るいて 死の裁きを告げ 醜悪なる豚鬼どもを 大いに屠らん
……そんな感じだったよ、スゴクカッコよかった!」
カンタ、あんたは食べるかしゃべるか、どっちかにしなさい。
まあ、どっちもやりたいんだろうね。
異界の羽衣、かぁ。物は言いようだね。共通語理念、そんな訳し方をするんだねぇ。
あ、吟遊詩人だからか。言葉をよく知っていて、歌にする職業だから、翻訳の自由度が高いのかもね。
にしても、羽衣、ねえ?
ま、似たようなもんか。
「イクミ、お代わりですか?」
あれ、あたし、もう全部食べちゃってる?
美味すぎて、気付かなかったわ。
「いや、みんなの分があるし……」
「遠慮しなくて良いのですよ」
いや、あたし、ちゃんと空気を読める人なので……
遠慮しないで、たくさん食べて!
そういう空気が、読めちゃった。
「エールのお代わりをどうぞ」
「パンもいっぱい焼いてあるよ」
「ピクルス、お代わりする?」
な、なんでみんな、そんなに食べさせたがるの?
でも。
肉の誘惑には、後から溢れ出てくる食欲には、やっぱり勝てなかった。
出されたものを、キレイに平らげてしまった。




