94.オーク・キラー
冒険者ギルド前について、大勢の人たちが見守る前で、全員で一礼して。
ヴァラミンが、オーク・ジェネラルに向けて大きく杖を振るうと。
大きな体躯の遺骸から黒い煙が立ち上り、空へ流れて小さな雲になる。
みんなが見守る中、やがて遺骸が全て、黒い煙となり、それが全て小さな雲になり、雲から小さな稲妻が幾度か出て、そのままどんどん小さくなっていく。やがて、何も無くなってしまった。
観客がみんな、拍手と歓声を上げる。
どうやら、これでパレードは全て終わりらしい。
ふーやれやれ、無事に終わって良かったわ。
荷車の位置が結構高くて、降りにくそうなみーよを抱えて、ステップを蹴飛ばしてさっさと降りると。
「一人で降りられます!」
と、睨まれてしまった。
いいよ、そんな無理しなくてもー
ほら、ヴァラミンもシュトラムに抱えられてるでしょ?
当然ですわーみたいな顔してるでしょ?
だから、いいんだってば。んもーじゃないのよ、んもーじゃ。
危ないからねー怪我したら大変だからねー
「ご苦労だったな。よくやってくれた」
ギルドマスターが、一仕事終わった後の充実感あふれる笑顔で迎えてくれる。
「報酬の計算も終わっている。とりあえず中に入ってくれ」
お、待ってました!
っていっても、ポーター制度だから、あんまり実入りは期待してないけどね。
~ ・ ~
あたしたちが冒険者ギルドに入ると、みんな大歓声で迎えてくれた。
野良聖女ズや、みーよの昔の仲間のちょいチビやちょいノッポやごつくて鈍いのもちゃんといた。ってか、今回のポーター制度に参加した全員だね。
テーブルやイスは壁際に片づけられていて、広く使えるようになっている。
あたしたちが本隊に合流する前にはあったので、パレードに行っている間に支度してくれたんだね。
受付の後ろに、記録官だったっけ? 多分偉い立場のおじいさんが、受付嬢たちに囲まれて立っている。
ギルドマスターも、カウンターの中に入っていった。
「みんな、今回はよく働いてくれた。あれだけのオーク軍を前に、我々の死者は0人だった。人族の完全勝利、大戦果だ!」
「おー!」
「勝利だ!」
「やったぞ!」
うわ、なんかスゴイ盛り上がりだねぇ。
そっか、誰も死ななかったんだ。そりゃスゴイね。
ギルドマスターが手を抑える仕草をすると、みんな落ち着いた。
「参加者全員に、基本金貨1枚が支払われるが、獲得したオークどもの装備を冒険者ギルドで買い取り、全員に分配する。全員、追加で金貨2枚だ!」
「うわぁああ!」
「やった、やったぞ!」
「ツイテルぜ、最高だぁ!」
さっきより歓声がスゴイね。みんな滅茶苦茶嬉しそう。
3泊4日になるのかな? それで金貨を合計3枚は、30万円。まあ、美味しいお仕事ですなぁ。太っ腹だね。
再び、ギルドマスターが手を抑える仕草をすると、みんな落ち着いた。
この辺は、荒くれどもといっても、キチンとしてるんだね。
「倒したオークの数に応じて、討伐者には懸賞金が支払われる。これは当然、参加者報酬とは別物だ。オーク1頭に付き、金貨1枚になる。
レンブレンとチリチリ、いるか?」
手を挙げたのは狩人と精霊術士のパーティーだね。
「討伐数12頭、素晴らしい腕前だ!」
「おおっ!」
「さすがだ!」
少し照れた感じで、狩人が帽子を取って答える。精霊術士の方は、フードを深くかぶって、こっちは本格的に照れてるね。
あたしたちがオーク小隊を撃破した後、本隊から追撃の指示を受けてたね。それが大きいのかな?
ギルマスの話では、アイツらなら全滅させるだろうとか言われてたからね。腕前は確かなんだね。
「デン、同じく12頭だ。お前はホントにスゴイ奴だな!」
「やるなぁ!」
「すごいじゃないか!」
ものすごく照れくさそうに、全身フード、ローブのちっこいのが前に出て、ちょこんとお辞儀してすぐ引っ込んだ。
みんな、デンのローブの中身を知ってるんだろうか? 高ランクの連中は知ってるというか、知り合いだから当然、みたいな感じだけどね。
あたしは、中身なんかどうでもいい。出来る子かヘタレか、それしか基準ないもん。デンは出来る子。であれば、後はどうでもいいよ。
「次、聖女ミヨと付き人イクミ。討伐数34頭だ。お前ら本当に化けたな!」
え? そんなに?
「郁ちゃん、行こ!」
数字に戸惑いながらカウンターの前に行き、みーよと一緒にみんなの前に振り返る。
「なんかの間違いじゃないの?」
カウンターの奥の記録官に言うと、契約と隷属の管理者アストレージの名に誓って、そのような事は一切ないのだという。
ん-鑑定方法、かなぁ。致命傷じゃなくてもダメージがデカいからオッケーみたいな?
ま、いっか。
「光の女神アーリューシャイン様のお導きと加護の元、邪悪なるオークを数多く殲滅致しました。どうか、ご照覧あれ!」
みーよが杖を大きくかざすと、強い光が一瞬放たれて、スっと消えた。
みんな、感服した様子で、少し静まり返った後。
大きな拍手と歓声に、あたしたちは包まれた。
「聖女ミヨ!」
「付き人イクミ!」
「大聖女の道を歩む者、光のミヨ!」
「オーク・クイーン、イクミ!」
コラ誰だ余計な掛け声はぁ!
「オーク・キラー、イクミ!」
「オーク・キラー!」
「オークを殺すもの、イクミ!」
ああ、オーク・キラーはいいね。ぜひそれでお願いします。
「あーお前ら、今日からCランクな。帰りに受付でカードを交換して行けよ」
おっと、ギルドマスターが何か叫んでる。
「文句ある奴はいるか?」
しーん。誰もいないの?
あ、一人いた。みーよだ。
「マスター、特別扱いはご遠慮下さいと、お願い致しましたが?」
「特別なもんか。オークの小隊を撃破して、本隊をかく乱し、あまつさえ捕虜の女性たちを全員助けた奴らだぞ。大体、上級の理力を使える奴を、いつまでも低ランクに置いとける訳ないだろう?」
そういって、ギルマスは周囲をぐるっと見渡した。
「それを、低ランクだから雑用しろとか言ったヤツがいるんだってな。文句があるなら会員資格はく奪してやるぞ。俺の仕事を余計に増やすな。分かったか!」
誰も、何も、文句はなかった。
何人か、小さくなってるのはいたけど。
「ほらな。後はお前だけだ。文句あるか?」
みーよは、自分の代わりに言いたいことを言って貰って、スッキリしたらしい。
首を振って、少しざわめいて興奮が冷めやらぬ中を、元の場所に戻った。
「随分派手にやるじゃないの?」
みーよに聞いてみると。
「そうね。こういうのは必要な事なのよ」
そう、応えられた。
ふーん、そういうもんですか。ま、考えるのは、あたしじゃないしね。
「よぉし、次だ」
ニヤニヤして、ギルマスが話を続ける。
「オークコマンダーの討伐は、大金貨1枚だ。一頭は、俺だ」
ギルドマスターが、実に嬉しそうに、高らかに宣言する。
「汚いぞ!」
「職権乱用!」
「金返せ!」
冒険者たちも、分かっているといった感じで、笑いながら野次を飛ばす。
「もう一頭は、イクミが仕留めている」
え? あたし? どーだったかなー?
「マクロン閣下の星落としで、コマンダー1頭とオーク60頭、コボルト奴隷兵13匹が討伐された。閣下のおかげで、本隊の損害は最低限に抑えられた。誠に感謝する」
ギルドマスターも、他の冒険者たちも、マクロン閣下に深々とお辞儀している。
「そして、オークジェネラルの報奨金は大金貨10枚、オークプリーストは大金貨5枚だ。シュトルム、ヴァラミン、君らは我々の誇りだ!」
「うぉおおおお!」
「シュトルム、シュトルム!」
「ヴァラミン、ヴァラミン!」
「うぉおおお!」
「すげぇええ!」
今日一番の大歓声だね。
いいなぁ、あたしも本隊側に行きたかったわ。
まあ、こういうのはチームプレイなんだけど、さ。
エースパーティ、多分報酬は山分けなんだと思うけど。
ジェネラルとプリースト、コマンダー合わせて大金貨16枚。星落としで60匹(あたしは“匹”でいいと思うんだけど、ギルマスは“頭”でカウントしてるね)、金貨60枚は大金貨6枚。
それと、参加費一人当たり金貨3枚が4人分。
合計で大金貨22枚と、金貨12枚。2320万円で、合ってるんだよね?
うわぁ、ぼろ儲けじゃないですかー
オークの装備分は冒険者ギルドに引き渡しだから、これならお釣りがくると思うか、儲け損なったと思うかは、当人の気持ち次第かな。
多分、オークの装備分は、討伐の報奨金と同じ位だと思う。参加者は60人程度のはずなんで、一人頭30万チョイはいく。一人辺り金貨3枚は、妥当な線だね。
領主さまも、参加費用だけ工面してあげれば、勝手にギルドが軍隊を作ってオーク軍を退治してくれるんだから、安上がりですんだのかもしれないわね。
大人ってズルイ、と思うのか、賢いと思うのか。
んで、あたしらの報酬はオークコマンダー1匹(ホント、いたっけ?)と、オーク34匹(そんなに倒してないと思う。傷は、たっぷり負わせてるけど)。合計で大金貨1枚と小金貨34枚。後、参加費が二人で金貨6枚。
前回、オーク・アグフと分隊を蹴散らしたときは、装備分も含めての稼ぎだったんで、大金貨3枚と金貨5枚だった。
今回の稼ぎは、あれと比べると微妙といえば微妙。こんなものと思えば、こんなもの、だね。
あたしが頭の中で計算しているのを見ていたらしく、シュトルムたちが近づいてきた。
「ジェネラルとプリーストを、こっちで仕留めてしまったからな。すまない」
そんなに悪いとは思ってなさそうな顔のシュトルム。
「いいよ。巡りあわせにまで文句を言う気はないよ」
「オークプリーストに、星落としは気付かれていたのですわ。閣下をお守りするためには、私たちは本隊を離れられないのですわ」
うん、分かってるよヴァラミン。あたしも、斬り込み隊長で突っ込むほうが性にあってるし。
「それにしても、お前はすごいな。星落としの戦果と、大して変わらん」
そーかな? 閣下の星落としの方がスゴイと思うよ?
まあ、あたしの方が融通は効きやすいかもしれないけどね。
「イクミ、エラカッタ。イクミ、スゴイ」
ありがと、クチュクチュ。今までどこにいたの?
「また何かあったら、ぜひお前たちと一緒に仕事がしたい。その時はよろしく頼む」
シュトルムが手を差し出してきた。
「そんときは、こっちにも美味しい思いをさせてよね」
あたしも、きちんと握手を返した。
最初に会った時の印象の残念さは、もう無いや。
こいつ、強い。
あたしにとっては、それで十分かな。




