93.マルチ・ブレス
ギルドの外には、屋根付きの高級そうな馬車が乗り付けてあった。
2頭立てとか、なんかスゴイね。
みんなで乗り込んで、そのまま大通りを走る。
すだれで窓がふさがれているんだけど、隙間から結構な人々が辺りを埋め尽くしているのが見える。
通り沿いの建物の窓からも、人がぎっしりと身を乗り出している。
そのまま、馬車は城門をでてしばらく進むと、討伐隊のキャラバンが見えて来た。
大きな平台の馬車は、4頭立てで、荷物は3メートルを超える大きなオーク。もちろん、すでにこと切れている。武装もそのままの状態だけど、胸の辺りが鮮やかに切り裂かれている。
「アンタが、やったんだよね?」
「まあな。落星術を行使中のマクロン閣下へ斬り込んできたからな」
「んと、オーク・ジェネラル?」
「そうだ。配下のコマンダー1頭と、オーク・プリーストも一緒だった」
なによそれーそんな美味しそうなシチュエーション、アンタらで独占したの?
「星落としはオークどもも読んでいたので、術の発動中は全く動けなくなるマクロン閣下の首を狙ってくるのは当然だ。そのための俺たち護衛だからな」
あたしの顔をみるシュトルムに、おごりや自慢の表情は無かった。
淡々と、そう、淡々と説明してくれた。
「だから、お前たちが別動隊としてかく乱して貰えたのは、かなり助かった。本来なら、少なくともコマンダーは3頭、来ていたはずだからな」
「あたしが相手にして撃ち漏らした奴と、本隊自体を指揮していた奴ね?」
「そうだ。こっちに来たコマンダーは、ギルドマスターが相手してくれたんで、俺はジェネラルと1対1で殺り合えた。優秀な仲間は本当に助かる」
「プリーストは?」
「ヴァラミンが完全に制してくれた。厄介な呪いやジェネラルへの回復も含めて、一対一の完全な状態でジェネラルを相手にできた。助かった」
ふーん。
全部俺がやったんだぜ、みたいなことを言わない。
周囲への感謝を、自然に口に出せる。
シュトルム、あんたって、大人だねぇ。
「さ、パレードの始まりだ。街の人々を安心させてやろうぜ」
さわやかに微笑まれると、あたしとしても、何も言えない。
ん-本当は、あたしが仕留めたかったンダヨネ、ジェネラルちゃん、だ、なんて。
~ ・ ~
夕闇迫るオラクルの街の中で。
パレードは、本当に大盛況だった。
大通りの通路だけ開けて、ぎっしりと周囲を人々が埋め尽くしていた。
建物の上からは、たくさんの花びらが振ってくる。窓から、屋上から、ばら撒いているんだね。お願いだから落ちたりしないでね。
オーク・ジェネラルの遺骸の上で手を振るシュトルムが、何と言っても一番人気みたいね。
同じ荷車に乗るマカロン閣下と女僧侶ヴァラミンも、それぞれが手を振って歓声に応えている。
クチュクチュは、なぜかいない。こういうの、苦手そうだしね。
あたしたちと、なぜかギルドマスターはその後ろの荷車の上で手を振るんだけど、ん-捕らわれていた女性たちの荷車の天井に、急遽ステージみたいなものを取りつけて、その上で見世物にさせられてるって感じかしらん。
星落としで粉々になったんだとばかり思ってたけど、そうとう頑丈に作られていたらしくて、転がったけど形は残っていたらしい。
なんでも、あたしたちはオークどもから捕虜を奪い返した英雄、という扱いになるみたいなのよね。この荷車が、その証拠ということかしらね。
あ、もちろん、捕虜の女性たちは乗ってないよ?
ちょっと、あれは人前に出せないからね。野良聖女のアオイが、別門からこっそり街の中に入れたらしい。
この荷車、室内は滅茶苦茶臭いから、もう使い物にはならないんじゃないかと思うけどね。
と、みーよが祈りの姿勢をとり、杖が明るく光り始めた。
「マルチ・ブレス!」
杖から周囲に、光の粒が飛び出して、人々の上に降りかかった!
「光の女神アーリューシャイン様の祝福です!」
大きく杖を掲げて呼びかけると、人々から拍手と歓声が沸き起こった。
「やりますわね。では、私も」
前の荷車の上に乗る女僧侶ヴァラミンも、同じように杖を振り廻して、祝福を人々の上に注いて行く。
それに合わせて、あたしたちの後ろに繋がる馬車に乗る“音楽隊”が、軽妙な音楽を奏で始めた。
ラッパ、フルート、トロンボーン、オーボエといった吹奏楽器。
リュート、マンドリン、ヴィオラ、チェロといった弦楽器。
タンバリン、シンバル、ディンパニー、マリンバといった打楽器。
この馬車は、かなり豪華な造りで、音楽隊専用みたいね。このパレードのために特別に用意されたのではなく、こういうイベント専用として元々用意されているみたいね。
「これは、吾輩も腕を振るう必要がありそうじゃな」
マクロン閣下も自分の杖を振るって、小さな花火のようなものを空に向けて放っている。
「イクミ、俺たちも!」
シュトラムが、手招きしている。すでに剣を抜いていて、炎がまとわりついている。
アンタはいいけど、あたしにそんな派手な技は無いよ?
「郁ちゃん、これ使って!」
みーよが杖を光らせて、剣先50センチメートル位の、光り輝く小剣を2本、出してくれた。
「刃はないけど、魔法剣に反応して受け止めてくれる模擬剣だから」
なによ、あたしに二刀流をしろと?
ま、出来ないこともないけどさ。
「ギルマス、みーよのこと、よろしくね」
一応、声掛けして。
軽くダッシュして、シュトルムたちの荷馬車へ、空中で倒立ひねりを2本入れながら飛び移る。
そのまま光の剣を2本、ヤツの頭上へ叩き込む!
シュトルムめ、なんなく捌いてあたしを弾き飛ばす。
宙返りを一回入れて、着地と同時に低くダッシュ!
右回転から斬撃を入れるけど、あっさり弾かれる。
左の逆袈裟懸けも余裕で弾くの、強すぎ。
左右からの連続の突きも、その場から動くこともなく、たやすく弾いていく。
アンタ、どんだけ強いのよ!
なんて、これは見世物。お互い本気じゃないもんね。
実戦なら、あたしは剣にこだわんない。どっかで組み付いちゃう。
ま、さすがにパレードの最中に、んなことはできんわな。
と、シュトルムがアイコンタクト。
なによ、またあの炎が飛ぶ斬撃?
あ、もう構えてる。
聖龍天翔、二刀流で撃てるかしらん?
飛んできた炎の斬撃にタイミングを合わせて、あたしは2本の輝く小剣と共に、高く舞い上がる。炎は夢散していった。
輝く小剣を、技の通りに(でも相手はいないけど)3回、両手に2本あるから計6回、振るって見せる。光っている小剣なんで、思ったより派手だね。
そのまま軽やかに着地したあたしに、観客たちが大歓声!
なんたって光の小剣だもんね。
宵闇迫る中、天高く登る聖龍をちゃんと表現できてるわ。
うん、これ、気持ちいー!
小剣を握った手のまま、スカートを摘まんでカーテシーも決めちゃう。
そのまま光の小剣を宙に放り上げると、四方八方に輝きが分散して消えていった。
ひときわ大きな歓声が巻き起こる。
光の奇跡、便利だねぇ。




