92.なんか、声に威厳があるわ
昼過ぎになって。
どうやら、教会の補修工事は、今日は早めに切り上げるらしい。
あんなにたくさん、朝からパンを焼いていたのに?
「郁ちゃんが食べる分でしょ?」
「あたしの分?」
「だって、昨日も残っていた食事、全部食べちゃったよ?」
そーだっけ? 覚えてないや。
「まあ、大目に作ったから、お客様が来ても大丈夫だけどね」
「で、何で工事を早めに切り上げるの?」
「パレードを見に行くからじゃないの?」
あ、そっか。
で、あたしとみーよは、パレードに参加する側として、冒険者ギルドに向かっている。
でも、そんなに、観たいもんなの?
「周囲の村の人たちも、結構集まってくるよ。この地域の安全が掛かっていたからね。さすがに領主様も、なにか手を打たなきゃならなかったから」
「自分とこの軍隊を出さずに、冒険者ギルドに丸投げしといて、それで手を打ちましたってこと?」
「おおむね、正解。でも、オラクルの軍隊って、すごく弱いの。任せちゃうと、犠牲がスゴイことになるか、その前に軍の大半が逃げ出しちゃうわね」
へーそうなんだ。ちょっと色々分かんないけど。
「街に入る前に、門番がたくさんいたの、覚えてる?」
「あーいたね。荷車を足止めしてワイロをせびるとかいうセコイ連中が」
「あれ、一応、正規の軍隊なんだよね」
あれが?
「オラクルの兵士は、ほとんどが希望すれば入隊できる。でも、給料は塩で渡されるの。それを換金してお金を得るんだけど、相場の変動があるんで、結局は満足に支払われてはいないんだよね」
ん-それじゃ、兵士なんか、なる意味ないでしょ?
「ただ、働きが認められて近衛兵に成れれば、きちんと金貨で支払われるし、待遇も全然違うよ。それまでは、お試し期間というか、修練中の扱いだね」
うわぁ、兵士って、厳しいんだ……
「なので、軍隊でオークの集団を討伐なんて、本来ならとんでもないって話なのよ」
……ホントに大丈夫なのかな、この街。
「ちなみに、シュトルムは元近衛兵よ。将軍まで出世したって聞いてる」
あーそれはなんかワカル。性格が残念でさえなければねぇ。
「でも平民出身だから、地位が上がるにつれて色々と面倒に巻き込まれて、なにもかもイヤになったんだって」
そっか、こらえ性の無いヤツだったか。サラリーマン失格だね。
「その頃から実力をよく知っているマクロン閣下が彼を誘って、いまのエースパーティーを結成しているそうよ」
「ふーん。他の二人は?」
「クチュクチュは、シュトルムが奴隷市場でたまたま拾い上げたそうよ。
ヴァラミンは、マクロン閣下の大地への粗暴な振舞いを押しとどめるために、大地母神の教会が高位の僧職者を派遣したらしいわ」
「色々あるんだね……」
たまたま一緒になっただけなのに、ホント、色々あるのね。
~ ・ ~
冒険者ギルトに到着して、その色々ある本人たちが1階のフロアでゴロゴロしているのをみて、見る目がちょっと変わってきたわ。
「お、来たか」
こっちを目ざとく見つけて、シュトルムが手招きする。
「顔色が、だいぶ良くなってきたな」
なによマクロン閣下、面白そうなヤツが戻ってきたな、みたいな顔で見ないでよ。Dr.エニグマにそっくりだわ、その表情。
「お疲れ様ですわ。体調はいかがかしら?」
組織の命令でいけ好かない天才様の面倒をきちんと見ているなんて、サラリーマンの鏡だったのね、女僧侶。んと、ヴァラミン、だったかしら。
「モシカシテ、レベル、アガッタ?」
椅子の上に立ってエールを飲んでいるお子ちゃまサイズの小人亜人、クチュクチュが、あたしたちを見て、そんなことを言い出す。
「ああ、そうかもな」
シュトルムが同意している。そういうのって、見れば分かるもんなの?
マッチメーカーのパイロットレベルやメカニックレベルは、単純に戦歴で判断されるもんなんだけど。まあおバカではあるけどこういう分野に関しては速くて正確なコンピューターが決定するけどね。
同じだとすれば、あたしの戦歴をどこかの誰かさんが判断してる。
ん-この手の世界だと“見守っている”位かなぁ。
「レベルって、どうやって判断するの?」
招かれるまま、椅子に座りつつ、とりあえず聞いてみる。
「一番早いのは“契約と隷属の管理者アストレージ”の僧職者に喜捨を支払って鑑定して貰うことだな」
「高いの?」
「相場は金貨1枚」
10万円。うわ。じゃーいーやー
「ギルドの試験を受けて鑑定して貰う事も出来る。冒険者ギルドの場合は、レベルがある程度ないとランク認定しにくいからな。判定に不満がある冒険者は試験を受けることが多いな」
「無料?」
「いや、申請するランクによる。高ランクはそれだけ受注できる案件が増えるからな。取れるものなら取りたいというヤツも多い」
へー、そういやオーク集団討伐の時も、高ランクは下働き免除だったね。
あぁ、あたしたちはランクが下だから手伝えーとかいってたアホがいたな。
叩き潰したけど。
「試験官への依頼料が、高レベルの場合はそれなりにするからな。まあ、レベルをあまり気にするヤツはいないな」
「えー、だってクチュクチュが、レベルがどうとか」
「だって俺たち、試験官をやることもよくあるからな」
あ、そっち側なのね。
「クチュクチュは盗賊系でこの街最高のレベル。俺は剣士系で同じくこの街最高レベルだからな」
レベルなんて意味ないとか言ってる割に、結構こだわってるんじゃないの?
「お前のような格闘家は、今は不在のもう一つのエースパーティのリーダー、震雷拳のザイモンが鑑定するんだろうな」
ザイモン?
「強いの?」
「ああ、強い。一対一とか、模擬戦でも俺はやりたくない」
アンタがそういうなら、相当のもんなんだろうね。
「でも、お前はそうでもないんだろ?」
あら、判る?
「顔に書いてあるからな」
そ、そうなの?
「あいつも相当な格闘好きだからな。戻ってきたら、向こうから仕掛けてくるだろうな」
へえ、楽しみだわぁ。
「今、どこにいるの?」
「テムローの大沼沢のはずだ。あいつらは大物狙いだからな。獲物の外観を傷つけずに仕留めるのが得意なんで、沼の主である大亀を狙っている」
ふうん。早く帰ってきてね。
「話が弾んでいる所、申し訳ないのですが……」
あら、受付嬢のトロ子じゃないのさ。
んにゃ、場所によってはちゃんとおもてなしできる子らしいので、評価は変えとかなきゃダメだね。
「皆さまお揃いということで、帰投する討伐隊と合流して頂いて、宜しいでしょうか?」
「わかった。じゃ、行こうか」
シュトルムの号令で、みんな立ち上がった。
この辺、元近衛兵? 将軍? だったんだねぇ。なんか、声に威厳があるわ。




