91.お前が一番食べてるじゃねえか
新章開幕。
目が覚めると、昨日まで感じていた気怠さが、消えていた。
食べたものが、きちんと身になっている。
まだ足りない、けど、これなら動ける。
昨日は、そっか、まだ消化してなかったんだ。
今、何時?
そっと気配を探ると。
ちびたちが寝息を立てている。
リコットとアリ、みーよはいない。
昨日と同じところに、制服と防具と下着が置かれているのが分かる。
外の気配は、朝だと思う。
そそくさと着替えて、部屋を出る。
あ、パンの焼ける匂い。
台所に顔を出すと、リコットが笑顔で「試食でーす」と焼きたてのパンをくれた。
美味い。
「パン焼き、大分、慣れてきました」
こちらも笑顔のアリちゃん。たくさん焼いているのは、職人さん用だね。
「朝ごはんはあとでちゃんと出しますから」
薄い果実水といっしょにパンを流し込んで。
伸びをしながら外に出ると、元気な男の子たちが4人、待ち構えていた。
うん、4人。
シュランとカンタと、後は大型犬たち。
名前なんて、憶えてやんない。
「それは無いだろう、こんなに朝早くから真面目に通っているってのに」
「知らない、頼んでない、帰っていいよ」
ガーンじゃないわよ。弟子たち、もっと笑ってやっていいよ。
「私は、ちゃんと用事があって伺っている。昨日、大事な話をしそびれただろう」
あーうん、なんか言ってたね。
ん-、こっちは強敵。強さじゃなくて、頭の造りがねぇ。
名前も、必然的に覚えさせられたわ、マイアミ。
いや、そんな勿体ない名前じゃないよね。マイマイでいいや。カタツムリみたいに鈍いし、反撃してこないし、閉じこもりだし。
「……今、なにか失礼なことをお考えでしたか?」
「いやーべっつにー」
あちゃ、顔にでたかもしんない。
あたしは女優、女優……
自分に言い聞かせて、顔を引き締めて。
「ま、いいや。ちょうどお腹空いてたんだ。さっき貰ったパンじゃ足りないんで、君らでいいや」
「何の話だ」
「ちょうどお肉、食べたかったんだよね。二人まとめて掛かってきな。稽古付けたげる」
男たちがギョっとして、期せずして顔を見合わせる。
弟子たち二人も、大丈夫かよ、という目であたしを見る。
「なによーめったにやらない大サービスって言ってもね、一匹はヘタレ以下、もう一匹は殻に引きこもりのマイマイだもん。いっそ、君らもまとめて面倒見るよ?」
えーとか言わない。やるの? やんないの?
「さすがに、子供はやめてやれ。私としては願っても無い話だ。君は、どうするんだ?」
おーマイマイ、話が早いじゃん。やる気十分だねぇ。
「や、や、やらないわけないだろ、ちょっと待て、作戦会議をだな……」
「許すと思う? いくよ!」
なにをヘタレたことを言ってるんだ革ジャン。お前から先に頂いちゃうもんね。
構える前に両足をモロに掴んでタックル。ヒェエとか言ってんじゃないよ、スっ転ばして馬乗りからの両肩踏んづけ……
とまでは、さすがに行かない。マイアミ、ナイス牽制。
ちゃんと本気で蹴りに来てる。そうでなくちゃね。
「さっさと起きろ、次が来る。そんなにかばえないぞ」
「わ、わ、分かってる、くそっ」
そうね、立ち直る余裕位はあげる。
こっちも、まだ体が本当に目ざめてない。寝すぎたんで、まだナマってるんだよね。
「いいかな? んじゃ次行くね」
今度はマイアミに突進。案の上、防御を固めて来た。
ヤツの手甲の上からジャブを2発当てて、3発目と見せかけて、そのまま掴みにいく。
「な、なに⁈」
防御を剝がされそうになって踏ん張るマイアミに、タイミングよく諸手突き。
あたしの連続技について行けずに、真後ろに転倒した。
飛び掛かるフェイントを入れ、止めに入る革ジャンに裏拳一発。
全く読んでいなかったらしく、キレイに決まったみたい。
そのまま起き直る余地を与えずに、マイアミに今度こそ飛び掛かった。
「な、く、くそ……」
暴れるマイアミの腕を手繰って尻に引き込み、足で首元を抑え込み、あとはもう一本を腕を……掴んだ!
そのままあたしの背中をマイアミの頭に倒していけば、肉の重みで潰せちゃう。
ほれ!
「ま、まいった……」
よしよし。さて、もう一匹は?
あ、なんだ、気絶してる。
~ ・ ~
「アンタら、弱いねぇ。これじゃおやつにもなんないわ」
「面目ない」
「同じく」
朝ごはんだと呼びに来たみーよに治療して貰った革ジャン。
意地でもマイアミには治療して貰いたくないらしい。
ん-だからって、一緒に朝ご飯食べなくてもいいと思うのよね、あたし。
しかも、なんであたしの両脇に陣取ってるのよ。
まあまあ、みんな一緒の方が楽しいわよ、とかじゃないのよ院長センセー!
食費も掛かるのよ食費がー
「お前が一番食べてるじゃねえか」
う、うるさいわね、このタダ飯喰らいが!
「イクミねーちゃん、ホント良く食うよな」
「よくたべちゅー」
「たべりゅー」
君らはいいのよ。たんとおあがり。大きくなってね。
「食べながらでいいから聞いてくれ」
「なに?」
さすがに、こっちはちゃんと聞かないとダメか。あ、アリちゃんスープお代わり。
「オーク討伐隊が街に帰ってくるタイミングで、ギルド本部までパレードが開かれる。そなたたちも、参加して欲しい。聖女ミヨには、伝えてある」
そーなの? って、なんか言ってたね。
みーよにも頷かれて、話の先を促す。
「オラクルは、昔からオークどもとの諍いが絶えない街だ。そなたのような勇者を、街は必要としている。恐らく君の事は、そのように紹介されるだろう」
「みーよがいいなら、なんでもいいけど?」
「聖女ミヨは、そなたを付き人とする、大聖女への道を歩み始めた有望なる者として市民にお披露目されることになる。近々、領主さまへの謁見にも招待されるだろう」
ふーん。よく分かんないけど、みーよがいいなら何でもいいよ。
「少しだけ不安も感じるが、聖女ミヨが手綱を握っているなら、大丈夫だろう」
なーによ、その言い方は。
「昨日、きちんと話そうと思ったのだが、聖女ミヨに止められてしまった。
そなたなら、起きだしさえすれば平気なのだと思っていたのだが、彼女の観察眼の方がはるかに確かなようだ。全く、敵わないな。
君が眠った後、パレードの話を聖女殿と話しておいた」
あたしの知らないところで、そんな話になってたのね。
「みーよは、それでいいのね?」
「ええ。ただ、多分、後から厄介な事に巻き込まれるけどね」
「厄介ごと?」
「討伐隊が出発するとき、城門で大きな炎の祝福があがったでしょ?」
「うん」
「彼女が、現役の『オラクルの大聖女』を名乗っているのよ。あの娘は、他の娘がオラクルの大聖女を名乗ることを、決して許さない。だから、パレードの後は間違いなく、ちょっかいを出されるはずよ」
周囲を見ると、みんな、困った顔をしていた。
「ん-自分で名乗っているけど、みんなからは、認められていない?」
「……そうね。マム先生は周囲からオラクルの大聖女として認められていたけど、あの娘は、そういう覚悟というか、気持ちというか、ん-、まだ、そこまで成長していないのよね」
そうなんだ。ちょっとワカンナイけどね。
「ま、会えば分かるし、放っといても向こうから来るわ」
もう、覚悟を決めている。
みーよの瞳が、そう物語っていた。




