90.分かった。おいで
新章開幕。
おなか、空いた。
空腹に耐えきれずに、あたしは目を覚ました。
今、何時?
あ、そっか、この世界には時計も無いんだった。
明るさは、朝か夕方か?
部屋には、誰もいない。
あら、ブラがない。パンティは、ちゃんと履いてる。
上から毛布っぽいものは掛けられている。
毛布を被ったまま周囲を見ると、机の上にあたしの防具と制服、腰袋が揃えて置いてあった。
見ると、下着もある。しかも新品!銀灰色のトラジマ柄だ。二ャおん。
制服も、ちゃんと新しい。ってことは、みーよ、起き上がれるほど回復したんだね?
そそくさと下着を身に着けて、制服を着用。防具と腰袋も装備……
あれ? アギト・ナイフが無いや? どーしたっけー?
まだ、頭がきちんと回らない。とりあえず、誰かに聞いてみよう。
部屋を出ながら気配を探ると、外から賑やかな話し声。
行ってみると、マム院長と子供たち、親方と職人さん。
ん? 革ジャンボス?
と、ん? マイアミ?
おっと、みーよがいち早くあたしに気づいた。
「よく寝たねー」
ん-アンタも結構寝てたよ?
「イクミさん、昨日の夕方から、ずっと眠っていたんですよ?」
アリちゃん、そーなの?
「今は……」
「翌日の、夕方です」
うわー確かによく寝たわ。どうりでお腹空いてるわけだわ。
外に設置された簡易のかまどで温められたスープに、多分、教会で毎朝焼いてるんだろうな、パンを浸して食べる食事は、身体に染み渡っていった。
もしゃもしゃ食べるあたしを、みんなあきれた様子で見ている。
間に食べる葉物野菜や煮込んだ根菜類や漬物やインゲン豆の炒め物も、とても美味しかった。
出されたものを、残さず平らげていくと、まだ足りない? と聞かれた。
ん-まだ食べられるけど、無くても大丈夫、というと、ホッとされた。
あれ? 食べ過ぎた?
食後のハーブティを飲んでいると、むさい男二人が、あたしの席の前に来た。
「少し話をしても、いいか?」
「ダメ」
付け入るスキなんか、あげないもんね。
「いや、色々と聞きたいだろ?」
「聞きたくない」
絶対に、隙なんかみせないもんね。
男二人は、呆れた顔で互いを見やる。
「アギト・ナイフの事なんだが」
くそぉ、卑怯者め。
「……聞きたい」
マイアミが、ほっとした顔で話し出す。
っていっても、翌朝、ここに顔を出したら、まだあたしもみーよも寝ていて、対応したシュランにアギト・ナイフを取って来て貰って、一緒に例の武器屋に研ぎに出しに行った、だけの事だった。
預かってもいいけど、大切な武器なので、シュランに付いてきて貰ったのだそうな。
ん-その話の前に。
「なんで、ここに顔を出しに来たの?」
「なんでって、心配だから、だ」
なんでもないように言うけど。
やっぱり、やっぱりコイツ、入り浸る気満々だ!
んもーウルさいワンこは一匹でも持て余してるのにぃ!
「余計なお世話だろう。この教会は俺たちのシマだぞ。部外者は勝手に入ってくるな!」
「その話は先ほどもしただろう。私は部外者じゃない。関係者だと」
革ジャンわんこ、本能で分かるらしい。コイツは入り浸らせちゃダメな奴だと。
いいぞーもっとヤレー
ついでにお前も出てイケー
「アンタは何でいるの?」
「そりゃ、お前、じゃない、みんなの事が心配だからだ」
開き直ったな、コイツ。みんなの心配って、あんたの部下がマムちんの金貨を狙って襲撃してきた罪は消えないんだからね。
ま、スラムの連中に全身追い剥ぎさせたけどネー
「みーよは、身体の方はもう大丈夫なの?」
話を変えて、と。
そ、聞きたいことさえ聞ければ、あたしはアンタらと話なんか、したくないんだもんね。
「郁ちゃんの方こそ、どうなの?」
「そうだぞ、お前のことが心配でだな」
「そなたの身体が心配だったんだ」
くそぉ、藪蛇だったぁ!
みーよー空気読んでぇー!
あたしに話を振るんじゃないよーこんなワンこども、二匹も飼えないよー
「あたしは、ん-なんか足りない。色々足りないけど、ま、最低限動けるようにはなったわ」
食事も、睡眠も、情報も、分析も、心身も、うざいワンこどもの処理も。
あと、デンの話。そーよーなにアレ? どーなってんのよー
マムちんの娘がデンなの? は? 何それ? 聞いてないよ?
マイアミんとこと、なんか付き合いがあったみたいだけど、それ関係なの?
で、みーよは大丈夫なの? もう身体はいいの? 理力とかは戻ったの?
教会の修理はどうなってんの? 進んでるの?
んと、あたし、一日寝てたらしいけど、明日、討伐隊の本隊が帰ってくるの? なんだっけ、パレード? するんで待ち合わせ?
もうお腹空いてきた。全然足りない。お腹は間に合わせるよとか言ってみたけど、実は全く間に合ってない。まだまだたくさん食べれるよ。
お酒飲みたい。シュワッとスカッとしたい。グビグビ飲みたい。
お酒は二十歳になってから? 知るかぁー
寝足りない。まだまだ寝たい。大体、お腹空き過ぎて起きて来ただけなんで、ある程度食べたらまた眠たくなってきた。
足りん。全然足りん。色々足りん。ん-どーしよう。
ホント、最低限しか動けんわ。
「これは、まだダメだね。郁ちゃん、ここで寝る? 部屋で寝る?」
「ん-部屋―」
「分かった。おいで」
みーよに連れられて、でかいワンこみたいにノソノソと歩くあたし。
建物に入り、女部屋に着くと。
そのまま、さっきまで寝ていたベットにバッタリ。
あ、服、着替えないと……
なんか光ってる。あ、眠い。おやすみー
多分、みーよがひかりのきせきで……
そのまま、あたしは意識を失った。
(つづくっ!)
転移11日目、これにて終了。




