89.顔を、見せておくれ
思った通り、外で食事を終えて、はちみつ入りのビスケット? スコーン? を頬張っているマイアミの所に向かった。
職人さんたちも、このお菓子には夢中みたいで、気が引けるんだけどね。
ハーブティー? も一緒に添えられてる。気が利くね。
シュランとカンタが、俺たちも給仕位出来るんだぜ、という顔であたしを見る。ウンウン、後でうんと褒めてあげるよ。
マムちん、話は今じゃなくてもいいでしょ? 後にしようよ。
なんてあたしの心の声は聞こえないようで、そのままマイアミの座る席の向かいに陣取った。
食べかけたお菓子を置いて、マイアミが律義に座り直す。
ダナンは無視して食べてる。アンタ、そういうヤツだよね。
あたしはマムちんの護衛。付き人だからねぇ。
職人さんたちが、こそっと、でも耳をダンボにして(ダンボって、何? 急に浮かんできた)聞き耳を立てているが分かる。
「今回は、聖女ミヨと付き人イクミが世話になりましたね」
「いえ、命を救われたのは我々です。素晴らしい戦果を叩きだしたのも、彼女たちですから」
「右も左も分からない二人の事を見守ってくれて、ありがとう。あなたには、いつも世話になっているわね」
「大聖女マム。街の者は皆、あなたに感謝しているのです。そして、聖女ミヨには、ぜひ、あなたの名を継いで頂きたい。期待を抱いて、見守っているだけですから」
「……ありがとう」
ちょっと、マムちんがウルウルしている。マイアミ、中々やるねぇ。
「少し詳しく聞きたいのですが、付き人イクミの話では分からないところがあるのです。オークの捕虜になっていた女性たちを、全て救出したと聞いたのですが。絵空事でしょう?」
「いえ、本当の話です」
マム院長が、しばらく沈黙した。
マイアミも、自分からは言葉を発しない。
「まさか、ありえない」
「いえ、本当の事です」
マイアミは、まっすぐにマム院長を見つめた。
「私は、止める立場でしたが、止めませんでした。責任はすべて自分が取るといって、デンとイクミを送り出しました」
「な、なぜ……」
「彼女たちなら、出来ると判断したからです」
マイアミの言葉に、躊躇いは無かった。
横でダナンが、フンと鼻を慣らしたけど、それ以上は口を挟まなかった。
マムちんは、フラフラとイスに寄り掛かろうとして、背もたれが無いので落ちかかって、テーブルを掴んで何とか堪えて、下を向いて息を、そして多分心を整えた、と、思う。
「大聖女マム」
「……なんです?」
「褒めてやって下さい」
マイアミが、背後に潜むようにしているデンを、そっと押し出した。
「行きなさい、デン」
全身をフードやローブで覆っている小柄な影が、導かれるようにマム院長の元に歩いて行く。
「……デン」
「……」
足元に、跪くように、座るマム院長の前にかがむデン。
「顔を、見せておくれ」
院長がそういって、デンのフードをそっと剥がした。
抵抗もせず、されるがままのデンの顔は、半分がオークのそれだった。
髪の毛は、無い。
耳が、尖っている。
鼻が、不自然に大きい。
口が、左右に大きく裂けている。
大きな目は、少し吊り上がり気味。
肌の色は、やや青み掛かっている。
亜人。
うん、あの小人、クチュクチュと同じような、人間ではない顔。
そんなデンの頭を優しくなぜて。
「よくやりました、勇者デン。あなたは私の、立派な娘ですよ」
その言葉を聞いて。
デンは、マム院長の足にしがみついて、ワンワンと泣きだした。
「マムちんとデンって、どういう関係?」
しばらく離れそうにもないし、危害を加えそうもないので、そっとテーブルを回って、マイアミに尋ねる。
「マム大聖女が、オークどもに辱めを受けたという話は?」
「聞いた」
「その時の、子です」
「……マジ?」
「はい。オークは、エルフ以外の全ての種族と子を成すことが出来ます。大抵は心を破壊されて、肉体が壊れるまでオークの子を孕まされ続けるのですが、強靭な精神力を持つマム大聖女は、自我が崩壊することが無かった。
……そういう場合、人とオークの合いの子が産まれます」
は、はぁ……
ゴメン、ちょっと、頭に入んない。
後で、きちんと聞くわ。
~ ・ ~
泣きつかれて、子供のように眠ってしまったデンを抱きかかえて。
マイアミとダナンは、自分たちの教会に帰って行った。
帰り際、あさってには冒険者ギルド主催のパレードがあるはずなので、一度ギルド本部に集合して、帰還する本隊と合流する約束をさせられた。
いいよ、そういうのはー
断っては見たけど。
聖女ミヨが街の人々に認められるためには欠かせない。お前は彼女の付き人だろうと、またも正論を噛まされてしまった。
ん-正論、だよねえ。
どうも、こういう分野だと、マイアミに勝てないなー
向こうは大人だからねー悔しいけどさ。
職人さんも同時にお帰りになって。
街を守ってくれてありがとう、工事は張り切って進めます、と感謝されちゃったよ。
外に出したテーブルとイスを片付けて。(っていっても軒下に立てかけただけだけどね)
腰袋をアギト・ナイフごと外し、ガードグローブとエンジニアブーツを脱ぎ捨てて、そのまま何も食べないで、あたしは女部屋のベットに倒れ込む。
何か、色々ありすぎた。もう限界。無茶苦茶疲れた。
あ、制服脱がないと、みーよに叱られちゃうなーでもメンドクサイなー
あ、誰か、脱がしてくれてる。まだ寝ないでーっていってる。
ん-ゴメン、眠いー頑張る。でも眠いースゴク眠い。
これどーやって外すの? ん-脱ぎ捨てればいいんだよーいや壊れるねーんしょ、んーよし取れた。
もーいい? もー寝るよ? おやすみー
落ちるように、落下するように。
あたしはそのまま眠りに落ちていった。
(つづくっ!)




