88.また、あの子は、そんな無茶を…
あたしたちはそのまま院長室に入る。
アリとリコットに机の横を押すように命じて、マムちんもいっしょに押し始めると。
机が徐々に動いて、中から、地下に行く隠し階段が現れた!
うわぁ、ナニコレ?
人一人がようやく入れる大きさ。結構深い。
あたしがみーよを抱えて、かなりギリギリ。かがまないと頭をぶつけそう。
壁は長方形の石を組み合わせた作り。かなり丁寧。
院長が、ランタンを持って先に入り、あたしとみーよ、リコット、アリの順で続く。
4、5メートル位潜ると、少し広めの部屋に出た。
マム院長が燭台置き? にランタンを置いて、周囲を確かめる。
お墓、の雰囲気だけど、ちょっと違うね。
風が通っているから、どこかに換気口はあるみたい。
部屋の中央には、人一人が収まりそうな石棺。
右の壁をくりぬいて作られた棚には、いくつもの壺が並んでいる。
左の壁の下には、大きな水がめが4つ。
なにするの?
「付き人イクミ。聖女ミヨを石棺の中へ」
は、はい。
枕もないし、敷物もない。法服も、そのままでいいの?
さすがに懐の中身とか、抜かなくていいの?
きょとんとした顔のあたしに、ちょっと苛立つマムちん。
だってー分かんないもんは分かんないんだもーん。
説明してよー
「そのままで大丈夫です。あとは私たちがやりますから」
アリちゃんが、なんか頼もしい。そーだよね。聖女教育受けてるんだもんね。普通ならそのまま聖女デビューだったんだもんね。
いや、色々分かんないとか言ってたから、すぐは無理か。
でも、今のアリたん、頼もしいよ?
余計な事を考えながら、みーよを石棺の中に降ろす。
アリとリコット、手早くみーよの法服を脱がしていく。やっぱり脱がすんだ。
その間にあたしは、背中の帯に挟んで置いたみーよの杖を取り出しておいた。ん-マムちんに渡せばいい?
「杖は、準備が出来次第、聖女ミヨに持たせなさい」
了解だよ、マム司令官!
女の子二人の手で、キャミソールワンピース一枚になったみーよ。(いや、現代の下着は身に着けているけどね)
杖を手に握らせて、と。
マム院長は壺の中から乾燥したハーブ? を取り出して、みーよの上に掛けていく。幾種類かあるけど、配合が決まっているらしく、結構慎重な手つきだ。
「付き人イクミ。壺から水を汲みだし、注ぎなさい」
「りょーかい」
準備が整ったようで、あたしに水汲み係が仰せつかりました。
水瓶の蓋を取ると、なみなみと水が入っている。大体目安で60リットル位かなぁ?
ふんぬと持ち上げ、石棺に向けて傾ける。
「どれ位? 加減がわかんない」
「あ、あなた、一度に持ち上げなくても……合図します」
ちょっとびっくり、ちょっとあきれたマム院長の声。
水瓶に隠れて、顔が見えないんだよね。
あたし、またなんかやらかしたらしい。ま、いっか。
加減して注いて行くと、まもなくストップの合図。
様子を見ると、みーよの顔が浮かぶくらいの量だった。
杖が、ほのかに光っている。
「これで良いでしょう。あとは私が様子を見ます」
ランタンを持って、マム院長が部屋を出て階段を登っていく。
あたしも少し心配ではあるけど、こういうのは全然分かんない。
専門家にまかせるしかないので、一緒に部屋を出る。
振り返ると、みーよの持つ杖が、寂しそうに周囲を薄く照らしていた。
~ ・ ~
全員、階段を登り、机を元に戻した。
「改めて、お帰りなさい。報告を伺います」
マムちんが定位置に座り、両脇をアリとリコットが固める。
なんか、君ら、雰囲気が変わったよね?
ん-、聖女見習いの自覚が出てきたというか、覚悟が出来て来たというか。
ま、雰囲気が変わったのは、あたしたち、というか、みーよもだけどね。
「オーク集団の討伐は、ほぼ成功したと思う。あたしたちは、みーよがあんなんだから、マクロン閣下のパーティーと一緒に転移術で先に街に帰って来たよ。本隊は、あさっての昼頃か、夕方には戻ってくると思う」
「分かりました。聖女ミヨと、付き人イクミの戦果について、報告しなさい」
「あたし? みーよがいないとなんにもできないんで、二人一緒って事にしてね。本隊に向かってきたオーク小隊を先にかく乱、殲滅。16匹討伐は間違いないと思う。で、本隊同士の決戦でも、デンに誘われて斬り込み隊長をやったよ。こっちは、致命傷までいったのは2、3匹かなぁ?」
3人が、顔を見合わせている。
「も、もう少し、詳しく聞かせて頂いても?」
「ん-デンとかマイアミに聞いた方が早いと思うよ。あーオーク軍本隊には、捕虜の女性たちをデンと二人で救出したんで、あんまり暴れられなかったんだよね」
「あば、暴れるって……」
この子は何を言っているの? という顔をされてる。
「んと、閣下、あ、魔法使いね? 星落としがくるから、時間があんまりなかったんだよね。無理かなーと思ったんだけど、デンが引かなくてさ。時間稼ぎとかしてたんで、そんなに稼げなかったんだわ」
何匹も戦闘不能にはしたけど、致命傷にはなってないもんね、あれじゃ。
やっぱ、オークは殺してナンボだと思うよ?
「で、みんな来てくれて、捕虜も助けたけど、星落としも来ちゃって、みーよが上級の、ん-なんたっけ、スゴイ光の障壁で、みんなを守ってくれたの。あれがなかったら、みんな死んでたね」
アハハと笑うあたしを、なんだコイツ、みたいな顔で見守る3人。
「で、みーよが理力切れ。でも、野良聖女の一人に力を分けて貰って、あたしはお着換え。みーよが完全にダウン。その子も、あたしの治療が終わったらダウンしてた」
「また、あの子は、そんな無茶を……」
ため息をついて、でも、なんか嬉しそうなマムちん。
少し考えて、あたしにさらに聞こうとして、聞いても無駄だと思い直して、一緒に来てる他の冒険者、そうだマイアミに聞けばいいと思いついて。
ホント分かりやすいね、マムちん。
「話は伺いました。休んで欲しい所ですが、もう少しだけ同行しなさい」
「いーよー」




