9.あたしみたいにドヤ顔でいなさいよ
シャワーがあまりに快適すぎて、水を使い切っちゃった。みーよ、入るつもりだったかしらん。ごめん。
バスタオルも完備されてて、なんかもう、アウトドアキャンプじゃなくてアーバンキャンプな気分。
新しい制服にお着換えして、気分スッキリ。
「おまたせー」
「うん。ごはんできてるよ。レトルトだけどね」
いつの間にご飯なんて用意したの?
「大したことしてないよ? 簡易コンロでお湯沸かして、レトルト温めただけ。郁ちゃんはレトルト温めたお湯で飲み物作っちゃダメ派?」
「んにゃ」
もったいないでしょ、折角、温めたお湯が。
あーそーか、キレー好きは嫌がるのか、そーいうの。
あたし?
んなもんは元々持ってないわ。
みーよこそ、そー言うこと言い出しそうなお嬢様だと思ってたんだけど。
たくましくなったのか、やさぐれちゃったのか。
ま、あたしはどっちでもいいよ。
みーよが、ささっと軽量な金属食器に盛り付けてくれたレトルトカレーと白ご飯は、なんかもう、めちゃくちゃ美味しかった。
折りたたみ椅子も折りたたみテーブルも、用意周到。さすがみーよ様!
こういう野外で、シャワー浴びて着替えて温かいカレー食べるのって、なんかもう、イイ! サイコーに、イイ!
しかもちゃんと制服だし。あたしらしいし。あたし好みだし。
このちゃんと感が、残り少ないジョシコーセー生活を満喫してるっぽくて、タマラナクいいのよ、みーよ理解ってるわー!
みーよが自分の分を用意して、今まで温めていたお湯でインスタントコーヒーも淹れてくれる。
「で、これからどーする?」
このまま現実世界に帰れたらいいんだけど、そういうわけには行かなそうだね。
「ん-、一旦は街に帰らないとね。依頼失敗にはならないんだけど、村の様子とか報告しないとだし」
ちょっとつまらなさそうに、うつむきながらみーよが答える。
おっと、そう答えるのかー
「みーよ、あんた、すっかりコッチの人になっちゃったんだねぇ」
「そーお?」
だって今までのみーよだと、パニックになって何もできないで動けなくなってそうだし。
「そーかもね。生きていくって、大変だからね」
まーね。
「で」
「なに?」
「郁ちゃん……」
なによその頼みづらそうな顔は?
一緒に来て欲しいんだけど、とか?
いや、付いて来ないで、とか?
それは、ないか。
ん?
「……わたしと、契約して、欲しいんだけど」
「なんの?」
「んと、えと、あの、その……」
すっごく困ってそーな、みーよ。
何で照れてんの? 告白?
あーあれ、照れるよねージョシコーセーって感じよねー
そーいえばあたし、告白って、言葉より身体が先に動くタイプだったかも。
それで父ちゃんにしこたま叱られたんだった。
しこたま? ってなんだっけ。
どっかでなんか聞いたようなセリフだったような、人名だったかしらん。
どこで観たんだったなーまーいいやそれどころじゃないしね。
「いいよ」
「え?」
「みーよの頼みだもん。なんだっていいよ」
「え、いや、もっとちゃんと考えて、ってか、先に話を」
「なんでもいいよ。みーよだもん」
あたしは胸を張って答える。
「あんたは考える役。あたしは身体が先に動く役。役割分担出来て、いいじゃん」
なんか、そんなドラマ、あったと思う。
それ、間違ってないと思う。
「なによ、その笑顔……」
みーよなんで泣いてんの?
ここ、泣くところ?
あたしみたいにドヤ顔でいなさいよ。
……ドヤ顔って、なんだっけ?
みーよの話では、聖女様は自分を守り、手足のように使える、そういう「お付きの人」がいなければ、話にならないのだそうで。
そもそも、自分の身を守れても攻撃が出来ないのであれば、囲まれて待っているだけで終わってしまうのだそうで。
で、そういう人いませんかーいませんよー状態が長く続いていて。
すっごく、困っていたのだそうです。
「どん位困ってたの?」
「この世界に来て、聖女に認定されて……」
「うん」
「それから、ずっと」
「ずっとって、どれ位」
「……か月」
「ん?」
「……か月」
「ゴメン聞こえない」
「ろ、ろ、ろく……かげつ」
半年?
んと、学校に来てるけど、お友達がいなくて、なんやかんやいじめられて半年、って感じ?
さすがにそーいうのはあたしの耳にも入りそうだけどなー
あ、ここ異世界だった。
ええっと、現実世界であたしがドーリング中に、みーよがいなくなって、試合が終わってみーよがいない事に気づいて、探して、Dr.エニグマに招かれて、あたしがこの世界にやってきて。
まだ、3,4時間ってとこ?
時間の間隔、どーなってんの?
でも、みーよはそういう冗談言う人じゃないし。
ってか、顔が真面目。大真面目。
これは、とりあえず話を合わせた方が良さそうだね。
「んと、半年間、一人で頑張ってた、って感じ?」
「いや、さすがに、それは無理なので」
「うん」
「野良聖女として、パーティー組んでもらってたよ」
野良聖女?
また、ヘンな単語が出て来たな。聞いたことないよ?
野良、ノラ、のら……
んーあたしの例の変な記憶にも出てこない。
まあ、異世界だし、しょーがないか。
「野良聖女って、何する人なの?」
「わたしの身を守ってもらう代わりに、さっきみたいに魔物の浄化とか、亡くなった人の葬儀とか、戦利品の保管や管理とか、キャンプの支度とか」
「ん-雑用?」
「……はい」
そんなに小さく縮こまらなくったって。
「報酬は?」
「あるときは、無いし。無いときは何にもない」
「それじゃなんにもないのと同じじゃない?」
「……そうともいうかもしれない」
しれないって……
「戦利品は女神さまにお願いして預かれるんでしょ?」
「ま、まあ。でも、街に戻って引き出したら、みんな持ってかれちゃう」
「なんで?」
「お勤めご苦労、とか言われて」
「は?」
報酬ってか、分け前は?
「だって、逆らったってヒドい目に合わされるだけだし」
いやいや、信義とか仁義とかあるでしょ。ちょっとヒドくない?
「あんな危険なところまで連れて行ってあげたんだから、それが報酬とか言われちゃうの」
連れて行ってあげたって……
あ、あたし、なんかソイツらにムカついてきた。
みーよに、こんな顔させるなんて。
あーそう、アンタらがそーいう態度取るなら、自分らも同じようにされたって構わないんだよね。
「ソイツらの顔と居場所、分かる?」
「分かるけど、いや、ダメだよ仕返しなんて」
「なんで?」
「だって、わたし、野良聖女だし……」
「ん-野良はダメなの?」
「ダメだと思う。聖女が付き人無しっていうのが、そもそもおかしな話なの。信徒も全くいないし」
そーなの?
よくわかんないけど、付き人がいれば、話は変わるんでしょ?
誰かいそうなもんだけど?
「付き人は、聖女が死ぬと一緒に死んじゃうの。でも、付き人が死んでも聖女は死なない。わたしみたいにすぐ死にそうな野良聖女の付き人をやってくれる人なんて、いないよ」
へーなんか面倒な話ね。
「よく分かんないけど、そういうことなら誰も聖女なんてやらないんじゃないの?」
「お貴族様の令嬢とかには、人気がある職業なのよ。あの人たちは元々家来がたくさんいるから、付き人に困ることはないわ」
フムフム。で、みーよは貴族じゃないから、付き人のなり手がいないのね?
「話は分ったわ。じゃあ、遠慮なくあたしを付き人にしてよ」
「え、いや、本当にわたしが死んだら郁ちゃんも死んじゃうんだよ? そんなのダメだよ」
「みーよが死なないように守ればいいんでしょ? 任せといてよ」
「だって……」
「だってもなにもないよ。みーよが助けてって言ったら絶対助ける。約束したでしょ?」
ほらまた泣くぅ。あんたそんなキャラだったっけ?
「ごめん、分かった。お願いする、お願いします、わたしの付き人になって下さい」
「いーよ。なにすればいい?」
みーよはあたしの前に、例のポーズで前かがみになり、杖を突きだす。
んーこの杖の下に頭を寄せればいいのかな?
自然と、あたしもみーよと同じような前かがみになる。長身のあたしでも杖の長さがあるので、ぶつからなくてすむわ。
みーよの、よくわからない祈りの言葉とともに、杖の先端が光り出す。
みーよが、片手を伸ばして、あたしの左の胸に触れる。
と、そのまま手があたしの中にめり込んでいく!
痛みは無い。無いけど、なにこれ⁈
あ、心臓に触れられている。優しく撫ぜられて、そのまま手が離れていった。
あたしの心の中に、ちょうど、みーよが触れた心臓の辺りから、声が聞こえる。少し年上の女性の声。ちょっと高音域。
しいて言えば、少し上ずった感じの声。もしかして、緊張してたりする?
「近野郁美。汝は光の女神アーリューシャインの名のもとに、聖女樫崎美代子の付き人として、その身を捧げると誓いますか?」
アハ、結婚式みたいね。
「誓います」
「これより、汝は聖女樫崎美代子の付き人である」
すっと光が消えた。声も消えた。
「終わり?」
「終わり」
そのまま、みーよはあたしに抱き着いてきた。おーよしよし、頑張ったね、みーよ。
もう一人にはしないよ。あたしが守ってあげるからね。




